元慰安婦の解決問う 足跡追った「沈黙」公開始まる

 茅ケ崎市在住の映画監督朴(パク)壽南(スナム)さん(82)の新作「沈黙−立ち上がる慰安婦」の上映が30日から、横浜市中区の横浜シネマリンで始まった。1990年代に日本政府に謝罪と補償を求めて来日した韓国人元慰安婦たちを追ったドキュメンタリー映画。苦難の人生を強いられた被害者たちの肉声や行動の足跡が、慰安婦問題の「解決」とは何かを問いかける。

 主人公たちは被害者自らが運営する会を結成したメンバー。日本政府との直接交渉を求めて94年に15人が来日し、会見や証言集会のほか、政府機関前などで訴えた。白いチマチョゴリを身に着け、楽器を打ち鳴らして都内を練り歩く姿は鮮烈だ。

 在日朝鮮人2世の朴監督は当時、「人ごとでない」との思いから元慰安婦たちの活動を支援。カメラは96年まで繰り返した来日の際に密着し続け、支援者らと共にキムチ作りや民謡を歌う素朴な姿、真剣なまなざしで被害体験を聞く高校生を前に和らいでいく表情も映し出す。

 民族差別問題をテーマにしてきた朴監督は2作目の「アリランのうた−オキナワからの証言」(91年)で慰安婦問題を提起。沖縄戦の玉砕の実相に迫った前作「ぬちがふぅ−玉砕場からの証言」(2012年)を完成させた後、脳梗塞で倒れた病床で再び制作への思いに駆られた。既に元慰安婦の多くが亡くなっており、「捏造(ねつぞう)やうそだとかが前面に出ている現状はフェアではない。この記録を今、世に出さなければ隠すことと同じだと思った」。

 特に問題の最終解決を確認した15年12月の日韓合意後は制作を急いだ。「合意は見事に被害者の声を黙殺している。その声を集めたのが『沈黙』です」と朴監督。膨大な当時のフィルムをデジタル化し、韓国の若手ドキュメンタリストの協力も得て編集、16年6月、ソウル国際女性映画祭に正式出品した。

 横浜シネマリンでの公開は来年1月19日まで(元日は休館)。問い合わせは、同館電話045(341)3180。

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