【記者座談会 鉄鋼この1年】〈(5)輸出〉ホット、5年ぶり600ドル台 JFE、薄板建材でミャンマー進出

A 総論でも触れたけど、熱延コイルの輸出価格は今年、5年ぶりに600ドルに乗せた。海外市況はいい1年だったということかな

C いや、右肩上がりで良かったというわけでもない。年初のホット価格は540~550ドルで始まったけど、サイクロンの影響が一服し原料炭価格が下げ始めると海外ホット市況も軟化した。

D 4月積み商談までは踏みとどまっていたけど、日本では年度の変わり目を境にがくっと下がり、一時は400ドル台半ばまで落ちた。ただ7月積みを底に上昇基調へ転じている。

F 6月から中国で鋼材市況が上がり始めたからだが、当時は日本のメーカーや商社の人も理由がよく分からなかった。共産党大会で公共事業が動いているとか、操業規制があるとかいろいろ言われたが、後に違法鋼材の地条鋼が本格的に淘汰され出したからだと気づいたわけだ。

A 地条鋼なんて概念が日本にはないからな。いまひとつ実態がよくわからない。

B 中国政府の定義では、鉄スクラップを誘導炉で溶解し造られた鉄鋼という。要は電炉のように成分を調整していないから不純物が多く、もろくて強度が低い。

E 条鋼というから棒鋼や線材をイメージするけど、ビレットのように母材として使われたり、中には鋼板も造っていたりするという。

D 中国鋼鉄工業協会は、地条鋼を造っていた企業700社が淘汰されたとしている。年産能力で合計1億4千万トン分ともされるから、本当なら大変なインパクトになるわけだ。

C 中国に振り回されたという点では、9月に本渓鋼鉄集団傘下の本鋼板材で第1高炉が火事になりホット市況に影響した。

B 煙や炎が上っている映像がユーチューブにアップされ、日本でも多くの人が見たようだね。あれで上海先物市場のホットが暴騰し、ホット輸出のオファーも引き上げられた。

F ただ、この時600ドル台に達したのは米国やマレーシア向けといった一部で、実際はあまり成約しなかったし、本渓の高炉も半月で直ったから一過性の騒ぎだった。中国現地では市況つり上げを狙ってか、復旧に1年かかるとかデマも流れたがね。

E 先週出された中国財政部の関税見直しもそうだけど、資料で空白になっているところを『撤廃』と勘違いした誤報がかなりあった。あれで米ミルの株価が一時は下がったからな。

A 我々もフェイクニュースに気をつけないと。

C 最終的には年末にかけて市況が反転しホットは600ドルに乗せている。為替も1年を通じて1ドル=110ドル近辺だったし、採算的には国内営業と引けを取らない居心地のいい販売環境との声も聞かれるね。

B 海外市況が良かったことは、通商問題がやや落ち着いたことにも表れている。摩擦の主因だった中国からの鋼材輸出も今年は3年ぶりに1億トンを割りそうだ。

F 官民鉄鋼対話などを通じた未然防止活動が奏功している面もある。セーフガード(SG)の乱発に歯止めが掛かったのは、3月に日本政府がインドの熱延鋼板に対してWTO提訴した効果もあるだろうね。

A それだけに、対日ADで今年唯一の新規案件として、メキシコが日本の厚板に対しAD調査を始めたのは唐突感があった。

E 昨年、新日鉄住金が受注した鋼管プロジェクトのツバセロ向け母材で数量が一時的に増えたのは事実。でも一過性のものだからね。輸出した厚板も提訴社のアームサが造れない広幅ものだし、合点がいかないね。

A 年明けにも出てくるトランプ米大統領が打ち出した「232条」の行方も気になるよ。

D 市場環境は良かったが、新日鉄住金やJFEスチールで生産トラブルが多発。自動車をはじめ国内需要が好調なものだから輸出向けの数量は削られ続けた。今年の全鉄鋼輸出は8年ぶりに4千万トンの大台割れになる。

C 日本鉄鋼連盟の集計だと、普通鋼の厚板輸出は2002年以来の200万トン割れになる見通しだ。年初に大分製鉄所で厚板ミルの火災が起きた上に、韓国造船向けの需要が悪かった。

E 新日鉄住金ではトラブル対応で厚板の輸出部隊が製鉄所の工程管理へ応援に行っていたほどだ。

B ホットの輸出も今年は100万トンほど減る。これじゃ成長市場を開拓できない。

A それだけにJFEが出資するベトナムのフォルモサ・ハティン・スチール(FHS)で高炉一貫生産が始まったのは大きい。

F 今年のFHSはお試し価格だったこともあり出足は良かったそうだ。早ければ来年のテト明けにも第2高炉へ火入れできそうだと聞く。

C 輸出営業の海外事業では、JFEと伊藤忠丸紅鉄鋼が3月にインドネシアの鋼管メーカー、SPINDOへ出資した。

D スピンドは19年にも新工場への集約・拡張が終わる。鋼管用ホットをJFEだけでなく、FHSから出すということもありえるね。

B それより今年一番の案件は、JFEスチールがJFE商事やMISI、阪和興業とともにミャンマーでガルバリウム鋼板など建材薄板の現地生産を決めたことだね。

D 実はJ商がスチールとともに建材薄板の海外事業へ乗り出すのも初めてという。

E 立ち上がるのは20年。最初から順風満帆とはいかないかもしれないけど、ミャンマーの可能性を引き出し根付いてほしいね。

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