【新春インタビュー】〈日本鉄鋼連盟・進藤孝生会長に聞く〉2018年、鉄鋼業さらなる成長を期待

――鉄鋼業界にとって、昨年(2017年)はどのような年だったのでしょうか。

 「政治・経済面では変動の大きい1年だった。1月の米トランプ政権の発足に始まり、欧州ではフランス大統領選のほか、ドイツ、オランダで政権選択の総選挙が行われた。一方、中
国では10月に5年に1度の共産党大会。習近平体制が2期目に入り、権力基盤をより強固にした印象だ。さらに北朝鮮をめぐる動きが活発となり、その地政学的リスクがより顕在化し

たことも記録にとどめておくべきだろう。ただ、政治面で不安材料が多かった割に、世界経済はおおむね堅調に推移した。米国経済が底堅く推移したほか、欧州も総じて堅調だった。中

国は新常態(ニューノーマル)あるいは小康社会の実現に向けて、ソフトランディングに成功しつつある」

 「日本経済も好調な1年といってよいと思う。いざなぎ景気超えといわれるように、主要な経済指標はいずれもプラスの数字。政治面では突然の解散・総選挙があったが、選挙の結果

、政権基盤がより安定化しており、これも経済面ではプラスに働いている」

――鉄鋼業界も好調な1年でした。

 「16年が『苦労の1年』だったとすると、17年は好転の年となった。事業環境に横たわっていた課題が一つずつ改善に向かった1年といえる」

 「世界鉄鋼協会の見通しによると、17年の鋼材見掛け消費量は16億2200万トン。これは17年10月時点の見通しで、4月に公表した15億3500万トンに対し、1億トン

近い上方修正となった。17年の水準は過去最高レベルで、その数字が象徴するように世界の鋼材マーケットは年間を通じて好調に推移した」

 「中国の粗鋼生産も過去最高レベルで推移。中国では昨年、『地条鋼』と呼ばれる違法操業がクローズアップされた。政府の規制強化によって『地条鋼』は昨年6月までにほぼ全廃し

たもようだ。5千万トン以上とされる『地条鋼』の生産分が既存の転炉・電炉メーカーにシフトしたことが生産統計の数字を押し上げたことは間違いないが、その分を差し引いても3%

程度の成長を遂げたのではないか。一方、17年の中国の鉄鋼輸出量は1億1千万トンを超えた16年に比べ3割方減っている。輸出減は中国の内需の強さを反映したものといえるが、

世界の鋼材マーケットにとっては需給を引き締める上で大きなインパクトとなった。特に薄板類、特殊鋼棒線などでその傾向が顕著だ」

中国経済、ソフトランディングへ/中国鉄鋼業の構造改革、「日本の経験伝え、後押し」

――今年、2018年はどのような年になるとみていますか。

 「世界経済は、地政学的リスクへの注意が必要となるが、先進国を中心におおむね堅調に推移するとみている。国際通貨基金(IMF)のGDP成長率予測は世界全体でプラス3・7

%。この数字が物語っていると思う。世界鉄鋼協会の見通しも世界経済の好調さを背景にしており、鋼材見掛け消費量は16億4800万トンと17年比で1・6%増える見込み。鉄鋼

業界に関してはさらなる成長が期待されているとみてよい」

――中国経済はどうでしょうか。

 「不動産バブルの崩壊、金融危機など、さまざまなリスクが取り沙汰されていたが、そうした懸念は最近、後退しているようだ。中国自体も将来に対し自信を深めている。昨年12月

の日中CEO等サミットで中国の経営者と話したが、彼らは将来について楽観的な見通しを語っていた。懸案のサプライサイド改革も着実に進ちょくしている。経済界の合同訪中団が昨

年11月に李克強首相をはじめ政府高官と会談したが、中国側はその中で『構造調整の計画を継続する』と強調した。環境規制の強化などと合わせ、サプライサイド改革に対する中国政

府の強い姿勢がうかがえる。こうしたことも含め中国経済が先行き、停滞に入る可能性は低いとみてよいのではないか」

――日本の鉄鋼需要も好調を持続するでしょうか。

 「17年後半以降の内需の好調さが持続するとみている。経済産業省の生産計画集計によると、昨年10~12月の粗鋼生産量は2695万トン。これを織り込むと17年通期(1~

12月)の粗鋼生産量は1億500万トン程度と、ほぼ16年並みとなる。18年はこの水準を上回るとみている。リスク要因としては、過剰能力問題、米国の通商拡大法232条に代

表される保護主義の動きなどがあるが、内需に関しては、製造業向けに加え、東京オリンピック・パラリンピック関連の需要増なども見込まれている。総じて業況は悪くないと思う」

