EV化が東海地区鉄鋼需要にもたらすもの

変わる「日本のものづくり」

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 東海地区の鉄鋼需要を支える「自動車」が今、大きな転換点に差し掛かっているといわれる。その先端にあるのが、EV(電気自動車)と自動運転。エンジンがなくなれば、特殊鋼を中心に需要構造は大きく変わる。軽量化が進んで鉄以外の素材が増える。自動運転技術が確立すれば、電磁鋼板などを除き、外板などはさらに鉄から離れる恐れもある。自動車の「パラダイムシフト」は鉄鋼需要や使用素材、再資源化などにどのような変化をもたらすのか。

自動車向け鋼材

超ハイテン、拡大進む/他素材との競合も

 「最近は、自動車部品等の開発での素材開発ウエイトがやや下がっている」と、ある自動車部品メーカー関係者。機構や既存素材の組み合わせなどで開発を進める傾向が強まっているという。軽量化研究が進んで鉄離れを起こしているのか。それとも、鉄の素材開発は限界に達したのか。

 そうした中、足元では超ハイテン鋼(120キロ鋼以上)の使用比率が着実に高まっている。この難加工に挑む流通加工業者や金属プレス加工業では、苦闘の日々が続く。

 諸コスト増分のエキストラ価格体系も整備途上。適正化を進めなければ、日本のものづくりがさらに歪む。「昨年はその歪みが品質保証問題にまで発展した」との指摘も根強い。コスト競争力の強化は必要だが、それがものづくりを支える人たちの過度な負担の上に成り立つようではいけない。

 「EV転換」の話に誘われて中小の加工業者が浮き足立ち、足元のフル生産にさえ懐疑を抱くようになることも、日本のものづくりの全体最適にはマイナスなのではないか。むしろ自動車生産の海外移転、現地調達への対応という方が課題に思える。

 もちろん、2020年のCO2排出規制に連動する形で、世界の主要国・地域は今、燃費規制に取り組んでいる。EUでは、21年の自動車の燃費を15年比で3割近く向上させるという高い目標だ。いやがうえでもEV論議が出る。

 その上、日本の優れた特殊鋼製品を海外で思うように調達することは予想以上に難しい。世界的な自動車需要増が続くと見込まれる中で、今でさえ厳しい特殊鋼需給がさらにひっ迫することは、足元の感覚からは想像しがたい。そのために出てきたEV議論という側面さえあるのではないか。

2050年、EV普及の世界/「5億台」をどう考えるか

 さて、関心の高まるEVだが、今、世界で走っている自動車の台数はざっと12億台とされる。それが2050年には「16億台」との予想がある。そのうちどれぐらいがEVになるのか。さまざまな予測はあるが、多くても「5億台」。これをどう考えるか。また、技術革新は進んでいるものの、EVの弱点もまた多い。充電基地の問題や、さまざまな気候条件で使うことは可能なのか、など。まずは欧州地域や先進国を中心に普及することになりそう。

 これに自動運転システムの進化が重なる。郊外で安全に路線バスなどを運行させるためのシステム開発も進んでいる。高齢化が進む郊外型の新たな交通体系の模索だ。

 自動車メーカーにとっては、動力構造が大きく変わることは抜き差しならぬ問題になる。特殊鋼専業メーカーなどででは特に、その流れに対する懸念が強い。「将来的に、自動車用の特殊鋼鋼材は大幅に減る」との危機感だ。そのため、磁石などの研究開発に力を入れる動きも出ている。中期計画で思い切った戦略展開を模索する動きも出てきた。実際、足元の自動車ニーズも、発電や電池などの関心が大きく販売に影響する。EVが単なる流行に終わるとは思えないが、冷静な判断もまた、必要だろう。

特殊鋼需要

業界の動向に注視必要

 EV化が想定通り進んだ場合、特殊鋼需要にどのような影響が出るのか。

 まず、エンジン、排気処理装置、トランスミッションなどパワートレイン部品向けの材料がほとんど不要になる。また、シャフト類を中空化したり他素材へ切り替えるというケースも増える。いずれもマイナス要因だ。

