「実現に向け着々と」 加藤憲一市長 新春インタビュー 小田原市

インタビューに答える加藤市長

 新年の幕開けにあたり、本紙では加藤憲一市長にインタビューを行った。新たな1年への抱負などについて語ってもらった。

 ――あけましておめでとうございます。まず昨年を振り返っていただけますか。

 「世の中の状況としては、世界的に見れば、トランプ大統領就任にともなう米国第一主義、EUや東アジアの不安定な情勢が渦まいています。国内では、森友・加計学園問題等もあり、政治プロセスに対する不信や無力感が高まりつつあります。そうした中、本市では新年早々から生活保護行政の問題が大きくクローズアップされました。これは大きな出来事でした」

持っていた力が顕在化

 「市としてただちに問題の根治に向けた体制をとり、すでにさまざまな取り組みが進んでいます。『いのちを支える行政』を明確に意識し、態勢を建て直すというのが2017年の最初に与えられた大きな課題でした。

 また昨年は災害も多く、九州北部豪雨では大分県日田市に職員を派遣しました。一方、本市では初めて『九都県市合同防災訓練』という非常に大きな訓練を実施したことで、色々な意味で市民の防災意識が高まった年だったと思っています。

 そうした中、17年度は市総合計画『おだわらTRYプラン』後期の開始年度になり、持続可能な地域社会モデルの実現という踏み込んだスタンスを前面に出しスタートしました。長年取り組んできた地域コミュニティの進め方について、『小田原市地域コミュニティ組織基本指針』にまとめ、これから目指していくべき姿を、行政と地域の皆様が共有できたというのも昨年の大きな成果だと思います」

 ――ハルネとUMECO、駅前の施設がにぎわっていますね。

 「小田原地下街『ハルネ小田原』は3周年を迎え、おかげさまで売上は順調に伸びています。商いだけでなく、公共的な活用も充実し、年間160回以上イベント催事が行われています。お城通りの市民交流センターUMECOも丸2年を迎えました。こちらも利用団体は400を超え非常に活況を呈しています。これらは小田原の持っていた潜在的な力が、施設の設置によって顕在化した良い例だとみています」

 ――「市民ホール」も建設に向けて動き出しました。

 「市民ホールについては、昨年12月の最終的な事業者選考で1者が選定されました。ようやく実現への具体的な態勢が整ったことになります。これからは事業内容をしっかりと市民の皆様にお伝えしながら着実に進め、順調にいけば19年に工事に着手、21年の秋ごろにオープンを迎える予定です。

 従前の『芸術文化創造センター』は入札不調で実現できませんでした。しかしそこには皆さんの思い、具体の仕様に対するご提案がいっぱい詰まっています。それをできるだけ生かそうと市民ホールの『要求水準書』をまとめかなり細かなところまで規定し、事業者募集を掛けました。なおかつ建設費が63億円を絶対超えてはならないというキャップを掛けましたので、提案者がどの程度それに対して応えてくれるか正直なところ不安もありました。

 しかしふたを開けてみれば、実績のある設計者と実力のある施工業者が組んで非常にレベルの高い提案を寄せていただきました。ご意見をいただくことも多々ありましたが、総体的には私どもの財政要件をクリアし、市民に愛され使っていただけるシンプルで使いやすい質の良いホールが実現できます。

 小田原の経済活動のひとつの柱『水産』については、小田原漁港の西側に新しい水産施設が順次立ち上がっています。交流促進施設の建築もいよいよ着手され、こちらも順調にいきますと19年の春先に竣工し、同年中にオープンする運びです。

 小田原駅前再開発における広域交流施設ゾーンの整備も着々と進んでおり、このような形で、公共が進める大型事業が立ち上がったものが順調に推移し、未着手だったものが着々と実現に向けて動いている。昨年はその動きが進んだ1年であったと思っています」

観光、お城から広がり

 ――「小田原ファン倍増宣言」を掲げて立ち上げた観光戦略ビジョンも2年目に入っています。手応えは。

 「小田原城は一昨年5月の天守閣のリニューアルオープンから一貫して好調です。1年2カ月後の昨年7月で入城者が100万人を突破し、いまだに多い日には4〜5千人のお客様が来訪されています。圏央道の開通で北関東からのアクセスも向上するなど遠方からのお客様も本当に増えており、『お城の力というものがこれほどか』と、まざまざと感じているところです。関連して、お城を拠点に周辺の清閑亭や板橋方面、かまぼこ通りなどの街歩きも増えています。

 民間の方では昨年10月に現代美術作家の杉本博司さんが、『小田原文化財団 江之浦測候所』という世界的にみても非常に魅力的な施設を開館されました。海外の方を惹きつけるとても強力な場所になっていくだろうと思います。小田原が文化を発展させていく上での強力なパートナーが誕生したということで、非常にありがたく、今後の展開がとても楽しみです。

 ――好調な観光ですが、今後の課題は。

 「お城はしっかりとした設(しつら)えができました。これからは、街なかで美味しいものを食べたりお茶を飲んだり、文化的な体験をしたりということが不可欠です。そういう部分がまだまだ弱い。観光戦略ビジョンでは日常的な面で”光”を放つ部分をどうやって作るかということに重きを置いてやっています。リピーターの獲得もこれから本腰を入れて取り組むべきテーマです」

 ――新たな観光の創出や情報発信、インバウンド対策などの取り組みを教えてください。

 「これまで本市の観光施策は、市経済部観光課と小田原市観光協会が両輪でやってきました。ただ、北條五代祭りをはじめとする大きな観光イベントが結構あり、着手するべき課題になかなか手がつけられなかったというのが私の正直な思いです。昨年、観光協会を地域DMO組織として強化し、民間の人材も獲得し専任体制をとっていただく様になった。早速その効果が出ていると思います。例えば、小田原城で3月まで開催中の『冬桜イルミネーション』などこれまで無かった企画で集客していただくようになりました。

 小田原には、国内屈指の城下町・宿場町として蓄えてきた日本らしい暮らしぶり、食文化、今もなお生きているなりわいの技術など見るべき”光”がたくさんあります。その情報発信はまだまだ不十分だと思います。公共施設のWi―Fi整備も進めています。観光アプリは日本語版とともに英語版、中国語版を配信していきます。とはいえ、こういうものはあくまでもベースですので飲食店であったり市民の皆様であったり、海外の方が来られた時にきちんとおもてなしができるようにする、全市的なおもてなし文化の醸成がとても大事です。今年は市職員や市民も含め人材育成を進めたいと思っています」

加藤市長「小田原には見るべき“光”がたくさんある」
小田原城来場者100万人のセレモニー=昨年7月

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