【新春インタビュー】〈日本鉱業協会・中里佳明会長(住友金属鉱山社長)〉非鉄金属18年も不足バランス継続 価格も底堅い展開を予想、成長戦略を進める良い環境

リサイクル原料輸出入適正化への法改正、国内での資源循環促進に期待

――昨年の振り返りからお願いします。

 「国内外の非鉄金属価格ならびに需給が比較的堅調に推移し、近年では最も良好な事業環境だったと思う。特に価格は緩やかな上昇が続いたということもあり、業績を決算にわかりやすく反映できるという意味で企業経営もやりやすい年だったのではないか。価格は堅調な需給バランスをベースに、円安進行、良好な世界経済と金融緩和の継続、中国経済の成長期待などが上昇要因となった。需給も金属によって事情は異なるが、総じて不足バランスが一昨年から続く、あるいは今年も続いていくと思われる状況が継続し、国内需給も安定的に推移した」

――製錬8社の17年4~9月期決算は全社が増収増益でした。

 「やはり金属価格が安定的に上昇基調で推移したのが一番大きい。為替も円安気味で推移し、各社とも損益が大幅に改善した。それから各社が進めている成長戦略の中で資源、製錬以外の事業、例えば電子材料などの事業が好調だったことも大きな要因だ。結果的に8社合計の営業利益は前年同期比76%増という非常に良い決算になった。また、各社が権益を有する海外鉱山の決算は暦年ベースで各社の通期決算に反映されるため、12月までの価格推移を見る限り、通期も好業績が期待できると考えている」

――今年の非鉄金属価格および需給のトレンドをどうみていますか。

 「業界では基本的に主要な非鉄金属の不足バランスが継続するという見方が大勢であり、需要が大きく崩れるという要素はやや遠ざかりつつあると思われる。不足バランスが継続すると考えれば価格も底堅く推移し、足元の水準から大きく変わらずに推移するだろうと予想する。そういう意味では18年度も引き続き安定的な環境になると見込まれ、各社がそれぞれの成長戦略を進めるには良い環境になるのではないか。加えて、業界にとって着目すべきは日本のものづくりの中で素材、材料の重要性が改めて認識されてきたのではないかということ。個人的には昨年はそれが顕著に表れた年だったと感じている。資源、素材の確保というセキュリティの問題と、電気自動車(EV)に代表されるように最終製品のコンセプトが大きく変わっていく中で、需要家のニーズに合った素材をいかに開発していくか、あるいはそれをどう提供していくかという役割が強く求められるようになってきた。その二つの意味で材料を供給する業界の機能に対する期待感、存在価値といったものが高まりつつある。資源、素材、材料が経済を支える上で重要なものだと再認識されてきたことは業界にとってありがたいこと。特に人材の確保・育成という点では、業界への注目度が高まり、マスコミなどを通じて認知度が高まることが一番の早道だと考えている」

――素材メーカーと需要家が一緒に資源確保に動くということは。

 「今は一件当たりの資源開発費用が非常に高騰している。また、社会的な操業の認可を得ることがマストで、さまざまな制約条件も増えている。資源開発にはそれらをクリアする必要があるが、どういった企業がそのリスクを負えるかというのは難しい問題だ。そういう意味では当業界に期待される一つの機能として資源セキュリティの問題はついてまわる話だし、これまでも我々はそれを生業としてきたわけなので、その責任を果たすということは重要な役割の一つだと考えている。一方で、資源開発リスクは基本的に各企業が負うものだと思うが、その上で需要家なり国なりに全体としてどう支えてもらうかということに関しては、もう少し発信していくべき部分もあるかもしれない」

――中国経済の動向をどうみていますか。

 「中国経済は徐々に減速していくと言われるが、これだけ世界経済に占める影響力が高まっている中で一国の事情だけで動くというのは難しくなっていると思う。世界経済そのものがこれだけグローバル化してくると、どこかの国がとった施策の影響は必ず連鎖反応を起こすし、中国も世界経済をある程度考慮しながらそれなりの経済政策を打ってくると思う。世界経済にマイナスの影響を与えるようなことにはならないだろうと期待している」

――中国では鉄鋼やアルミで過剰能力削減の動きがみられます。ベースメタルについてはいかがでしょうか。

 「環境負荷があるような老朽設備を淘汰し、効率的な設備に生産を移行しようという動きはいずれ出てくるだろう。それが行われないと政策的な矛盾となってしまう。ただ、銅は明らかに輸入ポジションなので鉄鋼やアルミとは需給構造が違い、一気にそれが進むとは考えづらいとも思う」

