【記者座談会・鉄鋼この1年】〈(8)労働・働き方改革〉17年度の一時金、高炉など減額 来春闘、60歳以降の就労問題浮上

――次は労働に行こう。高炉大手は今年、2年サイクル春闘の中間年なので春季交渉はなかった。一時金はどうだったの。

G 業績連動方式を採用する企業が増える中、16年度の業績が厳しかったこともあり、高炉メーカー、普通鋼電炉メーカーなどで減額が目立った。一方、特殊鋼・ステンレスメーカーは業績の違いで増額、減額が分かれた。17年度は総じて業績回復が顕著なので増額となる企業が増える見通しだ。

A 来年の春季交渉では組合側が賃金引き上げを要求する方向だね。

G 基幹労連が今月、産別統一要求として18年度3500円、19年度3500円以上という2年分の賃上げ要求方針を打ち出した。広義ではベースアップ要求だが、基幹労連は「基本賃金への財源投入」としており、同率で賃上げする方針とは違う。2年目を「以上」としたのは、造船・重機など経営環境のスピードが速い業種に配慮したためで、高炉メーカーの労組は18年度、19年度各3500円の賃金改善を要求するようだ。前進回答があれば、賃上げは6年連続となる。

A 来春闘では60歳以降の就労問題もテーマになる。

G 2021年以降に60歳を迎える人から、年金の支給開始年齢が65歳となる「2021年問題」があるからね。今から議論を始めないと、間に合わない。

B 今も60歳以降を対象とする再雇用制度はあるけど。

G 現行制度は、本人が希望すれば原則、年金の満額支給開始年齢までは雇用が保証される。これによって年金の空白期間を埋めることができる。だが、現行制度は仕事は変わらないのに労働条件が大きく変わるので、再雇用を希望しない人も少なくない。そうなると製鉄所などの現場では人手が不足したり、技能伝承に支障が出たりするケースもある。

A すると定年延長が浮上してくるのかな。

G そう簡単ではない。会社側からすると、固定費の負担増、退職金の積み立て不足といった問題が出てくる。従業員の中には、60歳で退職金をもらうことを前提に生活設計している人も少なくない。そうした人は定年延長に抵抗感が強い。基幹労連のアンケートでは、希望する制度として「定年延長」「60歳定年+再雇用制度」「選択定年制」の各回答が3分の1ずつだったという。組合側は「60歳以降の就労問題の存在」を労使で共有することが先決と考えており、来春闘はあくまでも労使話し合いのスタートと位置づけているようだ。

――来年の通常国会で働き方改革関連法案の審議が始まる。法律が成立し、施行されると鉄鋼メーカーにも影響は出るのかな。

G 働き方改革関連法案は多くのテーマが盛り込まれており、大企業、中小企業を問わず企業にとっては、さまざまな影響が出てくる。例えば残業の上限規制。製鉄所など鉄の製造現場では、設備トラブルなどの際、通常の就業時間では対応できないケースもある。ただ、大手メーカーなどでは「対応は法律が成立してから」という声が多く、スタディー中という段階だ。

B JFEスチールは今年7月からインターバル制度の試行を始めた。終業から翌日の始業までに一定の休息時間を設けるという制度で、試行とはいえ鉄鋼メーカーでは珍しい取り組みだ。この制度が定着すれば、従業員の心身の負担軽減にとどまらず、仕事への意識改革を促す効果も期待できる。JFEは今年を「ワークスタイル変革元年」とし、インターバル制のほかに週1回以上の定時退社を促す制度、男性の育児休暇取得促進策などを始めた。生産性をどう高めるのかという働き方改革の狙いを先取りした動きとして注目される。

G ダイバーシティの取り組みも広がっている。高炉大手は、数年前から現業スタッフへの女性の採用を増やしている。まだ全体に占める比率は数%だが、女性の現業スタッフは確実に増える方向だ。これに対応して、新日鉄住金、JFEスチールは社員の子育てを支援するため、社員向けの保育所の設置を進めている。新日鉄住金は昨年の大分製鉄所に続き、今年は君津、八幡両製鉄所に設置。「子育てをしながら3交替勤務ができる環境を整える」方針で、来年以降も保育所を拡大する計画だ。

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