前回的中の「干支で占うワールドカップ」2018 戌年編!王者ドイツを破るのは?

皆さんこんにちは、そしてお久しぶりです。

去年はFIFA.comの速報担当として無事に日本のW杯出場決定を見届け、さらに懸案だった新国立競技場ネタでもある学会での学術発表までできたので、それなりに充実した一年でした。しかも最後に浦和のACL制覇と川崎のJ1優勝という、私にとって大切な2チームが大きなタイトルを取ってくれたのは、何よりの喜びでした。

ただ、だからといって『Qoly』でのコラムを書かない理由にはならないのも承知しています。今年はしっかり時間を取って、また皆さんにコラムを読んでいただければと考えています。どうかよろしくお願いします。

さて4年前の正月、私はこんなコラムをQolyで書いていました。

W杯は4年に一度なので、十二支の巡りとピッタリはまります。そこで、個別の戦力分析とかは一切せず、ひたすらその干支の大会との相性だけでブラジル大会を予想してみました。その結論はこれでした。

「優勝ドイツ、準優勝アルゼンチン、3位ブラジル、4位イングランド」

……いや、決勝のカードと勝敗を当てていたのには自分で驚きました。ブラジルは例のミネイラッソを引きずって3位決定戦で負け、イングランドはグループリーグ敗退でしたが、結果としてかなり精度の高い予想になっていました。

そこで2018年の新春、ロシアW杯の結果も再び戌年(いぬどし)という視点のみで占ってみる事にしました。なお、今回は『Qoly』だけでなく、冊子ベースでの同人出版も!

「コミックマーケット93」においてQolyに先駆けて公開しています。

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「相性抜群」に潜んでいた「もう一つの巡り」

最初にネタばらしをすると、過去に6大会が行われていた「戌年のW杯」で優勝したのはたった2か国しかありません。2014年を含めた「午年」が7大会で5か国優勝したのと比べると、集中度が非常に高いのです。

そしてその一方がアズーリ、イタリア代表でした。

<表1> 過去の「戌年」W杯でのイタリアの成績

過去6大会で優勝3回、準優勝2回。「ムッソリーニの大会」とも呼ばれた1934年の自国開催を含め、今までの戌年の大会では必ず決勝まで進み、他国を圧倒していました。その意味でも今回の欧州予選プレーオフ敗退は衝撃でした。

ただ「干支」の本来の意味は「十干十二支」、つまり木火土金水の五行思想に基づく十干と動物になぞらえた十二支の組み合わせです。これだと60年で一周ですが……その1958年、イタリアは北アイルランドに敗れて本大会出場を逃しました。大会自体に不参加だった1930年の第1回ウルグアイ大会を除くと、「アズーリのいないW杯」は2回とも戊戌(つちのえいぬ)の年になりました。

実はその前、1898年はイタリアサッカー連盟が結成され、第1回のイタリア選手権(今のコパ・イタリア)が開催された年(4チーム参加でジェノアが優勝)。カトリックの総本山の国に言うのも変ですが、今年はまさに「危機と創造」にふさわしい巡り合わせのようです。 

そしてカナリアの一人旅は……?

過去6回の戌年W杯、イタリアと同じく優勝3回でタイトルを二分していたもう一方は、やっぱり強いブラジルでした。ただ、イタリアほどの安定感が無いのです。

<表2> 過去の「戌年」W杯でのブラジルの成績

今回も危なげなく南米予選を首位通過して21回連続の本大会進出を決め、世界唯一のフル参加を継続しているカナリア軍団。優勝5回のうち3回をこの戌年で経験している相性の良さは折り紙付きです。ライバルのアズーリがいないこのロシア大会では「唯一の戌年W杯優勝国」として絶対的な優位に立ちました。

なお、ブラジル自身にとっても初優勝だった1958年は17歳のペレが世界デビューした大会で、『Qoly』でも取り上げた映画「ペレ 伝説の誕生」でも紹介されました。1970年の優勝は29歳のペレが円熟期を迎え、当時のジュール・リメ杯を獲得して「サッカーの王様」の名を世界にとどろかせた大会です。

ところが、出ればファイナリスト確定だったイタリアと違い、ブラジルはその前に足下をすくわれる場合があります。1982年は準決勝進出目前でそのイタリアに逆転負け、2006年は現役最後の大会で奇跡の復活を見せたジネディーヌ・ジダンのいたフランスに準々決勝で敗退(ゴールはティエリ・アンリ)。ですので、決勝トーナメントの早いラウンドで消える危険性も消せないですね。ジーコやトニーニョ・セレーゾなどの「黄金のカルテット」がパオロ・ロッシにハットトリックを許して優勝を逃したような事態が再現される危険性も感じます。 