 EV比率が上昇すれば、足元で堅調なKD部品も減少するだろう。また、樹脂から炭素鋼に変わるブレーキピストンなど、EVでの使用数量が部材、鋼種によって増加する場合もある。ばね鋼は全体の使用数量が増えると予想され、EV化が原単位縮小に直結するわけではなさそうだ。

 しかし世界的なEV、PHV化の流れは避けられない。目先の動きは小さくとも、その影響がじわりと及び始めそう。製販ともこれからの自動車市場、部品メーカーの動向を注意深く、的確につかみ続ける必要がありそうだ。

再資源化問題

スクラップの管理にも難しさ/炭素繊維樹脂注目もリサイクル性に課題

 自動車の軽量化やEV化が進めば、当然発生する鉄スクラップの性質や等級などに大きな違いが出てくる。電池のリサイクルにもさまざまな対応が必要になる。また自動運転が完成すると、鉄以外の素材や鉄と樹脂等の異材接合も増え、再資源化への課題も増える。逆に、この波を「好機」と捉え、新たな原料リサイクル技術の確立に取り組む鉄スクラップヤード業者も出てきている。

 軽量化は、ハイテン鋼やその他特殊鋼に近い素材の比率を高めている。EV化が進んでも、この流れは基本的に変わらないだろう。これに、樹脂などの再資源化、鉄と樹脂によるハイブリッド素材の比率も増えそうだ。

 地区の鉄スクラップ業者。「最近、自動車部品メーカーから発生するスクラップの管理が難しくなってきた」と語る。ハイテン鋼などの比率が上昇し、炭素、ボロン、マンガンなどの比率が高まったスクラップが増え、選別が難しくなってきた。鋳物用として使いにくいスクラップも増えているという。

 自動車の軽量化を進める素材として炭素繊維樹脂なども注目されているが、やはりリサイクル性には課題があるようだ。燃料タンクなどで樹脂を用いるケースも増えており、そうした部品についてはリサイクル技術も進歩している。

 EVの普及で加わるリサイクル製品といえば、電池だろう。すでに豊田通商などはそうした変化に対応し、電池のリサイクル戦略を強化している。

 HVについてもそうだが、電池の再資源化の課題は、中古車市場で載せ替えられる電池の問題としても捉えることができる。中古車として販売される段階ですでに、電池は交換するケースもあるからだ。

競争力ある再資源化ビジネス必須

電池の原材料に変化も/リサイクル側の対応も課題

 静岡県大手総合リサイクル業のエコネコル(本社・富士宮市、社長・佐野文勝氏)では、廃リチウムイオン電池の再資源化に着眼。5年ほど前から同電池の電極材メーカーから発生する正・負極材の端材からレアメタルを回収する技術開発を進めている。

 アルミ箔に塗布するコバルト、ニッケル、マンガン、リチウムなどの活物質や、銅箔に塗布されるカーボンを剥離するプラントを導入し、アルミ、銅を回収する。

 正極材から剥離した活物質からコバルトなどのレアメタルを抽出する技術開発も進める。経産省による支援(レアアース等利用産業等設備導入補助事業)を受け、溶媒抽出テストプラントを導入してコバルトを安定的に回収する。

 レアメタルの回収は、物理的選別に加えて化学的選別を経るため、金属スクラップのリサイクル以上にコストがかさむ。レアメタルの国際相場は変動が激しく、相場動向によっては採算が取れなくなる。相場に左右されない競争力ある再資源化ビジネスが求められる。

 さらに「コンパクトで高容量の電池をつくろうと、使用原材料が年々変化している」(佐野エコネコル社長)こともリサイクル事業にとっては悩みだ。ニッケル系電池(トヨタ・プラグインハイブリッドに搭載)やマンガン系電池(日産・リーフに搭載)、正極材に使用するコバルトの一部をニッケル、マンガンに変え、安定性を高めた三元系電池など、種類は多い。リチウムイオン電池のコバルト含有量も、技術革新により減少している。電池の原材料は今後も大きく変わる可能性があり、それに伴うリサイクル側の対応も課題だ。