【工場ルポ】〈JFEスチール鋼管杭合弁Jスパイラルスチールパイプ・本社工場〉加工能力強化大型プロジェクトに対応 〝情報発信基地〟の役割も

 JFEスチールのベトナム鋼管杭合弁、Jスパイラルスチールパイプ(ドンナイ省ビエンホア市、社長・脇屋泰士氏)は、建材事業では初の海外拠点。発足から8年目を迎え、ベトナムの地に深く根を下ろしている。本社工場を取材した。(村上 倫)

 同社はベトナム・ホーチミン市の北東にあたるビエンホア市に位置する。発展著しい同国では地下鉄の敷設計画が本格化しており、ホーチミン市から同社へ向かう道程でも敷設中の高架線のコンクリート土台が立ち並ぶのを見ることができた。

 工場のヤードには以前と同様に同社が取り扱う鋼管杭や水道管が並ぶ。今回異なるのは、昨年8月に発足したジェコスベトナム向けの山留材が置かれている点。JFEグループでベトナムに進出する企業は既に11社となり、さまざまな製品群でベトナムの発展に貢献する体制が整いつつある。重仮設資材の加工はその足跡の一つとも言える。

 山留材の加工はボルト孔の数も多く「製造管理が重要。また、いろいろな種類の山留材を間違いなく納品する必要があり納品管理も難しい。ジェコスとの連携でこうしたノウハウも蓄積できた」と脇屋社長は胸を張る。「さまざまな案件で付随して出てくる鋼構造物も積極的に受注していきたい」。

 今期はバングラデシュ、グムティ橋プロジェクト向けの鋼管杭矢板生産がピークを迎えた。同社の生産能力は最大5万トンだが「2016年の時点で鋼管矢板の加工量は月間2500トン程度にとどまっていた」。しかし、本プロジェクトではテロの影響で生産が遅れ、他の案件とも重なったため増産対応する必要があった。

 そこで、本プロジェクト向けの生産を契機に加工体制を2直から3直にアップし、加工能力を強化。「月間3500トンの鋼管矢板の生産にチャレンジし、今年4月に無事に達成することができた」という。来期は国内外の旺盛なプロジェクトにより繁忙が見込まれることから「ネック工程を重点的に解消して、年間4万トンをこなせる体制を構築する」と意気込む。

 今期はバングラデシュのほか、ミャンマー・ティラワ港向けなど生産の6割をベトナム国外のプロジェクトが占めた。下期は大型のODA案件が軒並み遅延し苦しい状況となったが、ベトナム国内や周辺国の案件などを受注することで盛り返した。

 また、JFEミネラルのフィリピン子会社、フィリピン・マイニング・サービス・カンパニー向けの大型岸壁の改修に用いるクレーン基礎で使用する鋼管杭なども、この施工を手掛けるJFEシビルのフィリピン現地法人、リオフィルから受注した。

 足元は鋼管杭のプロジェクトが少なく水道管の製造が多くなっている。脇屋社長は「ベトナムでは水道管の整備が本格化しつつあるが、弊社は塗装専用工場を有しており水道管の塗装にも十分に対応できる」と自負する。

 その水道管分野では「日本のODA案件も計画されつつあり、安定した需要分野として今後も積極的に取り組んで行きたい」という。 塗装管の製造においては鋼管径が比較的大きいため、塗装および養生に十分なスペースが必要となる。そのため塗装工場以外の加工場にも仮の塗装スペースを設け、増加する需要に対応していた。

 直近では「一つ一つの案件が大型化しており、遅延などが発生すると当社への影響が大きい。材料調達や生産出荷のスケジュール管理が一層重要になる」と気を引き締める。また、鋼管杭などのインフラ向けの大型製品は「取り替えが難しく、遠隔地への出荷も増えているため品質保証(QA)の重要性が増している」という。このため、ワーカーや技術スタッフがさまざまな研修を経てUTやRTなど非破壊検査の資格を取得するなど、レベルアップを図っている。

 「この地に進出して8年目。発電所や製油所などの大型案件でもまずは基礎から構築していくが、プロジェクト情報がJFEグループの中で最初に入ってくる。窓口機能を相当発揮できる」と脇屋社長。今後も「海外に拠点を設けたアドバンテージをうまく活用してもらえる、情報発信基地になれれば」と、その存在感をますます高めていく。

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