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「壁」に直面するドイツ

イタリアがいないこのロシア大会、ブラジルを止められる可能性が一番高いのはドイツという予想になるでしょう。そもそも、前回は相手のホームで7-1の圧勝劇を演じ、さらにヴェルトマイスターになったのですから、そもそもチャレンジャーのような言い方をする方がおかしいのです。

ところが、マンシャフトはまだ戌年での優勝がありません。

<表3> 過去の「戌年」W杯でのドイツ(西ドイツ)の成績

「絶対にベスト8は外さない」ですし、「6回中5回はベスト4まで進む」その堅実さはジャーマンシェパードのようで、その安定性はカナリアすらしのぐのですが、準決勝に大きな壁が立ちはだかります。ここでの結果は1勝4敗。1934年ではチェコスロヴァキア、1958年ではスウェーデン、これは準々決勝ですが1994年にはブルガリアと、勢いに乗った相手が史上最高成績を納めるときの引き立て役になる傾向があるのです。

残り3回のドイツの敗戦は唯一の決勝進出だった1982年を含めて全部イタリアが相手でした。これを除くとW杯本大会での対戦成績は2引き分けのみなので、いかに「戌年のアズーリ」にドイツが跳ね返されてきたかが分かります。その難関が消えたのは朗報でしょうが、果たして今度こそ決勝まで行けるでしょうか?

「青の時代」の予感

イタリアのアズーリと同じ深い青のユニフォームで世界中に知られているのは、日本よりもやはりフランスでしょう。その成績はこうでした。

<表4> 過去の「戌年」W杯でのフランスの成績

確かにドイツほどの堅実さはありませんが、この「プードルの国」の代表、レ・ブルーの成績は決して悪くありません。自国開催で優勝した1998年は寅年なのですが、戌年でも本大会に進んだ4大会のうち3回は準決勝まで進んでいます。1994年の欧州予選の最後でブルガリアに敗れた「パリの悲劇」のような事もありますが、今でも1大会での最多得点記録になる13ゴールを挙げた1958年のジュスト・フォンテーヌ、当時の西ドイツとの準決勝を「史上最高の試合」と呼ぶ人も多い1982年のミシェル・プラティニ、そしてアウェー開催で宿敵ドイツを倒した2006年のジダンなど、名選手の記憶が重なります。

開催国のロシアはフランスと歴史的に深い関係を持っているので、その意味でも今回のW杯でのフランスの活躍には注目しています。

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水色は青にあらず?

前回大会、優勝したのがドイツなら、準優勝はアルゼンチンでした。当然、今回も優勝候補に挙げられるはずですが……こっちはドイツ以上に戌年との相性が悪いのです。

<表5> 過去の「戌年」W杯でのアルゼンチンの成績

間違いなくブラジルと並ぶ南米のサッカー大国ですが、戌年の大会だとすっかり影が薄くなります。1978年の自国開催と1986年メキシコの「アステカの太陽」の狭間で、1982年は同じスペイン語圏での大会だったのにベスト8に終わりました。そして1994年、8年前の栄光から苦難の道を歩んだディエゴ・マラドーナが復活!したと思ったらドーピングで追放となり、チーム自体も決勝トーナメント1回戦で消えました。更に言えば最初のメキシコ開催、1970年はセレステ軍団が史上唯一南米予選で敗退した大会なのです(他の不出場大会は予選自体に不参加)。

アルゼンチンのホームユニフォームも青系、ただしイタリアやフランスのような深い青ではなく、国旗にも使われている水色です。もちろん、だからというわけではないのでしょうが、戌年の女神(?)にはあまり好かれていないようです。

かすかな光は砂漠の中に?

では我らがサムライブルー、日本代表を含む干支の本家、アジア代表の成績はどうかな?と調べてみたのですが……。

<表6> 過去の「戌年」W杯でのアジア地域(AFC)代表の成績

もちろん私は1993年の「ドーハの悲劇」も2006年の「カイザースラウテルンの悪夢」も覚えていますが、他も軒並み振るいません。1934年大会は当時イギリス統治下のパレスティナがエジプトに、1958年大会は独立後のイスラエルがウェールズに敗れて本大会出場を逃しました。そもそも今ではイスラエルはUEFAですし。

この中で唯一ベスト16に勝ち上がったのは、初出場だった1994年のサウディアラビアだけ。大会2勝もこれが唯一で、あとは2006年の韓国の1勝だけです。その戌年に合わせたように3大会ぶりに登場する「ハヤブサ」に期待をかけるしかないかもしれません。実はイスラム教では犬は嫌われ、預言者ムハンマドが愛した猫が大事にされるのですが。あとは、オセアニア枠で出た2006年でそのジーコジャパンを下してベスト16に行った「サッカールー」、オーストラリアです。こちらも砂漠に希望の光を追う事になるのでしょうか。ただ、こればかりは日本代表がこの干支予想を覆して欲しいと願います。

