⑤日本二十六聖人記念館館長 デ・ルカ・レンゾさん 世界に通用する物語を

 「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」は、国際記念物遺跡会議(イコモス)の中間報告で厳しい指摘を受けて推薦書の内容を見直しているが、その割に大して修正していない印象を受ける。イコモスの指摘通りに禁教と潜伏の歴史を中心に説明するのならば、構成資産を補ってもいい。

 例えば、潜伏キリシタンが信仰した外海の枯松神社や、踏み絵をさせられた庄屋屋敷の跡に建てられた浦上天主堂なども候補になるはずだ。日本二十六聖人記念館は豊臣秀吉の命で処刑された二十六聖人の殉教地にある。潜伏キリシタンが隠し持っていた聖画やメダイなど宗教具の所蔵品も豊富だ。出し方次第では、物証が少ない潜伏期を証明する資産になれる。要はストーリーに合わせて、どう資産を出すかの工夫ではないか。

 キリスト教の迫害は世界中であった。ローマ帝国時代に迫害された信徒も地下に潜ったが、儀式や祈りはそのままの形で守った。日本のキリシタンは多くの殉教者を出し、外面的には消えたように見せながら、日本的に形を変えて信仰をつないだ。そこが実にユニークだ。

 例えば仏像を聖母マリアに見立てて祈った「マリア観音」がある。信仰を通して物を見たということであり、深い信仰心の成せる業といえる。一方で、キリスト教で重要な洗礼の式文は非常に正確に伝承していた。一見すると形は変わったようだが、世界的な視点で見ると見事にキリスト教の信仰を守っている。

 殉教者が見せた愛と精神性といい、信仰を地域でつなぎ続けた共同体のあり方といい、世界中の人が深く感動する日本独自のストーリーがある。せっかくの素晴らしい物語を推薦書にもっと生かしてほしい。

 日本のキリシタンは迫害を受けながら暴力に終わらず共存する方法を見いだした。その結果、絶対駄目とされた宗教が生き残った。いまの世界では宗教や思想が基になり暴力が起きている。教会群は迫害されている人々の励ましになれるし、世界に通用するメッセージを送ることもできる。(2016年06月19日掲載)

【略歴】デ・ルカ・レンゾ 1963年アルゼンチン生まれ。イエズス会入会後に来日。上智大卒。九州大大学院修了。日本二十六聖人記念館副館長を経て2004年から現職。カトリック司祭。共著「キリシタン大名の考古学」など。

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