『勝手にふるえてろ』 女の子の感情の起伏をカラフルな映像で

(C)2017 映画「勝手にふるえてろ」製作委員会

 映画の語り口は、主人公が移動することで舞台が変化し続ける“ロードムービー”タイプと、同じ場所が繰り返される中で浮き彫りになる変化を描く“ホームドラマ”タイプに大別できると思う。後者の代表格といえば小津安二郎だが、今年、その手法を純粋に受け継いだ2本の傑作と出会った。1本はジャームッシュの『パターソン』、そしてもう1本が本作である。

 原作は、芥川賞作家・綿矢りさの同名小説。中学時代の同級生“イチ”に10年間片思いし続けるOLが、会社の同僚“ニ”に人生初告白され、脳内片思いとリアル恋愛の間で葛藤するラブコメだ。綿矢にとっては、『インストール』以来となる2度目の映画化。知名度の割に映画化が少ないのは、ストーリーよりも感性豊かな文章の力で勝負する作家だからだろう。その会話とモノローグの魅力を前面に押し出しながら、それでもしっかり映画へと着地させるために大九明子監督が選んだのが、小津の手法だった。ルーティンとそうでない日常を対比させて積み重ね、途中でそれを劇的に反転させる映画的な構成が素晴らしい。

 さらには、常に感情が渦巻き起伏の激しい女の子の脳内を象徴させたカラフルな色彩設計。ギミックに凝った視覚に訴え掛ける演出の数々。欲をいえば、『でーれーガールズ』を撮った監督なのだから、中学時代と今に“二人一役”を用いていれば、もっと映画的な描写が増えたはず。それでも、小津の最良の恋愛コメディーになぞらえて“ガールズムービー版『秋刀魚の味』”と呼びたくなる。★★★★★(外山真也)

監督・脚本:大九明子

出演:松岡茉優、渡辺大知、石橋杏奈、北村匠海

12月23日(土)から全国公開

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