④NPO法人世界遺産アカデミー主任研究員 宮澤光さん 文化的景観は登録有利

 世界遺産は西欧の宮殿や城塞(じょうさい)、教会などに偏っており、国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産委員会は文化や地域の不均衡を是正しようとしている。中でもキリスト教の教会は飽和状態だ。「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」は厳しく見られていると思う。世界の文化の中でどんな意味を持ち、どんな価値があるのか説明しないといけない。

 教会群のように複数の資産で構成する「シリアル・ノミネーション(連続性のある遺産)」は、構成資産をあれもこれも入れようとするとストーリーが複雑になる。物語はシンプルな方が世界にアピールできる。世界遺産条約の作業指針は、資産を追加しながら時間をかけてシリアル・ノミネーションを完成させてもいいとしている。まず軸になる資産を先に登録させて、必要ならば後に追加登録を目指す選択肢もある。

 国際記念物遺跡会議(イコモス)は世界遺産の名称を顕著な普遍的価値が分かるものにするよう求める。教会群も価値(潜伏キリシタンの文化的伝統)に即したものになるだろう。アドバイザーの要請で2資産を除外したが、イコモス本部が今後の現地調査やパネル(審査委員会)でどう評価するか。もう少し構成資産を絞るように勧告される可能性も否定できない。

 ユネスコは地域に根付く多様な文化をとらえることができる文化的景観の登録に力を入れている。世界文化遺産は1国から1年に1件しか推薦できないが、文化的景観は特別枠になっている。この枠を使えば1国から年2件の推薦も可能になる。教会群はキリシタンの生活の中で生まれた文化的景観を中心に組み立てた方が有利だ。

 ユネスコは世界遺産を支える地域と共同体を非常に重視する。教会群が世界遺産になることをカトリック信者だけでなく他宗教の人がどう考えているのか。いま教会がある風景を、長崎がたどった歴史の象徴として地域全体が受け入れているのか。そこも問われてくると思う。しっかり議論し、地域の意識を醸成しておきたい。(2016年06月18日掲載)

【略歴】1974年名古屋市生まれ。北海道大大学院博士後期課程単位取得退学後、フランス・グルノーブル第2大に留学。跡見学園女子大非常勤講師。著書「常識世界史ドリル」、編著「世界遺産大事典(上、下)」など。

© 株式会社長崎新聞社