⑤戦時徴用の説明 「世界の視線」を意識

 「目を覚ませ!ユネスコ」

 2日、国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産委員会が開かれていたドイツ・ボンの世界会議センター前で、韓国の市民団体が「明治日本の産業革命遺産」の登録に反対する資料を配布していた。李国彦(イググォン)代表は「産業革命遺産はユネスコの精神と全く調和しない。日本は強制労働させられた韓国の人々に謝罪と償いをすべきだ」と強調した。

 5日、佐藤地(くに)ユネスコ日本政府代表部大使は登録審査時の意見陳述で「意思に反して連れてこられ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者がいた」と発言。「日本はインフォメーションセンターの設置など、犠牲者を記憶にとどめるために適切な措置を説明戦略に盛り込む」と表明した。

 登録決定から数日間、長崎市世界遺産推進室の電話は鳴り続けた。「世界に強制労働があったと誤解される」「どう責任を取るのか」。抗議は電子メールを含め100件以上。対応に追われた田中洋一室長は「想像以上の反応」と疲れた表情で話した。

 政府によると、「インフォメーションセンター」は国際記念物遺跡会議(イコモス)が策定を求めた説明戦略の一環として新設する。産業革命遺産の情報発信や、価値と歴史の説明を担う施設で、戦時中の徴用も説明対象になる。

 小泉内閣は2002年12月、「朝鮮人徴用者等を含め、当時多数の方々が不幸な状況に陥ったことは否定できないと考えており、戦争という異常な状態で多くの方々に耐え難い苦しみと悲しみを与えたことは極めて遺憾」とする答弁を閣議決定した。外務省幹部は「大使の発言はこの認識を述べた。なんら新しいものではない」と説明する。

 政府は今後、説明戦略の策定を急ぐ。政府関係者は「策定は日本政府主体でやる。他国がどうこうという話ではない。ただ、報告書をユネスコに提出する必要があり、内容によっては説明不足と言われることもあり得る」と話す。世界遺産委と同様、「世界の視線」を意識した内容が求められそうだ。

 強制労働があったとして韓国が問題視する7施設のうち、三菱重工長崎造船所内の3施設と「端島炭坑」「高島炭坑」の計5施設が長崎市に集中する。徴用の説明は各施設でも求められるとみられる。市と造船所の担当者は「国の方針が出ないことには何とも言いようがない」と共に困惑の表情を浮かべた。(2015年07月15日掲載)

世界遺産委員会の会場前で抗議活動をする韓国の市民団体=ドイツ・ボン市内

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