③高島への登録効果 軍艦島との関わり 鍵

 長崎市元船町の長崎港ターミナルビル。5月に世界文化遺産の登録勧告が出て以降、構成資産「端島炭坑」(軍艦島)の上陸クルーズの船着き場では観光客が長い列をつくっている。一方、構成資産「高島炭坑」がある高島行きの高速船の乗客はまばら。大きな変化はない。

 「島がよみがえる最大のチャンス」。市高島行政センターの町田久幸所長は、世界遺産を活用した地域振興を島民に呼び掛けてきた。島の人口は1963年に1万6930人に達したが、炭鉱の衰退で激減。現在は約410人になった。にぎわうのは海水浴シーズンぐらい。「このままでは無人島になる」。島内には世界遺産への期待と同時に危機感もある。

 市は6月末までに高島港ターミナルを改修し、観光案内所や土産店、飲食店を設けた。公共交通機関は巡回バスしかないため、電気自動車のレンタルも開始。観光客の受け入れ態勢の整備を進めてきた。

 だが、登録が決まった翌日も高島炭坑を訪れる観光客はほとんど見られなかった。かつては地域の井戸として使われた小さな竪坑(たてこう)跡。「ここが世界遺産と言われてもね」。近くに住む50代男性はぼやいた。

 高島炭坑は、日本初の洋式竪坑。日本の近代化を支えた石炭業の原点で、その技術が端島に伝わるなど学術的価値は高い。観光客誘致では、見た目では理解しにくい価値をどう紹介するかが課題だ。

 ただ、「そもそも一つの資産では今回の世界遺産の価値は証明できない」とNPO法人世界遺産アカデミー(東京)の宮澤光研究員は指摘する。産業革命遺産は複数の構成資産によって世界遺産の普遍的価値を証明するシリアル・ノミネーションの手法で登録されたからだ。宮澤研究員は観光客に価値を伝えるためには「資産を持つ地域間が連携した取り組みが必要だ」とする。

 こうした意識は、高島でも芽生えつつある。高島港ターミナルの観光案内所と土産店を運営する高島振興協同組合は、軍艦島のグッズを中心に陳列。近くの石炭資料館では軍艦島の歴史も学べるほか、陸上から最も近い場所で展望できるとアピールする。同組合の松尾保代表理事(47)は「もともと高島と端島は同じ旧町。同じ魅力を紹介できるはずだ」と力を込める。

 廃虚となった異様な景色が人気の端島と、炭鉱の深い歴史を持つ高島。二つの島のつながりが地域振興の鍵を握っている。(2015年07月11日掲載)

日本初の洋式竪坑とされる「高島炭坑」。学術的な価値は高いが観光客は少ない=長崎市高島町

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