②旧グラバー住宅の入場制限 保全と活用ジレンマ

 世界文化遺産登録決定から一夜明けた6日。長崎市南山手町のグラバー園は平日にもかかわらず、多くの観光客が訪れ、園内の構成資産「旧グラバー住宅」を見学した。住宅に出入り口はなく、自由に室内を見て回れる。ただ、古い床や壁には傷みも目立ち始めている。吉田利一副園長は「これから入園者が急増すれば、本格的な入場制限が必要になるかもしれない」。喜びの表情が一瞬曇った。

 国際記念物遺跡会議(イコモス)は5月の登録勧告で全23施設の学術的価値を認めると同時に、保全面では来訪者が「脅威」になると指摘。施設ごとに受け入れ可能な上限数を定めるよう求めた。

 長崎市にある8施設のうち、三菱重工長崎造船所(飽の浦町)にある「占勝閣」などの3施設は非公開で問題はない。観光地化している施設では「端島炭坑」(軍艦島)が人気だが、船でしか上陸できないため、入場者数は事実上制限されている。

 イコモスが「最も危険にさらされそうな施設」と懸念しているのが、旧グラバー住宅。基本的に年中無休で年間約90万人が訪れており、点検や掃除の時間すら十分に取れていない。県文化財保護審議会会長を務める林一馬長崎総合科学大名誉教授は「住宅は国指定重要文化財でもあるが、これほどオープンな場所はどこにもない。保護の観点からすれば現状が異常」と話す。

 市は今後の保全の在り方を定めるため、2013年度に有識者の保存活用計画策定委員会を設置。今年3月にまとまった計画では、住宅の常時開放が破損につながっており、入場制限や見学コース設定を含めた公開方法の対策が必要とされた。

 市は世界文化遺産登録も見据え、ゴールデンウイークを含む4月25日から5月10日にかけて試験的に入場制限を実施。出入り口や見学コースを設け、住宅内の人数が40人程度となるよう調整した。この結果、一日で最大約4200人、平均約2千人が入館。制限に伴い、施設前に行列ができ混雑する日もあったという。

 市は繁忙期に再び試験的な入場制限を実施したい考え。室内の温度や湿度なども考慮しながら劣化のデータを集め、本格的に導入するか決める。「来訪者を制限すれば建物は傷まない。ただ、観光客が来なくなれば維持費の確保が難しくなることも忘れてはならない」(市文化財課)。資産の保全と活用の両立という難しいかじ取りを迫られている。(2015年07月10日掲載)

出入り口や見学コースがなく、室内を自由に見て回れる旧グラバー住宅=長崎市、グラバー園

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