【特集】在日選手、空手で目指す東京五輪

北朝鮮代表、実現なら初

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笑顔を見せる高智蓮(右)と宋尹学=12月18日、東京都小平市の朝鮮大学校

 東京五輪で追加種目となった空手に北朝鮮代表として出場を目指す在日朝鮮人がいる。朝鮮空手道連盟が昨年10月に世界空手連盟(WKF)に加盟したことで道が開かれた。在日選手が五輪北朝鮮代表となればあらゆる競技を通じて初の快挙。朝鮮半島の格闘技というと五輪競技であるテコンドーの印象が強いが、もともと在日朝鮮人の間で、空手はサッカーなどに次いで盛んなスポーツだという。北朝鮮代表として、日本発祥の武道で東京五輪の舞台に立とうと汗を流す2人の在日選手を訪ねた。

 ▽吉報

 「この国(北朝鮮)の代表として東京五輪を目指そうと強く思った」。東京・小平市にある朝鮮大学校空手道部の女子選手、高智蓮(20)は、2016年8月に東京五輪での空手採用が正式決定したとのニュースを聞いたときの気持ちを振り返った。ちょうど、平壌での強化合宿に参加中に届いた吉報だった。

 現在2年。昨年5月にマカオで行われた空手の東アジア選手権では女子61キロ級で銅メダル。空手道部の宋修日監督は「上達が速く、年齢的に最もいいタイミングで五輪を迎える」と期待を寄せる。

 長野県出身。高校進学の際に、愛知朝鮮中高級学校に入学。空手道部に入るという寮の同室の友人に「強引に」誘われたのが空手を始めたきっかけ。それまでバレーボールに打ち込んでいた高い身体能力に目をつけたのが宋監督だった。

 まだ空手の五輪実施は決まっていない時期だったが、宋監督に「朝鮮大学校で一緒に東京五輪を目指そう」と誘われ「覚悟を決めた」。「(五輪出場の)可能性は低いけど、ゼロじゃない。目指す価値はある」と表情を引き締めた。

 ▽迷いも

 宋監督がもう一人有望選手として挙げるのが朝鮮大学校4年の男子60キロ級、宋尹学(22)。大阪府出身。大阪朝鮮第四初級学校1年の時に、在日朝鮮人の中村日出夫氏(本名姜昌秀=故人)がおこし、在日朝鮮人門下生が多い拳道会に入門。空手歴は申し分ない。

 ただ「五輪はまったく意識してなかった。選手生活は大学で終えようと思っていた」と打ち明ける。空手の五輪採用が決まり、宋監督は熱心に競技続行を勧めたが、本人の気持ちは揺れた。「五輪に出られる保証はないし、就職も遅れる」。当初は両親も反対だった。

 最終的な決断は、昨年11月ごろだという。「五輪を目指すことで後輩に道を残せる。それは今のぼくにしかできないという使命感」が背中を押した。春からも朝鮮大学校に残り、空手漬けの生活を送るつもりだ。

 ▽ひょうひょうと

 東京五輪の空手の組手は、通常男女各5階級で行われているところが各3階級に絞られ、選手数は各階級10人となる見通し。競争は厳しい上、今後の朝鮮半島情勢によっては北朝鮮の五輪参加も影響を受ける可能性もある。

 朝鮮空手道連盟副書記長も務める宋監督は「国があってのナショナルチームであり国家代表。政治とスポーツは別とは言え、心のどこかで(不参加もあり得るという)覚悟はしている」と語る。2人の若者はどうか。どこかひょうひょうとした雰囲気のある宋は関西弁のアクセントで「そういう可能性もあるんやけど…。まっ、信じます」。その宋に「なっ」と言われた高も「はい」と白い歯を見せた。(共同通信=松村圭)

けりを放つ高智蓮(左)=12月18日、東京都小平市の朝鮮大学校
組手の練習をする宋尹学=12月18日、東京都小平市の朝鮮大学校
朝鮮大学校空手道部の宋修日監督=12月18日、東京都小平市の朝鮮大学校