⑥外国人観光客対策 通訳ガイド育成急務

 「ここからの眺めは最高。でも、なぜこの建物は世界遺産なのだろう」。14日夕、長崎市南山手町の構成資産「旧グラバー住宅」を友人と観光した中国厦門市の大学院生、蘇健(そけん)さん(20)は首をかしげた。

 世界遺産になれば世界中から観光客がやって来る。群馬県富岡市の富岡製糸場は、これまで訪れる外国人は研究者ぐらいだったが、昨年の登録後、月平均で約200人が見学するようになった。「多文化理解」は世界遺産の大きな目的で、外国人にしっかり価値を説明することが求められる。

 県内の八つの構成資産が集中する長崎市は、円安やクルーズ船の寄港ですでに外国人観光客が増加している。市観光推進課によると、昨年度は、長崎港からの入国者が約19万9千人、市内の宿泊者数が延べ約21万2500人で、いずれも過去最多。市は世界遺産登録が追い風となるとみており、各資産の案内や説明を充実させるため、多言語の看板や音声案内装置の整備など対策に力を入れている。

 ただ、対策はハードが中心。外国人を案内する人材が少ないという指摘もある。県観光振興課によると、外国人の観光ガイドができる国家資格「通訳案内士」などの有資格者で、県に登録しているのは約120人いるが「生業としていない人も多い」(同課)。積極的に活動する有資格者は県通訳案内士協会に所属するが、会員は15人ほどで人手が不足している。土井正隆会長は「ガイドによる丁寧な案内で旅の印象もよくなる。行政は人材育成を急いでほしい」と求める。

 構成資産周辺の商店も十分な対応ができてない。旧グラバー住宅があるグラバー園の土産店通りでは、多言語で接客ができるスタッフが少ないほか、通貨の両替や外国人向け商品開発などの課題が山積。「いくら人が来ても、お金を落としやすい仕組みがないと効果は半減。官民での工夫が必要だ」。南山手地区観光推進協議会の長谷川進会長は強調する。

 長崎市の観光は、西洋との玄関口として栄えた歴史や異国情緒ある街並みを売りに、修学旅行生など国内客を主なターゲットとして成長してきた。世界遺産という新たな魅力を得た以上、「外国人にも長崎独自のストーリーを理解してもらい、快適な旅行を楽しんでもらう環境を提供しなければならない」(市観光推進課)。真の国際観光都市へと進化できるかが試されている。(2015年07月16日掲載)

クルーズ船で長崎市を訪れる大勢の外国人観光客。世界遺産の価値をいかに説明するかが課題となっている=同市松が枝町

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