野球を科学した46の研究 日本各地で進む“野球の明日”に向けた研究考察

今月開催された日本野球科学研究会第5回大会では様々な研究発表が行われた【写真:広尾晃】

「日本野球科学研究会」に学生から一般企業まで“研究者”が集結

 12月16日、17日と神戸大学で行われた日本野球科学研究会第5回大会では、基調講演と3つのシンポジウムに加え、46もの研究発表があった。研究発表は大会審査委員によって審査され、最優秀賞と優秀賞が選ばれた。

○最優秀賞
中本浩揮(鹿屋体育大学)
ボールから「頭」を離すな ヴァーチャル環境下における野球打者の視線行動とタイミング精度の関係

○優秀賞
小川夏弥(広島大学総合科学部)投球の学習における関節間協調の変化
勝亦陽一(東京農業大学)「個・主体性」を重視した野球の実践事例
三木豪(東京大学大学院)投球中の筋活動と投球位置のバラつきの関係性

 野球の技術やフィジカル的側面から社会科学に関する研究まで、その分野は多岐にわたったが、あらゆる角度から研究、考察されることで野球が進む明日の姿が見えてくると言えそうだ。

【研究発表一覧】
○12月16日 ショートプレゼンテーション1-1
1-1 直井勇人(日本体育大学大学院)
高校球児が求める指導者像に関する研究
1-2 小川夏弥(広島大学総合科学部)
投球の学習における関節間協調の変化
1-3 藤井雅文(鹿屋体育大学大学院)
大学野球投手におけるリリースポイントでの発声が球質に及ぼす効果
-スポーツパフォーマンス研究棟のマウンドを用いた指導事例-
1-4 鵜澤大樹(筑波大学大学院)
投球スピードを生み出す運動連鎖の生成要因
1-5 水谷未来(鹿屋体育大学)
投球パフォーマンスにおけるフィードバックシートの有効性
-トラックマン・フォースプレートデータについて-
1-6 佐治大志(筑波大学大学院)
熟練指導者の小学生野球選手への投球指導における即時的フィードバックに関する事例的研究
1-7 森下義隆(国立スポーツ科学センター)
様々な投球コースに対応するためのバッティング動作の調整
-体幹と上肢の運動に着目して-
1-8 見邨康平(ミズノ株式会社)
全身の動力学によって解き明かすバットヘッドスピード生成のしくみ
1-9 中本浩揮(鹿屋体育大学)
ボールから「頭」を離すな? ヴァーチャル環境下における野球打者の視線行動とタイミング精度の関係
1-10 木下祐輝(東京工業大学工学院)
バッターはいかにボールを見ているのか?
-一流打者の眼球運動戦略の解明を目指して -
1-11 桑野将幸(福岡教育大学大学院)
野球の打撃指導における競技レベルの違いによる指導者の評価の特徴について
1-12 岡本亘能(神戸大学大学院)
実際のソフトボール試合における投球ボールの軌道
1-13 柴田翔平(ミズノ株式会社)
硬式野球ボール型センサを用いた投球解析システムの開発
1-14 勝亦陽一(東京農業大学)
「個・主体性」を重視した野球の実践事例
1-15 蔭山雅洋(日本スポーツ振興センター)
ポジション別における投球速度を規定する体力要因の検討
-中学生および高校生を対象としたフィールドテストを基に-

急成長するオランダ野球の背景にある取り組みとは…

○12月16日 ショートプレゼンテーション1-2
1-16 進矢正宏(広島大学大学院総合科学研究科)
投手はどこを狙って投げるべきか?
―投球誤差分布を考慮にいれたシミュレーション―
1-17 大森雄貴(筑波大学大学院)
急成長するオランダ野球から学ぶ
-国家研究「Project FASTBALL」を中心に4つの視点から-
1-18 稲葉礼史(国際武道大学大学院)
大学野球選手は同陸上競技選手よりも疾走動作の加速能力が高いか?
1-19 小林裕央(東京大学)
小学生から大学生における投球コントロールの比較
1-20 田中慎也(国際武道大学大学院)
野球のバッティングにおけるスイングスピード最高速度の出現位置
-左右打者の特性比較-
1-21 鈴木智晴(鹿屋体育大学大学院)
捕手における二塁送球の正確性を決定する動作要因
1-22 渡邊裕也(日本体育大学大学院)
チームの課題を選手の意識に内在化させる事例研究
-Performance Profilingを用いて-
1-23 國井恒太朗(筑波大学大学院)
中学生における投距離獲得のための体力的・技術的要因について
1-24 前田正登(神戸大学)
全力で投げる場合,投げ出す方向によってボールの初速度は変わるか?
-守備位置が異なる選手に着目して-
1-25 西中裕也(筑波大学大学院)
高校野球の攻撃戦法に関する研究
-無死1塁での送りバントを例に-
1-26 三木豪(東京大学大学院)
投球中の筋活動と投球位置のバラつきの関係性
1-27 劉璞臻(筑波大学大学院)
中国エリート野球選手における打撃動作の特徴
ー日本選手との比較からー
1-28 永見智行(北里大学)
様々な球種の運動学的特徴
-移動スピード、回転スピード、回転軸の向きに着目して-
1-29 井尻哲也(東京大学身体運動科学研究室)
VR打撃システムにおける打者の挙動とその個人間差の定量評価
1-30 宮西智久(仙台大学体育学部)
私論:人生100年時代の野球界のあるべき姿と課題
-生涯スポーツ社会の実現に向けた野球文化を創造する-

