【2018年鉄鋼業界の展望(中)】〈EV化加速でサプライチェーン変化も〉中国自動車業界の動向注視

 2018年も中国の動向が世界鉄鋼業の最大リスクであることは変わりない。本レポート(上)で中国の(1)需給・価格動向(2)業界再編・能力削減―が注目点と書いたが、能力削減については(1)20年までの1・5億トンの目標に対し、現時点での削減幅が1億1500万トン。残り3500万トンの削減を着実に進めること(2)地条鋼の復活と新規能力の建設を防ぐこと―が今後の課題と言えそうだ。

 需要面に目を転じると、メガトレンドの変化が起きており、鋼材需要構造が変わりつつあることへの対応が中長期の課題となってくる。代表例がEV(電気自動車)の増加。ガソリン車からEVに変われば、エンジンやトランスミッションに使われる特殊鋼がほとんど不要となる。

 特殊鋼の原単位はガソリン車の場合、車1台当たり150キログラム程度とみられるが、EVになれば3~4割減少し、1台当たり100キロを下回る公算が大きい。自動車部品の数が、今のガソリン車では3万点ぐらいと言われるが、EVになると1万2千点に減ると言われる。車種によっては7千点に減るという。鉄をはじめとする素材のサプライチェーンに、一定の変化が起こることが想定される。

 一方でEVではモーターが多く搭載されており、そこでは電磁鋼板のほか、磁石や合金粉末も多く使われる。電池に使われるニッケルめっき鋼板などの需要も増えそうだ。

 EV普及自体がどういうスピードで本当に実現するのか、流動的な側面もある。どんなに早くても、あと10年程度はガソリン車主体の世の中が続くわけで、まずは現状のビジネスを維持・改善しながら、今から10~20年後を見据えた準備が必要だ。

 自動車の世界でも中国の影響は大きい。年間2900万台規模(17年)の世界最大市場であり、2位の米国以下を大きく引き離す。

 中国では19年から、メーカーが製造販売する車のうち、一定比率をEVやプラグインハイブリッド車(PHV)など新エネルギー車(NEV)にすることを義務付ける規制が始まる。比率は19年に10%、20年は12%。車種の走行性能により数値が異なるポイント制度を採用し、企業ごとに義務付け台数を算出する仕組みだ。

 中国の自動車生産・販売台数は、今18年の伸び率が昨年までと比べて鈍化する可能性がある。昨17年に2900万台の市場となったが、昨年末で小型車減税措置が打ち切られた。

 駆け込み反動減を含めて新車販売の伸びが頭打ちになり、踊り場を迎える可能性があるため注視が必要だ。

エネルギー分野向け鋼材需要は低迷の前提

 高炉メーカーなどが一時期は高付加価値化の代名詞として掲げたエネルギー分野は、次の2~3年間でも大きく回復しないとの前提に立つのが良さそうだ。業界各社は原油価格を50ドル台中心に推移するとみて中期の経営計画を策定することになりそう。

 パイプや厚板などのエネルギー鋼材は日本高炉の強みが発揮できる領域であることは間違いないが、シェールガスの供給余力があるため大きく価格上昇していくことは考えにくい。過度な期待をせずに、環境を見ながら、との展開になりそうだ。

 今は鋼材需要(受注)内容の変化に対する対応とともに、鋼材価格に反映される鋼材の商品価値、さらには鋼材取引の在り方について、改めて考える時期に来ているとも言える。グローバル規模での取引が増えていく中で、日本独特の商慣習などにつき見直しの必要があるのか、ないのか。過去からの経緯を踏まえた上で、変えるべきところがあれば勇気をもって変える必要があるだろう。

 日本式の良さもあれば、そうでない部分もある。資源会社と鉄鋼メーカーとの取引では昨年、原料炭の価格決定方式などをめぐり見直しが行われた。需要家と鉄鋼メーカーとの間でも、お互いが長期安定的に存続できるための仕組みをつくることが一段と重要になっている。(一柳 朋紀)

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