【新春インタビュー・2018年の展望を聞く】〈多田明弘・経済産業省製造産業局長(下)〉ルール無視の保護主義、断固たる対応を 鉄鋼の能力過剰、グローバルフォーラムで進ちょく

企業経営、中長期の視点で

――世界鉄鋼業の共通の課題である能力過剰問題は、昨年のグローバル・フォーラムの立ち上げによって、解決に向けて一歩踏み出した形です。

 「グローバル・フォーラムは昨年11月の閣僚級会合で、市場をゆがめる政府支援措置の除去などの解決策を採ることで合意した。中国や米国など主要国参加の下で合意に至ったのは大きな成果と捉えている。最大の過剰能力を抱えるとされる中国も政府自らがこの問題を課題と捉えており、取り組みを強化しているが、グローバル・フォーラムという国際的な枠組みを活用して削減の実効性を高めていくことは極めて重要。日本としても、米国やEUと連携しながら、同フォーラムのレビューの場を活用しながら、進ちょく状況を確認していきたい」

 「グローバル・フォーラム発足のきっかけとなったのは2016年のG7伊勢志摩サミット。日本が議長国として取りまとめた首脳レベルの声明の中に過剰能力問題を盛り込んだ。過剰能力問題は鉄鋼だけでなく、例えばアルミなどでも顕在化している。日本としては引き続き主導的な役割を果たしていくつもりだ」

経済産業省・多田製造産業局長

――鉄鋼貿易をめぐる通商摩擦では昨年、米国が通商拡大法232条(国防条項)の調査に入りました。

 「232条は1月中旬に調査期限を迎える。米国が最終的にどのような判断を下すのかは不透明だが、引き続き注視していきたい。一方で、鉄鋼の通商摩擦は世界的に減少傾向にある。鋼材市況の好転が背景にあると思われるが、WTO(世界貿易機関)協定に抵触する安易な措置に対し、WTOへの提訴の動きが出たことも歯止めになった可能性はある。例えば日本政府は昨年4月、インドの熱延コイル・セーフガード(緊急輸入制限措置)に対し、WTO(世界貿易機関)へ提訴した。WTO協定に不整合な措置に対しては、今後も毅然とした態度をとることが重要だろう。また通商摩擦を未然回避する観点では、各国・地域と定期的に開催している鉄鋼官民対話や多国間の会合などの枠組みを活用することも有効。こうしたチャンネルを通じて保護主義的な措置を控えるよう訴えていきたい」

――昨年はアルミ・銅製品などで品質不正問題が発覚。品質管理体制の強化が求められています。

 「幾つかの不正事案が判明したことは誠に遺憾。経産省としては、公正な取引基盤を揺るがす事案として、事実関係の究明、適切な顧客対応などを進めるよう当該企業に指示した。一連の事案は基本的に個社の問題で、当該企業が原因究明、再発防止に取り組むことが重要。同時に、産業界全体で調査結果を共有し、同様の事案が起きないよう取り組むことも求められている。経産省はこの問題を重く見て、昨年12月、製造業の品質保証体制強化に向けた対応策を取りまとめた。企業や業界団体の取り組み強化を促すことが基本だが、これに加え、コネクテッド・インダストリーズなどを活用した品質保証の仕組みづくり、ガバナンス強化などが必要との観点から、企業の取り組みを税制や予算措置で後押ししていく方針だ。多くの日本企業の製品は引き続き世界で高い信頼を得ている。その信頼を裏切ることがないよう、鉄鋼、非鉄金属業界でもきちんと取り組んでもらいたい」

――昨年は自動車のEV化が話題に上りました。部品点数の削減や素材転換などが進むとの見方もあり、鉄鋼、非鉄金属業界も注目しています。

 「自動車のEV化は、100年に1度の大変革『メガトレンド』の動きと言ってもよい。EV化のスピードがどうなるのかは現時点では不透明だが、素材産業にとっても影響は小さくないと思う。ただ、これを受け身で捉えるのではなく、きちんと向き合うことも必要ではないのか。幸い日本の素材メーカーは優れた開発力、提案力を備えている。これを生かしてユーザーへの提案・働きかけをするといった取り組みがあってもよいと思う」

――鉄鋼、非鉄金属業界の経営者の方にメッセージがありましたら。

 「短期の経営成績が求められる中で、中長期の視点だけでは市場との対話が成立しにくいのが今の時代。数字を求められると、当面必要のない投資を先送りする傾向が強まるのも分からなくはない。経営者の方々は大変苦労されていると思う。ただ、そうした時代だからこそ、『数字だけでよいのか』『ビジョンをどこに求めるのか』といったことを自問自答してもよいのではないか。コネクテッド・インダストリーズに代表される新しいツールもそろいつつある。これらをヒントにしながら、将来の企業のあるべき姿を見据え、明確な方向を定めて向かっていってほしい」(高田 潤)

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