プロ野球ファンにとってはもはや常識とも言えることだが、取材をしているとあらためて感じることがある。救援陣が安定しているチームは強い。
先発投手の完投は少なく、七回以降を「勝利の方程式」とも呼ばれる救援陣でつないで逃げ切るのが今の野球の主流だ。その中でも試合を締める抑え投手の力量はチーム成績に大きな影響を及ぼす。
筆者が今年担当となった楽天には、若き絶対的守護神がいる。22歳の松井裕樹だ。
プロ2年目の2015年に抑えに回ると、そこから今季まで3年連続で30セーブを達成。契約更改では5000万円増の推定年俸1億4000万円で更改し、一流の証しともいえる1億円プレーヤーの仲間入りを果たした。
抑え投手では珍しい投球スタイルだ。一般的には150キロを超える直球に加え、大きく落ちるフォークボールを武器にする投手が典型的な抑えタイプ。身長174センチと投手としては小柄で左腕の松井裕は球速が140キロ台ながらボールの切れで捉えさせず、チェンジアップを駆使して打者のタイミングを外す。
今季のレギュラーシーズン52試合の登板で被本塁打0がその安定感の証しだ。梨田昌孝監督も「松井裕に代わる投手はなかなかいない」と言うほど全幅の信頼を寄せている。
同じ左腕で抑えといえば、現役最年長の中日の岩瀬仁紀がいる。
大学、社会人を経てプロ入りした岩瀬は自身の持つ歴代最多の通算セーブ数を今季404まで伸ばしたが、若くして既に96セーブを挙げている松井裕は、このまま大きなけがなく抑えを続ければ、その大記録まで狙えるのではと期待したくなる。
楽天は今季、4年ぶりにクライマックスシリーズに進出した。西武とのファーストステージを勝ち抜き、ファイナルステージではソフトバンクに2連勝して一時はリードを奪ったが、その後3連敗で敗退。リーグ覇者の底力に屈した。
松井裕にとってはプロで初めて経験した短期決戦の舞台。そこで「ブルペンから見ていても絶望感を感じた」と振り返る光景がある。それはソフトバンクの守護神、デニス・サファテの堂々たる投球だった。
150キロの剛速球を連発して打球を前に飛ばさせず、得点できる気配を一切漂わせない姿に圧倒された。
確かに筆者も記者席から試合を見ていて、サファテがコールされた瞬間に試合は終わったような思いだった。
両者はタイプこそ異なるが、それぞれのチームでの役割は同じ。松井裕にとってサファテは「抑えにしか分からないところで尊敬し合える選手」なのだという。
MVP右腕から大きな刺激を受けた松井裕は来季へ向け、「これまではランナーを出しても抑えればいいというスタイルでやっていたけど、ランナーを出さずに抑えられるようになりたい。ソフトバンクに負けない鉄壁の救援陣をつくりたい」と、さらなる高みに視線を向けた。
楽天の守護神が欲するのは自身未経験のリーグ優勝と日本一。それが実現した瞬間には、相手に絶望感を与える松井裕がマウンド上で君臨しているはずだ。
球界一の抑えを目指しして成長していく姿を目に焼き付けながら、きっちりと取材していきたい。
秋友 翔大(あきとも・しょうだい)2012年共同通信入社。札幌支社で警察担当などを経験し、13年12月に運動部へ異動。プロ野球担当となり阪神、中日を経て17年9月から楽天を担当。大阪府出身。