【新春インタビュー・2018年の展望を聞く】〈多田明弘・経済産業省製造産業局長(上)〉鉄鋼・非鉄金属産業「枠にとらわれず未来像を」 世界経済、回復傾向続く

地政学的リスクを注視

 2018年が始まった。鉄鋼業界を取り巻く環境は昨年後半から好転し始めており、良好な環境の中、年明けを迎えた。新しい年も好調が持続するのか。経済産業省の多田明弘製造産業局長に、経産省の産業政策と合わせ、18年の見通しを聞いた。(高田 潤)

ものづくり産業の生産性伸び悩み、IoT活用で克服

――今年の景気動向をどうみていますか。

 「世界経済は全体として緩やかなペースで回復している。IMF(国際通貨基金)の予測によれば18年の世界のGDP成長率は3・7%。米国をはじめEU(欧州連合)、中国、ロシア、日本など多くの国で成長加速が見込まれており、今年も回復傾向が続くことが期待される」

 「日本経済はこの5年間、アベノミクスによる『改革の矢』によって、停滞状況を打破することができた。それは各種の経済指標が物語っている。名目GDPは過去最高の水準、実質GDPもプラス成長を続けている。企業収益も過去最高の水準だ。また雇用状況も大きく改善、就業者数は185万人増加した。正社員の有効求人倍率が調査開始以来、初めて1倍を超えたことからも雇用・所得環境は大きく改善したといってよい。海外経済の不確実性や金融資本市場の変動による影響など不安材料が全くないわけではないが、日本経済は今年も緩やかに回復していくとみている」

経済産業省・多田製造産業局長

――今年、最も注目している点は。

 「昨年までに大筋合意したTPP11、日・EU経済連携協定(EPA)が早期の署名・発効に向けて、順調に進むかどうかを注目したい。地政学的リスクでは、やはり北朝鮮問題。この問題が解決に向かわないと、安心して事業に専念できる環境が損なわれかねない。また中東情勢、英国のEU離脱問題なども注視したい。米国の新政権発足、欧州各国の政権選択選挙、中国・共産党大会などがあった17年に比べると、18年は政治イベントが少ないと思われがちだが、楽観はできない」

――鉄鋼、非鉄金属業界ともに国際競争力の維持強化が課題となっています。ものづくり産業が持続的発展を遂げる上で、今後はどのような点が課題となるでしょうか。

 「先進国共通の課題といえるのが生産性の伸び悩み。これを克服するには人や設備への投資を積極的に進めていくことはもちろんだが、IoT(モノのインターネット化)などを駆使しながら、新たな付加価値を顧客に提供するといった試みも必要だろう」

 「製造業の『生産性革命』の実現に向けて、一つのカギとなるのが『コネクテッド・インダストリーズ』。政府が昨年3月に提唱したもので、さまざまな業種、企業、人、機械がつながることで新たな価値が創出され、多様な顧客ニーズあるいは社会の課題を解決するという未来像だ。例えば日本のものづくり産業の強みである『高い技術力』『臨機応変に対応可能な現場力』を生かした『スマートモノづくり』などが想定されており、金属産業においても既存の枠にとらわれない未来像を描くことができると考えている」

 「経産省では現在、金属産業の競争力に資する研究開発プロジェクトとして、環境調和型製鉄プロセスの技術開発、いわゆるコース50をはじめ、幾つかのプロジェクトを推進中。これらのプロジェクトは、国際競争力の強化だけでなく、地球温暖化問題への対応という意味でも意義が大きい。特に鉄鋼業は我が国産業部門のCO2(二酸化炭素)排出量の約4割を占める。省エネ効率は世界最高水準にあるが、さらなる技術開発を通じて、30年先を見据えた革新的なイノベーションを追求してもらいたい」

――製造現場の安全対策は確実に進展しているが、まだ重大事故やサプライチェーンに影響を及ぼしかねない設備トラブルなども発生しています。

 「安全対策の強化はものづくり産業にとって重大な課題。昨年は、官民が連携し、経営層参画の下で業種横断的に議論や情報共有ができる場として、『製造業安全対策官民協議会』を立ち上げた。昨年9月には、鉄鋼、化学、製紙の3業界団体のトップによる会談を開催。その中で、安全対策の根幹となる『4つの経営理念』を策定した。この理念に基づく行動計画を多くの企業や業界団体が策定し、それぞれが自主的に取り組むことを期待している」

――経産省は昨年、サプライチェーン全体にわたる取引環境の整備に乗り出しました。

 「鉄鋼では、建設会社―鉄骨加工業者▽鋼材加工業者―鉄骨加工業者▽一般缶事業者―菓子メーカー間の各取引、非鉄金属では電線の件名先物取引契約などで、不適切な取引事例が指摘されてきた。こうしたケースを明確に示したガイドライン『金属産業取引適正化ガイドライン』を昨年2月に策定。また、3月には金属関連業者と建設業者との取引改善を目的に、製造産業局長と国交省・建設産業局長との連名で、建設業106団体に対し取引条件改善を求める要請書を発出した。その後、全国各地で講習会を開き、一連の取り組み状況を説明してきたところだ。この問題は一朝一夕には解決しないが、鉄鋼、非鉄金属産業のみならず、周辺産業への周知徹底が重要。引き続き官民で力を合わせて取り組みを強化していきたい」

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