――過剰能力問題では昨年、この問題を話し合う多国間協議「グローバル・フォーラム」の閣僚会合が開かれました。

 「グローバル・フォーラムは昨年11月30日の閣僚会合で、能力削減を進ちょくさせる際の六つの原則と具体的な政策的解決策について合意した。さらに、各国が提出した生産能力

などのリストを検証する具体的な手法についても合意、一定の成果があったと評価している。その点では日本政府に改めて感謝したい。鉄鋼連盟としても引き続き、政府の取り組みに協

力していくつもりだ」

 「能力削減問題が着実に進むかどうかは、やはり中国に懸かっている。中国のサプライサイド改革の中で、鉄鋼業の非効率設備の淘汰も着実に進んでいるが、18年以降も継続してい

くことが重要。鉄鋼連盟は中国鉄鋼業に対し、日本鉄鋼業の合理化の経験を伝えるとともに、鉄骨造の普及事業に協力するなどして、需給ギャップ解消につながる新規需要創出プロジェ

クトを後押ししている。これらを通じて中国の取り組みを側面から支援していきたい」

米国の通商拡大法232条/発動すれば各国で対抗措置も/省エネ技術、低炭素製品「温暖化対策に貢献」

――米国の通商拡大法232条もそうですが、昨年は鉄鋼貿易をめぐる保護主義の動きが広がりました。AD(反不当廉売)措置などは足元で減少傾向にありますが、再燃の懸念は残り

ます。

 「鉄鋼連盟としては、自由貿易体制が成長と繁栄の前提条件という立場を取っており、232条に限らず保護主義の広がりには憂慮している。232条については、米国が発動すれば

各国による対抗策が広がる可能性が高く、自由貿易体制を揺るがしかねない事態と認識している。まさにパンドラの箱を開けるようなものだ。日本の鉄鋼製品輸出は主に現地で製造でき

ない高級鋼。この点は、米議会の公聴会で現地ユーザーが証言している。いずれにせよ、232条については、今後の動きを注視するつもりだ」

 「足元では中国の鋼材輸出が減少傾向になっているとはいえ依然規模は大きく、東南アジアなどでは相変わらず保護主義の動きが続いている。新興国にとっては、自国鉄鋼業の育成が

課題でもあるので、貿易摩擦の火種がなかなか消えない。日本としては、経済産業省が各国・地域と行っている鉄鋼対話などを通じ、誤った事実認識、思わぬ誤解に基づく貿易摩擦の未

然防止を図っていきたい」

――日本のものづくり産業の国際競争力を損なう「6重苦」問題がありました。このうち円高と法人税は解消に向かっています。ただ、電力料金の高止まり、地球温暖化対策をめぐる不

透明感など、全てが解消したわけではありません。

 「地球温暖化問題は、年末のポーランドでのCOP24(国連気候変動枠組み条約第24回締約国会議)で、パリ協定の具体的な実施指針を決めることになっており、それに向けてさ

まざまな動きが出てくる。日本政府には、省エネ技術や優れた低炭素製品の供給といった日本ならではの貢献の在り方を世界に発信していくことを期待したい。鉄鋼連盟としては、20

年に向けた低炭素社会実行計画の着実な実施を通じて、地球温暖化対策に貢献していくつもりだ。温暖化問題では50年に向けての長期戦略をどうするのかも課題。日本は、経済産業省

が示した通り、国際貢献、グローバル・バリューチェーン、革新技術の三つを柱に、取りまとめていただきたい」

 「電力料金の関連では今年、エネルギー基本計画の見直しに注目している。エネルギー多消費産業である鉄鋼業界は、東日本大震災以降の電力料金の高止まり、再生可能エネルギー固

定買取制度(FIT)による賦課金負担の増加などで、国際競争の面で極めて不利な立場に立たされている。特に電力消費原単位の高い電炉メーカーにとっては死活問題ともなっている

。鉄鋼連盟はかねて、安全が確認された原子力発電所の再稼働、FIT賦課金の歯止めなどを訴えているが、基本計画見直しに際しても鉄鋼業界の現状を説明しつつ、高コスト状態の解

消を訴えていきたい」

――鉄鋼連盟として、このほかに重点取り組み課題はありますか。

 「安全・衛生の取り組みをさらに強化したい。安全成績は昨年、改善はしているが、まだ課題は多い。この問題では昨年、製造業安全対策官民協議会が発足し、複数の業界団体が協力

して安全対策の強化を進めている。私も昨年9月のトップ会談に出席し、鉄鋼業界の取り組みなどを報告した。こうした枠組みを生かして、取り組みを深化させていきたい」
(聞き手=高田潤鉄鋼部長)

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