200勝以上=殿堂入りはもう古い!? 時代と共に揺れ動く投手の評価基準

2016年には侍U23代表監督も務めた斎藤雅樹氏【写真:Getty Images】

進む分業化、ローテーション制定着で変わる投手の在り方

 今年も野球殿堂入り候補者を選出する時期がやってきた。「野球殿堂」は、日本の野球界で多大な貢献をした野球人の功績を称え、顕彰する場だ。殿堂入りした野球人は、東京ドームに併設されている野球殿堂博物館内に、肖像のレリーフが飾られ、その功績が後世に語り継がれる。いわば野球人にとって最高の栄誉だ。

 野球殿堂の表彰は、プロ野球選手の場合は「プレーヤー部門」と「エキスパート部門」に分かれる。元プロ野球選手で引退後20年以内の人物は、プレーヤー部門での選考対象となる。プレーヤー部門は、野球報道経験を15年以上有する記者とジャーナリストが選出委員となる。まず、投票対象の候補となる30人を選び、選出委員1名につき7名以内に投票し、有効投票の75%以上を得票すれば殿堂入りが決まる。元プロ選手で引退後21年を経過した人物は「エキスパート部門」での選考対象となる。

 選考に明確な成績基準はないが、かつては野球殿堂入りの基準は「2000本安打」「200勝」だった。

 近年は2000本安打を達成する選手が続出し、2000本安打=殿堂入り当確、とは言えなくなってきたが、反対に200勝投手は2015年に引退した山本昌氏を最後に「絶滅危惧種」になろうとしている。200勝を殿堂入りの目安にすると、今後は殿堂入りする投手がほとんどなくなる。こうした現実を踏まえ、最近の殿堂入り表彰では200勝未達でも選出される野球人が増えている。

200勝以上で殿堂入りしていないのは2人だけ

 2017年終了時で通算150勝以上を記録した投手48人の殿堂入り状況を見てみよう。「★」が殿堂入りした投手、「候補」は現在プレーヤー部門で殿堂入り候補者になっていることを示す。「新候補」は今季からの有資格者、「エキスパート候補」はエキスパート部門での候補、「現役」は現役選手を示す。「年限未」は引退後5年を経過せず候補資格を持たない人物だ。

1金田正一 400勝 ★
2米田哲也 350勝 ★
3小山正明 320勝 ★
4鈴木啓示 317勝 ★
5別所毅彦 310勝 ★
6スタルヒン 303勝 ★
7山田久志 284勝 ★
8稲尾和久 276勝 ★
9梶本隆夫 254勝 ★
10東尾修 251勝 ★
11野口二郎 237勝 ★
11若林忠志 237勝 ★
13工藤公康 224勝 ★
14村山実 222勝 ★
15皆川睦雄 221勝 ★
16山本昌 219勝 年限未
17杉下茂 215勝 ★
17村田兆治 215勝 ★
19北別府学 213勝 ★
20中尾碩志 209勝 ★
21江夏豊 206勝 
22堀内恒夫 203勝 ★
23平松政次 201勝 ★
24藤本英雄 200勝 ★
25長谷川良平 197勝 ★
26秋山登 193勝 ★
27松岡弘 191勝 エキスパート候補
28石井茂雄 189勝 
29川崎徳次 188勝 
30杉浦忠 187勝 ★
30足立光宏 187勝 エキスパート候補
32小野正一 184勝 
33西口文也 182勝 年限未 
34斎藤雅樹 180勝 ★
35真田重蔵 178勝 ★
36星野伸之 176勝 
37成田文男 175勝 
38荒巻淳 173勝 ★
38桑田真澄 173勝 候補
40三浦大輔 172勝 年限未
41高橋直樹 169勝 
42高橋一三 167勝 
43坂井勝二 166勝 
44西本聖 165勝 
44佐藤義則 165勝 候補
46土橋正幸 162勝 エキスパート候補
47槙原寛己 159勝 
48石川雅規 156勝 現役

