さよなら、きっちんせいじ 路面電車のレストラン、30日閉店

 本物の路面電車を使った外観で知られ、トルコライスの人気店としても愛された長崎市東古川町のレストラン「きっちんせいじ」が30日、閉店する。51年間走り続けた店主の安達征治さん(74)と妻妙子さん(67)は、「変わらぬ味を作り続けられる体力や気力がある時に辞めようと決めた」と明かし「感謝の気持ちで、最後まで変わらず営業します」と、いつもと同じ笑顔で来店客を出迎える。

 1966年11月、新大工町で開業。72年結婚し、79年に今の場所へ移った。「少しでも目を引こうと、わらにもすがる思い」で、征治さんが好きだった路面電車を外装のデザインに取り入れた。狙いは当たり、自慢の料理を味わってくれる客も増えた。

 だが、82年の長崎大水害で中島川沿いの店は冠水した。試練に見舞われたが、「若かったし、駄目とは思わなかった」(妙子さん)。「次は本物」と被災車両2両を数十万円(当時)で譲り受けた。内装には電車の座席や扉を使い、つり革や写真も飾った。作業は、征治さんも参加する「長崎路面電車の会」の仲間が支えた。鉄道模型やジオラマの上にガラスの天板を載せた特製テーブルは今も現役だ。

 街が水害から立ち直ると、中島川一帯は人気スポットになった。路地にいきなり現れる路面電車の“顔”は観光客を喜ばせ、市民にはなじみの風景となった。料理はすべて手作り、看板のトルコライスもお手製のマヨネーズも変わらぬ味を作り続けた。「いつ来てもおいしい」と喜ばれることが誇り。「きっちんせいじに命を賭けてきた」

 今でも休みはほとんどなく、毎日厨房(ちゅうぼう)に立つ。だが征治さんは腰が悪く、妙子さんは6月に膝を痛め手術。「どちらが欠けても店はできない」と閉店を決断した。味が落ちてから辞めたくなかった。

 今月1日、「閉店」の看板を出した。それを知り、惜しむ人が訪ねてくる。年末は毎年、昔の従業員や常連が集まる。最終日も多くの懐かしい顔に会える。「みんなのおかげで51年も続けられた」。感謝を伝えるため、明るく笑顔で幕を下ろすつもりだ。

店の顔である路面電車の横に並ぶ安達征治さん(右)と妙子さん=長崎市東古川町
電車のいすや扉などがそのまま使われ、つり革や写真などが飾り付けられた店内

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