J1昇格のV長崎 渋滞対策が急務 来季の平均観客数1万人超へ 求められる官民連携

 サッカーJ2で経営危機を乗り越え、J1昇格を決めたV・ファーレン長崎。来年2月24日の開幕に向けチームは体制構築を急ぐが、満員の観客が詰め掛けた今季ホーム最終戦(11月11日)では諫早市のスタジアム周辺の渋滞が問題化し、官民連携しての対応が求められている。県史上初のJ1参戦には、観客増による経済波及や地域活性化への期待も大きい。チームを支える経営や県民、地域の側から課題を探った。

 ■駐車場も不足

 「J1に上がる前に経験したんだから、もう言い訳は通じないですよ」。11月26日、V・ファーレン長崎が同市で開いたファン、サポーターとの意見交換会で、厳しい意見が飛んだ。同11日に本拠地のトランスコスモススタジアム長崎と周辺で起きた混雑について、出席者から改善を求められたV・ファーレン長崎の高田明社長は「対応できるよう、今、走り回っているところだ」と神妙な面持ちで答えた。

 昇格を決めた同日の讃岐戦は2万2407人が来場。午後7時の試合開始前に最大約6キロの交通渋滞が発生した。県が同日、観客762人から回答を得たアンケートでは、76%が来場手段を「車」と回答。乗り合わせた人数は平均2・8人で、約6千台が押し寄せた計算になる。

 過去にJ1へ初昇格した他クラブを参考にすると、年間の平均観客数はおおむね2倍程度に増加。V・ファーレン長崎の今季平均は5941人で来季は1万人を超えることになる。駐車場は最大約3100台分で「これ以上は難しい」(県)。このままでは渋滞や駐車場不足が再び起きる可能性が高い。

 県はこの問題に積極的に関与する方針。スタジアム近くの臨時駅設置の検討をJR九州に要望したほか、V・ファーレン長崎、県警、諫早市との検討会議を設け対策を急ぐ。高田社長は「複数の対策のシナジー(相乗)効果で解決していく」と述べ、場内整理などを想定した学生ボランティア増員なども目指す。

 ■経営規模3倍

 観客増への対応は、V・ファーレン長崎の経営や地域への経済波及の面でも鍵となる。

 4月にジャパネットホールディングスのグループ会社になったV・ファーレン長崎は、従来1月だった決算期を12月に改める。Jリーグが公表した16年度の各クラブ決算によると、事業規模を示す営業収益はJ1平均36億4千万円、最高額の浦和で66億600万円。J2のV・ファーレン長崎は7億4900万円だった。高田社長はこれが来季、約3倍の「20億円」程度になり、独立採算が可能との見通しを示している。

 ながさき地域政策研究所(長崎市)の菊森淳文理事長は「他球団をみると、勝っている時はいいが、負けが込むと経営が悪化する例が多い。勝っても負けても県民が応援に行くチームにしなければならない。経営政策で実現できる部分もありV・ファーレン長崎の手腕に期待したい」と話す。

 ■認知度が必要

 V・ファーレン長崎は来季、ホームで20試合を戦う予定。長崎経済研究所(長崎市)は、チーム経費などを除き、ホーム戦の観客による消費支出の波及効果だけでも年十数億円と見込む。消費支出の内訳は、来場者のうち9割とみるホーム客の飲食やグッズ購入などで約6億円。アウェー客は3割が宿泊、7割が日帰りと想定し、交通費や買い物、宿泊費などで約4億円などとした。

 県は「交流人口拡大や県産品の消費拡大PRなどで地域活性化に寄与する」とみて、観光物産振興や世界文化遺産PRの面での対応の検討を始めた。V・ファーレン長崎が会員に名を連ねる諫早市商工会は「ビジネスチャンス拡大の期待感は大きい。観光面などの波及効果は間違いない」としている。

 長崎経済研究所の中村政博調査研究部長は「県民に試合を見に行こうと思ってもらうには、V・ファーレン長崎の認知度をもっと上げることが必要。それが地元への経済効果にもチーム経営にも寄与する」と指摘している。

 【編注】高田の高は、目の上と下の横棒なし

約2万2000人が詰め掛けたホーム最終戦。J1で戦う来季も多くの来場者が見込まれる=諫早市、トランスコスモススタジアム長崎

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