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黄色と青の王国

この「戌年W杯」のデータ整理をしたとき、もちろん黄色と青、カナリアとアズーリの強さは分かっていました。なのでイタリアのプレーオフ敗退は目算が狂いました。ただ、干支予測的にはもしかしたらそうなるかもしれないという事も考えていました。それは60年前の本大会出場失敗がスウェーデンでの開催だったからです。

<表7> 過去の「戌年」W杯でのスウェーデンの成績

今回が3大会ぶりの本大会出場になったスウェーデン、確かにドイツやフランスよりは見劣りしますが、「W杯常連国」とは言い切れない中ではなかなかの好成績です。もちろん1958年、自国開催での準優勝が最高ですが、1994年の3位も光ります。この時はマルティン・ダーリンやヘンリク・ラーションなどの強力なフォワード陣が光っていました。ラーションは2006年にも出場し、息の長い活躍を見せました。

そして2018年、「王様」ズラタン・イブラヒモヴィッチの代表復帰があるかは分かりませんが、大方の予想を覆してイタリアを撃破した、この国旗カラーの黄色と青をまとった北欧の王国が本大会で再び衝撃を与える可能性は十分に秘めているように思います。

まずはグループステージの予想!

では、これでロシア大会の勝ち上がりをずっと予想していきましょう。

<表8> ロシア大会の組別グループリーグ順位予想

過去の成績を基にして予想を組み立てていくと、どうしてもアイスランドやパナマのような初出場国は苦しく、実績が十分なチームを勝ち抜け予想にしていきます。ただ、A組はロシアを1位にしました。過去の大会でも開催国はおおむね好成績なのと、ソ連が3回連続ベスト8(相当)の結果を残しているからです。

H組は……かなり願望込みですが、やはり日本のGL突破を信じたいのです。もう一つ、実は「黄色&青」のコロンビアも1994年しか本大会に出ていない(GL敗退)という点も見ました。スウェーデンと違って、こちらには「赤」も入っているからでしょうか?

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そして優勝予想は……

決勝トーナメント1回戦、1位チームとの対戦で勝ち上がる2位チームは、地元ロシアを抑えるポルトガル、そして……ブラジルを倒すスウェーデンでしょう。ここにカナリア軍団の死角を見ました。さすがに日本はイングランドには通じないか。戌年のイングランドですと最高成績はベスト8が2回、他に2次リーグ進出(ベスト12)が1回あります。

準々決勝はポルトガル対フランス、スウェーデン対イングランド、スペイン対アルゼンチン、ドイツ対ポーランド。勝者予想はフランス、スウェーデン、スペイン、そしてやっぱりドイツ。これで4強は全部欧州勢となりました。スペインにとってこれは初の快挙……おっと、この続きは今後のネタに(笑)。

準決勝はフランス対スウェーデン、スペイン対ドイツ。心情的にはスウェーデンを推したいですが、ここは過去の成績でわずかに上回るフランスではないかと。もう一方は、今度こそドイツでしょう。

そしてかつての領土、サンクトペテルブルクでスウェーデンが3位を決めた後、ルジニキ競技場でワールドカップを掲げるのは、ドイツを破ったフランスではないでしょうか。皇帝ナポレオンのロシア侵攻、ロシアにとっての「祖国戦争」から205年、再びラ・マルセイエーズがモスクワで高らかに歌われる日が来たように思います……ただ、この時は占領と引き換えにフランス帝国の没落が決定的になったとはいえ。

ロシア側が放った大火の中、クレムリンの前を進軍するモスクワでのナポレオンとフランス騎兵。ヴィクトル・マスロフスキー作。

さあ、いよいよ4年に一度のお祭りの始まりです!

ロシアに行ける人はその広大さを体感しながら、そうでない人(残念ながら私もそうでしょう)はテレビやネットで熱気を感じながら。サッカーファンの仲間みんなで、これを楽しみましょう!

До Свидания, Товарищи!

筆者名:駒場野/中西正紀

サッカーデータベースサイト「RSSSF」の日本人メンバー。Jリーグ発足時・パソコン通信時代からのサッカーファン。FIFA.comでは日本国内開催のW杯予選で試合速報を担当中。他に歴史・鉄道・政治などで執筆を続け、「ピッチの外側」にも視野を広げる。思う事は「資料室でもサッカーは楽しめる」。

サイト: http://www.rsssf.com/

Twitter: @Komabano

Facebook: masanori.nakanishi

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