②日本イコモス国内委員会委員長 西村幸夫さん 教会群はテストケース

 「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」について、国際記念物遺跡会議(イコモス)が県とアドバイザー契約を結んだのは、顕著な普遍的価値が分かっていて、うまく組み立てれば登録できると考えたからだ。そうでないと手をさしのべてはいない。

 世界遺産は千件を超えた。世界中の多様な文化に広がり、価値の見極めが難しくなった。イコモスは推薦国と話し合い価値を定義する取り組みを実験的に始めている。教会群はまさにテストケース。イコモスとしても成果を出したい。

 同じイコモスの中でも、県に助言するチームと推薦書を評価するチームは違う。両者の意見が対立することもあり得る。両者の見解があまりに矛盾すると何のためのアドバイザー契約かということになる。ただ、両者が連動し過ぎると審査の公平性という観点から問題が出てきそうだ。

 欧州の教会は大抵、人が集まる町の中心部にある。一方で、禁教期のキリシタンは人目に付かない離島などに逃れたから、人里離れた場所に教会が建たざるを得なかった。そこが一つの物語だ。資産の範囲を教会の外にも広げ、風景によって物語を説明したい。

 教会群はイコモスの要請で2資産を除外したが、今後もイコモスが資産の範囲拡大などを意見することがないとも限らない。その時にさらに踏み込んだ判断ができるのか。今夏の文化審議会で再推薦を得るには、イコモスの助言とどこまで向き合えるかが重要になるだろう。

 もちろん、広げた範囲は文化財保護法によって国の文化財に指定しなければならないはずだ。考えられるのは重要文化的景観だが、選定には通常数年の時間がかかる。登録を急ぐならば難しい課題になる。

 「明治日本の産業革命遺産」は資産の一部に文化財保護法を適用せず、景観法や港湾法などで現状変更を規制している。現役で動いている工場や機械を文化財指定するのが難しかったからで、あくまでも特殊な事例だ。所管も文化庁ではなく内閣官房になっている。教会群は文化庁が所管する文化財。文化財保護法の適用が基本と考えるべきだ。(2016年06月16日掲載)

【略歴】にしむら・ゆきお 1952年福岡市生まれ。東京大大学院修了。イコモス副会長、東京大副学長、同大先端科学技術研究センター所長を歴任。東京大大学院教授。著書「西村幸夫 風景論ノート」「歴史を生かしたまちづくり」など。

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