鷹・甲斐が打力アップで真の正捕手へ “4割打者”からの助言がヒントに

真の正捕手を目指し自主トレに励むソフトバンク・甲斐拓也【写真:福谷佑介】

17年はゴールデングラブ賞とベストナイン受賞も「出させてもらって頂いた賞」

「真の要になれるように」――。何度も、何度も、この言葉を繰り返す姿が印象的だった。1月9日。厳しい寒さの中、ファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」で行った自主トレを報道陣に公開したソフトバンクの甲斐拓也捕手。2017年、一躍脚光を浴び、ゴールデングラブ賞とベストナインのW受賞という飛躍を遂げた男には自信も、余裕も皆無。危機感をありありと感じさせていた。 

「このオフが大事になると思っています。追い込んで、苦しんでやるべきことをやって、真の要になれるようにやっていきます。去年は試合に出させてもらって(Gグラブ賞とベストナインは)頂いた賞。使ってくれた監督に感謝していますし、野球で返せるように、そういう1年にしたいと思う。危機感もちろんありますし、安心感とかないですし、大丈夫だなんてこれっぽっちも思っていないです」 

 2010年の育成ドラフト6位で大分の楊志館高からソフトバンクに入団した甲斐。2013年オフに支配下登録された身長170センチの小柄な捕手にとって、2017年は人生の転機となる1年となった。キャンプからの懸命のアピールが実り、初めての開幕1軍の切符を掴むと、2016年の13試合を大きく上回るキャリアハイの103試合に出場。ベテランの高谷裕亮との併用ではあったものの、主に東浜巨、千賀滉大という若い投手とコンビを組み、チームを日本一に導いた。

自主トレでは5種類のバットを試して“相棒”探し

 地肩の強さとフットワーク、スローイングの素早さは球界屈指で、幾度となく相手走者を刺して他球団の脅威になった。オフには「ENEOS アジアプロ野球チャンピオンシップ」を戦った侍ジャパンのメンバー入り。パ・リーグのゴールデングラブ賞、ベストナインにも輝いた。育成選手のベストナイン受賞、そしてゴールデングラブ賞とのW受賞は史上初めてのことであった。 

 育成選手としての苦労を経ての、大きな飛躍。ただ、この1年間で、自らの足りない部分を痛感させられたのも事実だった。「意識してレベルアップしたいのはバッティング面」。207打数48安打5本塁打18打点、打率.232。先発出場しても、チャンスで打席が回ってこれば、早いイニングで代打を送られることも珍しくなかった。守備面やリード面も、もちろん大事だと分かっているが、より多く試合に出るためには、打力アップも必要不可欠だと考えた。 

「タイミングの取り方であったり、フォームを見直して、振り込んでスイングスピードも上げていけたら。この時期だから試せることですし、振る力もつけていきたい」 

 試行錯誤の日々となる。ファーム施設での自主トレをスタートさせたこの日、早速、打撃投手相手にフリー打撃も行った。タイミングの取り方は、シーズン中とは違い“すり足”に。チームメートの中村晃、日本ハムの松本剛と2種類の形の違うバットを使用し、感触を確かめ「(グリップが)タイカップ型(グリップエンドに向けて太くなっていく形)の方が感じはいいですね」。バットは今後、5種類ほどに増やし、最もしっくり来るもの選び抜いていく。

ハム近藤からは助言、1つのヒントに

「U-23の時にも、色々なバッターと話して聞いてきました」。侍ジャパンでの活動の中で、印象的だったのが、日本ハムの近藤健介の話だったという。 

 今季、ヘルニアでの長期離脱があり57試合出場に終わったものの、打率.413を残した好打者。1学年下の後輩ではあるが、教えを請うた。「近藤はボールの内側を打つイメージで打っていると。体を開きたくないという話をしていて、バッティングも見てもらってアドバイスをもらったんです。確かにそうだなと思いましたし、自分のものに出来ればと思いました」。これが、1つのヒントとなるかもしれない。 

「自分が見たら、自分が打者なら怖くないですもん(笑い)。嫌な打者になりたい。今宮さんだったり、中村晃さんだったり。ああいうバッティングが出来るのは凄い。バッテリーは嫌だろうなと思いますし、穴を減らしていきたいですね。(賞は)嬉しいですけど、たくさんの力を借りて頂いたもので、僕だけの力ではない。成績も納得していない。まずはこのチームのレギュラーに取れるように、このチームの正捕手になれるように。目標はそこなので」 

 もちろんリード面に関しても、空いた時間で昨季の映像を見返し、配球面を振り返るなど“脳トレ”も欠かさない。他の選手も球団施設ということもあり自主トレで使用しているが、その中でも甲斐は“単独”で自主トレを行うことに決めた。「やりたいことが出来ますし、足りないものを強化出来ると思うので1人でやることを選択しました。キャッチャーは特殊だし、キャッチャーの練習もしないといけない。自分の足りないところを追い込める時期なので」。真の要になるために――。厳しく己を追い込んでいく。

(山岡則夫 / Norio Yamaoka)

山岡則夫 プロフィール
 1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌Ballpark Time!を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、製作するほか、多くの雑誌やホームページに寄稿している。最新刊は「岩隈久志のピッチングバイブル」、「躍進する広島カープを支える選手たち」(株式会社舵社)。Ballpark Time!オフィシャルページ(http://www.ballparktime.com)にて取材日記を定期的に更新中。

© 株式会社Creative2