2016年末に日本で行われたクラブワールドカップで本格的に採用されてからちょうど1年が経ったビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)。
ポルトガルリーグやセリエAでは早くも導入が始まり、来季からはリーガ・エスパニョーラやブンデスリーガでも使われる予定だ。
使用する国は増えているが、その一方で選手からは賛否両論が相次いでおり、必ずしも全員が納得できるものにはなっていない。
この1年間使われてきたビデオ副審について、編集部はどのような感想を持っているのか?意見を集めてみた。
編集部S:賛成
ジャッジの正確性が向上するならば、積極的に導入すべきだろう。
先日行われたブンデスリーガで、退場宣告を受けた選手がピッチを離れ、VARによる再判定の結果再びプレーに戻ったというケースがあった。
もちろん選手にとってはメンタル面での切り替えが難しく、見ている方にとっても状況が二転三転するのは好ましくはない。
それでも、間違った判定のままゲームが続き、プレーしている方も見ている方もモヤモヤを抱えるよりは遥かにマシである。
VAR制度に対する世界的な抵抗意識は、時間がある程度解決すると考える。
編集部T:賛成
賛成か反対かの二択であれば賛成派だ。
「誤審も含めてサッカーである」という見方もあるが、言語道断の誤審で振り回されたチームや選手はたまったものではない。VARは彼らにとって頼みの綱になっているはずだ。
だが、気になる点はその運用方法にある。
VARは実行するタイミングにタイムラグがあるため、どうしても試合の流れをぶつ切りにしている感は否定できない。
観衆の盛り下げにも繋がる可能性もあるため、VARの映像をスタジアムのビジョンでも共有するなり、エンターテインメント性も考えて欲しいものだ。
編集部I:賛成
明らかな誤審で試合が決まってしまうことをもはや容認できない“空気”があるし、試合後の審判に対する非難もある程度は回避できる。
ただ、まだまだ試行錯誤の段階であるのも確か。試合がブツ切りになってしまう問題や、他スポーツにおける『チャレンジ制度』のようなものにするかなど改善点もある。
とはいえ、時代の流れとしてもテクノロジーを組み込むことを拒絶することはできないはず。
編集部H:条件付き賛成
われわれはすぐに100%を求めてしまうが、森羅万象、一方を取れば一方を失うのが世の常だ。
明らかな誤審が見逃されなくなった点においては歓迎すべきだが、例えば先月のブラジル戦のように、誰からの異議・申し立てもなく(?)試合が進行していたにもかかわらず、突然、「あれはファールでした。PKです」と言われても釈然としない。
せっかく研鑽を積んだプロの審判団がいるのだから、接触などの微妙なプレーは彼らの裁量に任せるべきである。一方で例えば基準が明確なオフサイドやハンドなどから得点に繋がった場面においては限定的に使用を認めたらいい。
機械は限りなく精密である。しかし、それを使うのは結局のところ人間なのだ。
編集部O:反対
普段から自分でもプレーしているため不可解な判定に出くわすことは少なくない。しかし、VARの導入に関しては反対である。サッカーは攻守切れ目のない展開が大きな魅力であり、現状のVARはそれを損ねる部分が大きい。
導入の動きが広がっていることに関して、運営側の視点に立てば一定の理解ができるが、そこには「面倒ごとを少しでも避けたい」という意味合いもあるのではないかと感じてしまう。
判定によって試合ごとに有利不利が生まれるとしても、一年なりのトータルで見ればほぼ公平さは保たれている。
そもそも、競技規則を最低でも9割程度理解していない人が「誤審」という言葉を平然と使うといったことのほうが個人的には疑問だ。
そうした審判を取り巻く環境や“空気”を少しでも変えていくことで、VAR導入慎重派が増えていくことを期待している。
ちなみに、副審の助けとなるGLTや試合後に映像で確認してのサスペンションなどは賛成である。
編集部K:反対
審判はルールだけに照らして事象を判定すればいいわけではない…というのは昔から言われていたことだ。「ジャッジが杓子定規だ」というのは批判なのに、杓子定規に近づけてどうするのか?
毎試合何度も「判定を覆す」ことを繰り返せば、なおさら選手との信頼関係がなくなる。ビデオなら主審に言ってどうなるものでもない上、目の前の男は何度もミスをしているのだから。コミュニケーションを取れなくなる。
FIFAは審判に「正しいジャッジはできている」という言い訳を与えているが、それも対立を招いているといえる。これだけテストをして、何か劇的な進歩があるわけでもない。
そもそもビデオにするならピッチ上に審判は必要なのか。相撲や剣道、柔道の審判のように、ビデオで5人が常時見て3人以上が判定すればファウル…にすればもっと「正しくリアルタイムで」判定でき、責任も分散する。
また、正しいか正しくないかの前に、まずエンターテイメントとしてどうなのか?という疑問が残る。
少なくとも、MLBやテニス、バレーボールのチャレンジシステムは、ミスジャッジをうまくエンターテイメントに繋げている。こちらの方が、「面白い」ものになるはず。
VARは「審判の買収対策」としては有用だと思う(FIFAはむしろこちらを狙っているのでは?)が、それを必要としているリーグはそもそもVARを導入するリソースがない場所だ…。
結果は賛成4票、反対2票。編集部内でも意見が二分する結果になった。皆さんはどう思うだろうか?