――業界が要望してきた鉱業関連税制の延長が決まりました。

 「海外投資等損失準備金制度並びに金属鉱業等鉱害防止準備金制度の重要性、必要性については協会として関係省庁や国会議員の先生方に最大限の存続を要請してきた。一部縮減はされたが、両制度の延長が決まり、尽力していただいた方々に感謝したい。重要なのはこうした制度があることで日本は資源を確保したいのだという意向が資源国にも伝わるし、企業もそうした国の支援を得られている、大事にされている業界の会社とみてもらえることだ。資源開発は民間会社が自らのリスクで取り組むのが基本だが、資源開発をめぐる環境がこれだけ厳しくなっている中で政府の適切な資源確保策による支援は必要不可欠だ。資源開発投資には多くのリスクを伴い、その成果も長期にわたって出てくるもの。そういう意味では企業経営を安定化させる点で両制度の延長は非常にありがたい」

――電力多消費型産業である製錬業界では電力問題も引き続き課題となっています。

 「政府によるベースロード電源の開発ロードマップに沿って進めてもらいたいというスタンスに変更はない。16年度は原油価格の下落で燃料調整費が下がったため、対10年度での電力コスト上昇幅が15年度に比べ縮小しているようにみえるが、FITの賦課金は増え続けているし、原油価格が今後も低水準で推移するとは限らない。協会としては国際的に遜色のない価格水準での安定的な電力供給を早期に実現してもらいたいという要望を引き続き訴えていく。そうしないと将来的な海底資源開発や資源循環型社会を実現する上で重要なインフラである国内の製錬所の存続にも影響しかねない」

――17年度にはリサイクル原料の輸出入適正化を後押しする法改正がありました。

 「使用済鉛蓄電池の輸出手続きの強化については環境省、経済産業省の尽力もあり、関連省令が昨年6月に施行された。これで環境上適正な処理を前提とした、国内企業と海外企業の公平な競争ができるようになると期待している。すでに承認された輸出枠があるので韓国への輸出は夏ごろまで続く見込みだが、新規輸出承認の抑制については徐々に改善している。今後は日本企業によるリサイクルも本格的に増えていくだろう。一方、Eスクラップの輸入手続きの簡素化についても今後の省令で確定する見通しで、秋ごろから処理がしやすい環境になると期待している」

――EVの普及やIoT(モノのインターネット)による需要拡大が期待されている。

 「これらが非鉄金属需要を押し上げることは間違いない。EVになれば車1台当たりの銅使用量も増えるし、業界にとっては歓迎すべきこと。我々としては供給責任を果たすべく今後も海外で資源確保に全力を挙げて取り組んでいく」

 「世界的なEV化の流れについてはさまざまな数字が独り歩きしているが、そのキャパをどう確保するか、あるいはそれに見合った材料や部品をどう調達するかという観点で整理が必要だろう。例えば電池で注目されているニッケルを例にとると、現在の世界の供給量は約210万トンあるが、含ニッケル銑鉄やフェロニッケルは電池向けには使えない。そうなると電池に使われるニッケルの需給バランスというのは非常に小さい規模の中で動いていることになる。それがどういう形で全体に影響を及ぼしてくるかがまだみえない。海外企業がメタル向けのニッケルを電池向けに転換するという話もあるが、そうした動きが出てくればその分は増える可能性はある。将来的には他の業界でもプロダクトミックス、もしくはセールスミックスの問題は起き得ると思うが、強調しておきたいのは日本の供給者は既存の需要家から乗り換えることはしないということ。原料と生産能力をそれなりに確保し、できるだけ需要家のニーズに応えていくことを最優先で考えていくになるだろう」

――産官学連携での技術開発の状況は。

 「銅鉱石からのヒ素分離技術やリサイクル品の前処理による不純物除去技術、リサイクル品からのレアメタル回収技術などに継続して取り組んでいる。例えば日本の強みである技術力を鉱山に対して提供できれば日本企業が海外で資源を求めていく際の一つの大きな強みになる。また、長期的な観点で言えば、海洋資源開発の技術確立も重要な取り組みだし、とりわけ昨年は海底熱水鉱床の連続揚鉱に成功したというのが明るいニュースだった」

――人材確保・育成の取り組みについてもお願いします。

 「業界として地道にPRしていく必要がある。ただ、先ほど言ったように素材、材料に世間の注目が集まってきたというのは非常に大きい。この機を逃さずに各社各様に上手くPRできれば望ましいと思う。協会としては一昨年に小学生を中心とした若年層を対象とした展示ブースを科学技術館に設けたが、直近の新たな取り組みとしては、経団連の下部組織である経済広報センターの企業人派遣講座への講師派遣を今年から始める予定だ。これは大学の出張講座で製錬企業の社長など経営幹部に講演してもらおうという企画。もう一つは、各社が大学に寄付講座を持ってそれぞれ活動しているが、講師の派遣で協力し合うなど上手く機能的に結びついて展開できるようになれば大きな戦力になるのではないか」(相楽 孝一)

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