【特集】ウオッカだけじゃない! ロシア食品企業が熱烈PR

ベリョーフ・パスチラを持つニコライ・セメルニャさん

 ロシアの食品と言えば何を思い浮かべるだろうか。度数の強い蒸留酒ウオッカに、チョウザメの卵でその希少性から黒いダイヤと呼ばれるキャビア…。何かステレオタイプなイメージしか持たない人が大多数では。そんなイメージを打ち破ろうと、ロシア企業の輸出促進を目的にプーチン大統領の肝いりで発足した「ロシア輸出センター」が、東京都港区で企業向けのロシア食品見本市を開いた。

 これまで中国、ベトナム、インド、アラブ首長国連邦などで同様のイベントを行ってきたが、日本では初開催。筆者も参加、試食も行ったが、そこで出てきた「ロシアの味」とは?(共同通信=太田清)

 ▽酸っぱいリンゴ

 リンゴと言えば酸味の中に甘さを期待してしまうが、わざわざ特に酸っぱいリンゴを選んでつくられるお菓子が首都モスクワ南方トゥーラ州のお菓子会社の焼き菓子「ベリョーフ・パスチラ」だ。11月に採れる「アントーノフカ」という酸味の強いリンゴを荒くつぶし、砂糖と卵白を加えて焼き上げる。布団などを敷くというパスチラーチという動詞に由来する名前から分かるとおり、焼き上げた生地を「敷いて」幾層にも重ねる。

 食べてみると、アントーノフカを使った理由が分かる。酸っぱいリンゴの固まりが生地の甘さを和らげている。チョコレートやトルト(ケーキ)など、砂糖を大量に使いやたら甘いロシアの一般的な菓子と違い、甘さもほどほど。これなら日本人の舌にも合いそうだ。社長のニコライ・セメルニャさんは「1888年の創業以来、革命や戦争、国有化など幾多の困難を経てきたが、いまはロシアの人気菓子となり生産も順調だ。日本の人にもこの味を知ってほしい」と話す。

 ▽シベリアの恵み

 

 シベリアの大地を覆うシラカバの木。その表面に寄生して樹木の養分を吸い取るサルノコシカケ科のキノコの一種が「チャーガ」だ。黒いこぶのような形をしたキノコで、10~15年かけゆっくり成長し、最終的には養分を吸い尽くしシラカバを枯らせてしまうこともあるという。

 古くから糖尿病や風邪、インフルエンザ、一部のがんなどに効く民間薬として利用されており、1万本の木に1本しか見つからない貴重さから「ロシアの高麗人参」とも呼ばれてきた。お湯で煮出して飲用するチャーガ茶のほか、エキスを抽出したシロップもある。日本で販売する際は薬効をPRすることはせず、あくまで健康によいサプリメントとして売り出す方針だ。

 さまざまなジャムや蜂蜜も展示されていたが、驚いたのが松ぼっくりのジャム。あんな硬いものをどうやってジャムにするのかと思ったが、春先の軟らかいものだけを使うそうで、口に入れてみるとすぐに崩れ、全く硬さを感じない。ミネラル成分を多く含んでいてロシアでは風邪をひいた際などに食べるという。

 ▽紛争の影

 南部クリミア半島はかつてウクライナ領だったが2014年、ロシアが一方的に自国に編入。これに対し編入を認めない欧米諸国がロシアに経済制裁を科した。この地が良質のブドウ生産に適した土壌を持ち、ワインづくりが盛んであることを知る人は少ない。見本市には、1889年創業の老舗のワインメーカーがつくる「ザラタヤ・バルカ(金の谷)」とのブランドなどが出品された。

 クリミア危機前は欧米などにも輸出していたが、制裁の影響を受け「西側の市場の道は閉ざされた」(同社のブランド大使、ナタリア・ベレンダさん)。現在の輸出先は事実上、ロシアしかなく販売量も減少、経営に大きな打撃となっている。「品質でもコストでも十分、競争力はある。何とかアジア市場を開拓したい」(同)というのが、今回の見本市に参加した動機の一つだ。

 見本市の責任者であるロシア輸出センターのアンドレイ・アルヒポフさんは「今回参加した食品企業が直接的に制裁を受けてはいないものの、国としてのイメージとの面からマーケティングに影響があることは認めざるをえない。とはいえ、できることをやっていくしかない。来年は一般の人を対象にしたイベントも日本で計画している。ロシアの味を少しずつでも浸透させていきたい」と語った。

チャーガのエキスの入ったパック(右)とチャーガ茶
松ぼっくりのジャム
ザラタヤ・バルカなどのワイン

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