野球に必要な体の動きを徹底分析する研究も

12月17日 ショートプレゼンテーション1-1
2-1 高田泰史(金沢大学大学院)
投球動作における骨格筋活動
-FDG-PETによる全身網羅的検索-
2-2 小倉圭(滋賀大学)
野球内野手のグラウンダー捕球におけるステップ調節に関する基礎的研究
2-3 相馬幸樹(中央学院高等学校)
高校野球における生徒を「自立」させる為のコーチングの実践事例
2-4 宮原祥吾(中京大学大学院)
熟練投手のコントロール能力と脳灰白質容積の関係
2-5 宮下浩二(中部大学)
投球のコッキング期における「胸の張り」とボールリリース時の「体の開き」の関連
2-6 川村卓(筑波大学)
一流プロ野球長距離打者の打撃動作の特徴について
-バット、肩、腰の動きに着目して-
2-7 北山和志(大手町病院)
女子軟式野球選手を対象とした投能力調査
-基礎能力の第二報-
2-8 坂口拓也(筑波大学大学院)
プロ野球選手のT打撃による打撃指標の作成
-バットの軌道とスカウティングデータの関係から-
2-9 徳永大嗣(神戸大学大学院)
バットの重心位置が打撃に及ぼす影響
2-10 加藤貴英(豊田工業高等専門学校)
高校硬式野球部員の心理的競技能力の縦断的変化
2-11 小野寺和也(筑波大学大学院)
プロ野球選手の打者タイプによるバット動作の特徴
2-12 片岡裕貴(大阪教育大学大学院)
投球能力向上を目的とした簡易トレーニングの効果
-投球動作の初心者を対象として-
2-13 興梠涼(法政大学大学院)
軟式野球ボールのCCORおよび衝撃特性
2-14 大島公一(筑波大学大学院)
高校卒業プロ野球選手の育成環境に関する現状調査
2-15 佐野川怜(慶應義塾大学)
ナックルボールの投球動作解析
2-16 土金諒(立命館大学大学院)
野球選手のバットスイング速度に及ぼす体幹筋形態の影響
2-17 岡本亘能(神戸大学大学院)
ソフトボール投手における投球ボールの軌道に関する研究
-野球投手による投球ボールの軌道との比較を通して-
2-18 阿井英二郎(筑波大学大学院)
投手が「心理状態」を自己客観視することによる投球パフォーマンスへの影響
2-19 太田憲一郎(中部大学大学院)
投球動作におけるワインドアップ期と早期コッキング期の骨盤アライメントの関連

道具という観点からも野球を研究

12月17日 ショートプレゼンテーション2-2
2-20 橋本雄二(アシックス)
「タメ」動作を習得するためのトレーニングバットの効果検証
2-21 森本崚太(株式会社ネクストベース)
「低めに集めろ」は有効な方策なのか
2-22 松尾一希(筑波大学大学院)
高校生・大学生野球選手における捕手のスポーツ傷害の実態に関する研究
2-23 馬見塚尚孝(西別府病院スポーツ医学センター)
野球障害予防とパフォーマンス向上を目指した練習法介入研究
2-24 西川範浩(アシックス)
型付け不要な硬式野球グラブの開発
2-25 波戸謙太(筑波大学大学院)
最大努力反復法を用いたスピードトレーニングの適正反復スイング数
2-26 二瓶雄樹(中京大学)
プロ野球アカデミーの満足度とその改善事例
-2016~2017年ドラゴンズ・アカデミーの取り組み-
2-27 加藤勇太(筑波大学大学院)
オランダにおける野球普及のためのベースボール型スポーツ
-野球初心者のためのBeeBall-
2-28 北山裕教(アシックス)
新軟式ボールの跳ね返り挙動究明
2-29 八木快(筑波大学大学院)
スカウティングデータにおける選手の主体的な活用に向けて
-活用の程度と戦術に着目して-
2-30 安谷佳浩(富山県立南砺福野高等学校)
高校野球大会での実戦における投球・打撃の縦断的分析・調査研究
ー県医科学サポート、強化対策委員会の活動ー
2-31 大森雄貴(筑波大学大学院)
野球における競技人口減少についての一考察
ー競技離脱者へのアンケート調査よりー
2-32 太田憲(オプティトラック・ジャパン,NTTコミュニケーション基礎科学研究所)
投球リリース時のボールの回転運動の力学解析
2-33 菊地亮輔(筑波大学大学院)
野球の打撃における腰部回転タイプに応じた動作指導の着眼点について
-体幹部に肩腰回転動作に着目して-
2-34 福田岳洋(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)
投手の制球力は状況に影響される
-実戦中の投球分布から-

(広尾晃 / Koh Hiroo)

© 株式会社Creative2