【記者座談会 非鉄この1年(2)】〈電線・伸銅〉伸銅品でデータ改ざん 電線は情報通信向けなど好調

E 伸銅業界では品質データの改ざん問題があった。今後どのような影響が予測されるか。

B 伸銅品では神戸製鋼所グループの銅条・銅管・銅合金管、三菱伸銅の黄銅条・銅条で不正行為が発覚した。銅条は主力需要先が自動車と半導体。半導体向けは国際的な価格競争が厳しい分野で、日本ブランドの品質イメージに影響が出ると海外勢との競争がさらに激化する恐れもある。ただ適正な品質保証で信頼を得ながら、高い表面品質や優れた形状安定性などで競争力ある製品を供給し続ければ、今後も成長の余地は残されているはずだ。

D 大規模な転注などで国内シェアが激変する可能性についてはどうか。

B 銅条は旺盛な需要が続いており、各社とも既存顧客への対応で手いっぱいだ。転注の問い合わせはあるようだが、受けられる余地はほとんどない。銅管についても需要は堅調。他の大手メーカーも高操業となっている。ただ銅管では中国勢が大規模な増強投資を進めている。今回の問題が中国材流入や、アジア市場での競争激化につながらなければ良いのだが。

A 青銅系の板条製品や圧延銅箔ではスマートフォン関連需要などで需給が相当に引き締まっている。各社の対応については。

B スマホ関連需要の増加に加え、部品小型化に対応した薄物比率の拡大で設備負荷は相当なものになっている。最大手のJX金属では主力拠点の倉見工場(神奈川県)で仕上げ圧延機を増設したほか、スリット加工子会社の拠点を増強余地確保のため移転させる。また原田伸銅所では高速スリッター設備を増やしている。環境変化に対応する設備投資の費用を賄うため、JX金属に加え他のりん青銅板条メーカーでも値戻しを進めた。

C 黄銅棒メーカーの状況については。

B 重要は水栓金具・バルブ・ガス機器の主要3分野に加え、自動車向けも堅調だ。黄銅棒最大手のサンエツ金属を傘下に持つCKサンエツでは、伸銅品生産にかかわる従業員を夜勤レス化に向け1割近く増員しており、需要拡大時の納期対応でもメリットを出している。さらに大木伸銅工業ではレイアウト変更などで能力を増強。また電気電子機器や自動車関連の分野で今後国際的に強化される環境規制への対応も業界として大きな課題になっている。キッツメタルワークスでは鉛やニッケルを添加しない環境対応材の供給能力を高めるため来年以降鋳造工程を強化するほか、サンエツ金属では溶解鋳造炉の増設を視野に入れている。

E 電線大手は情報通信やエレクトロニクス関連の製品群がけん引し業績が好調。各社の具体的な動きは。

B 情報通信ではデータセンター関連などで光ファイバ需要が旺盛。古河電工は2019年度までに欧州と米国で工場を建設し能力を倍増させる計画を打ち出した。他の大手メーカーでも増強投資を検討しているようだ。エレクトロニクス関連では住友電工がFPC(フレキシブル回路)のコスト低減に注力し事業を黒字化させている。

C ボリュームゾーンの建設用電線は。東京五輪関連などで需要が立ち上がってきているのでは。

B 建築現場の人手不足が需要を抑制しており、目立った需要増はまだない。特需の本格化は18年からだろう。ただ人手の問題から五輪後に延伸される大規模な建設プロジェクトも出てくるので、20年以降もある程度の荷動きは見込める。大手メーカーでは競争力向上につながる投資を進めておりフジクラ・ダイヤケーブルでは首都圏需要などへの対応へ熊谷工場(埼玉県)を増強。矢崎エナジーシステムでは沼津製作所(静岡県)の再構築を進めている。

E 建設用などでは電線業界に非常に不利な商慣習を是正することが大きな課題。これから需要が増える中で適正収益を確保するためには、しっかり取り組む必要があるだろう。

A 一連のデータ改ざん問題で電線業界の動きは。三菱電線工業も対象になっているが。

B 三菱電線は油や水などの漏れを抑えるゴム製のシール材で品質データを書き換えていた。製品アイテムの多さなどから状況の把握に時間を要し、出荷停止などの措置が遅れた点が特に問題になった。今後の対応を迅速化するため、今月に入って親会社の三菱マテリアルから社長が送り込まれている。

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