【記者座談会 鉄鋼この1年】〈(1)総論(上)〉需給ひっ迫、高炉業績改善 普通鋼電炉、品種で明暗分かれる

D 世の中を見渡すと、上場企業の業績は改善が相次いでいる。改善どころか利益拡大。今年度の純利益合計額は2年連続で過去最高になる。各社別では4社に1社が過去最高の見通しだ。

C 鉄鋼業界も昨年度に比べると業績は回復しており、高炉大手でようやく2千億~3千億円の経常利益を稼げるレベルには戻ってきた。ただ国内の他業種と比べても、また韓国ポスコなど海外鉄鋼大手と比べても、収益水準はだいぶ見劣りするなあ。

A 高炉メーカーが目標として掲げるROS(売上高経常利益率)は10%だが、今はやっと5%台。この先も老朽設備の更新負担が増えることを考えると、これでは投資資金を賄えない。

F 上場企業の平均ROSは、今年度にバブル崩壊後、初めて7%台になる。上期平均は7・8%だった。各業界で再編や設備淘汰など構造改革を進めたところに、世界景気の回復が後押しする格好だ。

B 鉄鋼での一番の焦点は、高炉大手の単独業績がどうなるか、だった。新日鉄住金は2016年度の単独営業損益が赤字。旧新日鉄時代から数えて5度目となる赤字だったが、過去4回はプラザ合意、バブル崩壊などマクロ経済に起因していた。それが昨年度は鉄鋼原料価格に振り回された鉄鋼固有の要因で赤字になった。そうした現象は初めてと言ってもいいくらいだ。

F JFEスチールは15年度、16年度と2年連続で単独経常赤字だった。今年は両社とも黒字化見込みだが、これだけ需給ひっ迫している中で、世界トップ級の鉄鋼メーカーとしてはまだ不十分なレベルだろう。

C 鉄鋼需要は旺盛。供給タイトで、需給は品種間のばらつきはあるけれど、総じてひっ迫している。在庫も多くない。業界内からも「これだけ環境が良いのは久しぶり」との声が多く聞かれる。「来年は、もっと良くなりそうだ」と。

E 本紙がまとめた鉄鋼メーカーの上期業績ランキングを見ると、上期に過去最高の経常利益を更新したのは大同特殊鋼、愛知製鋼とJFE建材。特殊鋼メーカーは軒並み好業績だった。

D 特殊鋼の向け先である自動車、建産機などの需要が堅調だ。鉄スクラップなど原燃料価格は上昇したが、販売価格是正で対応した。数量増とコストダウン効果が利益を押し上げたが、一番効いたのは数量効果だ。

B ステンレスメーカーも軒並み堅調。堅調な需要に支えられ販売数量が伸びた。前年はニッケル安による在庫評価損が生じたが、これが解消したことも増益に寄与したね。操業安定度の差が収益の差につながった面もある。

G 鉄鋼メーカーランキングには入っていないが、総合商社も資源高の恩恵で高収益だった。三菱商事は通期純利益が過去最高となる5千億円の見通しだ。

B ほかに本紙に決算記事が掲載された企業の中で、上期に経常利益が過去最高となったのは山九、横河ブリッジホールディングス、三和ホールディングスだった。

E 業績改善ムードの中で、鉄筋メーカーの業績が悪いのが目立つ。特に鉄筋専業は厳しいし、地域で言えば関東のメーカーが厳しい。

A 商社には過去から関東の商慣習になっている指定鉄筋制度がメーカーの採算悪化に影響しているという意見があるよ。

C それが直接的な理由とは思わないな。制度は安定供給や品質維持で一定の役割を果たしており、メーカー側にも意義を感じている人が多い。一番の理由は、関東はメーカー数が多く、競争が激しいからじゃないか?

F 鉄筋メーカーは契約期間が長く、その後の鉄スクラップ価格で業績が大きく左右される。関東は物件規模が大きいことに加え、人手不足や施工管理の厳格化で工期がずれ込み、結果的に契約残が積み上がった。ゼネコンは潤っているが、原料高で鉄筋メーカーだけが苦戦している状況だ。

B 確かに電炉の中でも、H形鋼や薄板、厚板を手掛ける電炉はまずまずだが、鉄筋だけが悪い。

A メーカーだけじゃない。商社も同じだ。同じ商社の建材部門を見ても、形鋼部隊はまずまずだが、棒鋼部隊が厳しい。形鋼に強い建材商社は比較的堅調な動きだが、棒鋼主体のところは収益がいまひとつだ。

D 忘年会に出る機会が多いが、鉄鋼業界人の顔が明るい。今の良好な環境の要因は何だろうか。

F 最大の要因は、やはり中国が落ち着いていることだ。中国の内需が堅調で、輸出が前年に比べて大きく減っている。

B 安全性に問題のある違法な地条鋼が淘汰された影響が大きい。これまでは統計の枠外に、6千万トンとも8千万トンとも言われる数量があったんだからね。日本の内需に相当する規模なんだから、恐ろしい。

E 地条鋼の生産が、統計内の正規の生産に置き換わった。その分の供給能力が削減されたと言えるわけで、需給安定の背景となっている。

D 中国で環境規制などが厳しくなっていることも大きいよ。環境要因がネックとなって、鉄鋼メーカーの生産が抑制されている。以前は冬場の一時期のことだったが、今はその時期に限らず、中国ミルは常に環境規制を気にしながら操業するようになっている。

G 東南アジアも底打ちした感がある。特にタイやインドネシアなど。WSA(世界鉄鋼協会)のまとめによると、地条鋼の影響を除いて、17年は世界全体の鋼材需要が4千万トン、率にして3%程度伸びている。供給が減る中で需要が伸びているんだから、需給がタイト化する方向に動くのは当然だ。

A 日本のメーカーや商社が相次ぎ進出しているベトナムもいい。5月に高炉に火入れした高炉一貫のFHS社も、良い時期に立ち上がった。少し大げさに言えば「今つくれば飛ぶように売れる」そうだ。

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