⑥直木賞、ノーベル文学賞受賞 ゆかりの作家ら快挙

 ことしは長崎県ゆかりの作家らが権威ある賞を相次いで受賞し、うれしいニュースに湧いた1年でもあった。

 7月には佐世保市の作家、佐藤正午さん(62)が長編小説「月の満ち欠け」(岩波書店)で第157回直木賞に、10月には長崎市生まれの英国人作家、カズオ・イシグロさん(63)が2017年のノーベル文学賞に輝いた。

 日本文学振興会が主催する直木賞は、新進・中堅作家のエンターテインメント作品が対象で、佐藤さんは初めて候補入り。「文章の力が抜きんでている」などと評価され、長崎県関係者としては穂積驚(みはる)、白石一郎に次ぐ30年ぶり3人目の快挙となった。

 佐世保市からほとんど出ないで執筆を続ける佐藤さんは、都内であった受賞会見も贈呈式も異例の欠席。受賞後、テレビカメラを回さない約束で同市で開かれた会見では、「うれしいというよりほっとしている」と喜びを語った。10月下旬には同市で「出張贈呈式」があり、佐藤さんに直接賞品が贈られたという。

 直木賞の興奮冷めやらぬ10月には、イシグロさんのノーベル文学賞受賞のニュースが飛び込んできた。数年前からノーベル文学賞の予想に毎年名前が挙がっており、今回の受賞に本県でも喜びが広がった。

 イシグロさんは長崎市新中川町に生まれ、海洋学者だった父の仕事のため、5歳で家族と渡英。最初の長編小説「遠い山なみの光」は、第2次世界大戦直後の長崎を舞台に描き、王立文学協会賞を受賞し脚光を浴びた。1989年には「日の名残り」が、英国で最も権威のある文学賞のブッカー賞に選ばれている。

 12月、授賞式を前に記念講演会に登壇したイシグロさんは、自身を執筆活動に駆り立てたという「『私の』日本」について思いを語った。また、授賞式直後の取材には、「素晴らしい栄誉。日本の人々、特に私にとってかけがえのない思い出がある長崎の人々と賞を分かち合いたい」と答えている。快挙に、親類や幼稚園の担任など長崎県の関係者からも祝福の声が上がった。県や市はイシグロさんの功績をたたえる顕彰を検討している。

 このほかにも、2月には佐世保市出身のパーカッション奏者、小川慶太さんの所属するグループが米音楽最高の栄誉とされる第59回グラミー賞を受賞。1月に発表された第156回直木賞には、諫早市出身の垣根涼介さんの小説「室町無頼」が候補にノミネート、4月には長崎市在住の村山早紀さんの「桜風堂ものがたり」が2017年本屋大賞の5位に入った。

 最近でも、長崎県生まれの今村昌弘さんのデビュー小説「屍人荘の殺人」が「このミステリーがすごい!」国内編第1位になるなど、長崎県出身者の活躍が目立っている。来年も吉報を待ちたい。

ことしのノーベル文学賞を受賞したイシグロさん(右)と第157回直木賞を受賞した佐藤さん

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