ハミルトン vs ベッテル、タイトル争いの流れを変えた4つのターニングポイント【今宮純のF1総括】

 2017年シーズン、残り2戦を残してF1タイトルを獲得したルイス・ハミルトン。後半戦はフェラーリの失速で大きくポイントをリードしたものの第6戦モナコGP時点では深刻な問題に見舞われセバスチャン・ベッテルに大きく先行されていた……。F1ジャーナリストの今宮純氏が2017年シーズンのタイトル争いを総括する。 

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 前・4冠王ベッテルと新・4冠王ハミルトンが対峙した17年シーズン、“ターニングポイント”がお互いそれぞれ4つあった。山あり崖ありだった20戦の『対決譜』、まずハミルトン目線から。

(1)開幕戦を飾れず序盤は5戦2勝、6点ビハインドの2位で臨んだ第6戦モナコGPで深刻な事態に落ちこんだ。リヤ・タイヤ過熱症状がひどくテール・スライド多発、予選ワースト14位、決勝7位。ロングホイールベースのシャシー問題が取りざたされ、敗因究明のために“専属チーム(6名)”が設けられると長時間ミーティングに参加。天才肌の彼がチームとともに一層努力するようになっていく。

(2)第10戦イギリスGP、ハットトリック勝ち。アスリートとして心技体を究極ゾーンに高めるピーキング(コントロール)、母国シルバーストーンに合わせこんだのは見事。ベスト・レースと言えるだろう。

(3)初めて見る場面、第11戦ハンガリーGPで“チームオーダー”に従い4位。最終ラップできわどくバルテリ・ボッタスに譲り、彼を前に出し後続を抑える。プライドを守るか、チームを守るか、後者を選択(ニコ・ロズベルグが相手なら拒んだに違いない)。この一件がかえって彼の“エース意識”を強めた。サマーブレイクの間に心のバッテリーをフル充電、第12戦ベルギーGPから怒涛の3連勝。

(4)34点リードで迎えた第16戦日本GP、もうタイトルは決したのも同然。狙いはひとつ苦手な鈴鹿で初PP、ミハエル・シューマッハー所有のコースレコードを破ること。土曜夕方、パドックの隅でハイパーラップ達成の秘訣を聞けた。「コーナーのクリップをレイト(後寄りに)&ディープ(奥まで)、丁寧に心がけただけさ(笑)」。走りの理念を変えた4冠王、名実ともに『ベスト・ハミルトン』を今年見た気がした――。

 敗れたベッテル目線で振り返ってみよう。

(1)開幕ダッシュ成功、第6戦モナコGPまでに3勝と2位3回は13年4冠王になったときをも上回る。ハミルトンに25点差、メルセデスに17点差、彼自身もフェラーリも有頂天の気分。タイトル奪還に向け、彼らは強気に転じた。

(2)強気が過ぎると、“負けん気”が先走ることにもなる。それが第8戦アゼルバイジャンGP、SCラン(非競技状態)で起きた『幅寄せ事件』の深層心理と言えるだろう。コーナーで一瞬ライン変更するのとは全く次元が違う行為、過去にあったアイルトン・セナやアラン・プロスト、シューマッハーの“体当たり”とは比べられない。

 7月3日、FIAに“教育啓蒙活動奉仕”のペナルティを科せられ、全面謝罪。その三日後、突然PUチーフ・エンジニアのロレンツォ・サッシが解任されたがチームからコメントは一切なし。ぐらつく『お家騒動』の発端がここ、社内に動揺が走った……。

(3)第11戦ハンガリーGPで今季2度目の1-2フィニッシュ、14点リードのままサマーブレイクへ。再開第12戦ベルギーGPも2位、立て直しかと思えたが母国第13戦イタリアGPで失速。雨の予選に翻弄されて3列目がやっと、表彰台3位には上がれたものの苛立ちと焦りがつのった。よりによってモンツァで首位の座から転落とは……。

(4)アジア・ラウンドに備え、フロント・サスペンションなど大きなアップデートを実施。第14戦シンガポールGPで3度目PP奪取、しかし勝ち急いだあげくにフェルスタッペンにタッチ、必勝レースはたった数秒で終わり、キミ・ライコネンとともに全滅。ファクトリーも社内も“お通夜”みたいに暗転した。そこから信頼性欠如の事態が連鎖、春のリーダーは秋のアジア・ラウンドに敗れ去った。移籍3年目は2位、これは98年のシューマッハと同じであり、ベッテル自身はやれる限りをやり尽くした。『フォルツァ・セブ』で締めくくる――。

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