 200勝以上で殿堂入りしていないのは、引退後5年が経過していない山本昌氏と江夏豊氏だけ。江夏氏は清原和博氏と同様、覚せい剤の所持・使用で有罪判決を受けており、この影響が大きいと思われる。

 150勝以上200勝未満では6人の投手が殿堂入りしている。実働期間が短くても一世を風靡する活躍をした投手や、援護が乏しい弱小球団のエースが選出されている。

 2016年に選出された斎藤雅樹氏は180勝だが、最多勝5回、MVP1回と巨人の一時代を支えた。昭和中期の投手のように30勝を挙げるような活躍はしなかったが、ローテーションが確立されて登板機会が減った中で「相対的な好成績」を挙げたことが評価された。これにより、150勝前後の投手にも、今後は殿堂入りの希望が見えてきたと言えそうだ。

救援投手の殿堂入り、日米通算は?

 さらに、救援投手も殿堂入りするようになった。150セーブ以上を記録した投手の殿堂入り状況を見てみよう。

1岩瀬仁紀 404S 現役
2高津臣吾 286S 候補
3佐々木主浩 252S ★
4サファテ 229S 現役
5小林雅英 228S 
6藤川球児 223S 現役
7江夏豊 193S 
8馬原孝浩 182S 年限未
9クルーン 177S 
10武田久 167S 年限未
11永川勝浩 165S 現役
12豊田清 157S 
13平野佳寿 156S 現役

 名球会は「250セーブ以上」も入会基準にしているが、野球殿堂も2014年に252セーブを挙げた佐々木主浩氏を選出した。現役の岩瀬仁紀、候補になっている高津臣吾氏も、その基準で言えば「当確」か。サファテはこれまでのペースでセーブを量産すれば、2018年中に佐々木氏を抜いて歴代3位になるが、殿堂入り「当確」となるのだろうか。

 ただし、佐々木氏はNPBでの252セーブに加え、MLBでも128セーブを挙げている。これを評価しての殿堂入りだとすれば、そのハードルは250セーブより高くなるだろう。

 150ホールド以上を記録する投手の殿堂入り状況はどうだろう。

1山口鉄也 273H 現役
2宮西尚生 257H 現役
3浅尾拓也 200H 現役
4五十嵐亮太 157H 現役
5マシソン 152H 現役

 全員が現役だ。浅尾拓也は近年、不振に喘いでいるが、セットアッパーとして唯一MVPに選ばれている。引退後にその功績がどのように評価されるか注目だ。

 さらに、投手の場合は「日米通算」という考え方も出てきている。日米通算で150勝以上に達した投手を見てみよう。

1野茂英雄 MLB123勝 NPB78勝 ★
2黒田博樹 MLB79勝 NPB124勝 年限未
3岩隈久志 MLB63勝 NPB107勝 現役
4ダルビッシュ有 MLB56勝 NPB93勝 現役
5松坂大輔 MLB56勝 NPB108勝 現役
6田中将大 MLB52勝 NPB99勝 現役
7石井一久 MLB39勝 NPB143勝

 野茂英雄氏は2014年に殿堂入りしたが、NPBでは78勝だったことを考えると、MLBでの活躍が評価された事実は明らかだ。これを前例とすれば、2016年オフに引退した黒田博樹氏も「当確」だろう。3位から6位までの現役投手も、日米通算200勝を挙げれば「当確」となるのか。

 投手に関する殿堂入りの基準は、今、揺れ動いている。投手の分業が進み、これまでの評価基準が通用しなくなったからだ。また、トップクラスの投手がほとんどMLBに移籍する中で、「日米通算」も無視できなくなった。

 野球を取り巻く環境の変化と共に、殿堂入りの基準も変化している。今年は誰が選出されるのだろうか注目が集まる。

(Full-Count編集部)

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