【2018年鉄鋼業界の展望(下)】鉄スクラップ、高値圏で推移へ 電炉メーカー、コスト上昇要因目立つ

 今後、低炭素社会から脱炭素社会への流れが加速すると想定される中で、鉄スクラップをどう活用するかが高炉・電炉メーカー双方にとって大きなテーマとなる。中長期を見据え、高炉メーカーの中でもミニミルの活用に関する意識が高まっており、将来の方向付けがなされる年になるのではないか。

 普通鋼電炉業界を見ると、昨年は品種によって明暗が分かれた年だった。形鋼や鋼板はまずまずだったが、棒鋼(鉄筋)は減益または赤字で採算悪化が目立った。鉄筋メーカーの中でも、特に関東地区が悪かった。

 これはどうしてなのか? ゼネコンへの契約残が多く、その期間も長いことに起因しており、鉄スクラップ価格の上昇局面では手の打ちようがない構造に陥っている。

 これはコストというより、売り方の問題と言えるだろう。年間の中で、安値のタイミングがゼネコンの絶好の買い場となり、鉄筋メーカーが数カ月先の出荷分をまとめて受注せざるを得ない状況となっている。物件規模が大きく、物件数も多い関東地域で顕著だが、鉄筋メーカーの数が多いために買い手の力が強いというパワーバランスが存在していると言えよう。

 昨年は関東の電炉鉄筋メーカー、東京鉄鋼と伊藤製鉄所が経営統合に向けて協議を開始した。電炉再編がいよいよ独立系で動きだすという点でも注目されるが、そうした再編統合により鉄筋メーカーの数が減る中で、鉄筋の売り方・買い方に変化が起きるかどうかが大きな注目点となる。

 鉄筋(異形棒鋼)の製品価格に目を移すと、国内価格は近隣諸国と比べて独歩安。これが日本メーカーの収益低迷の大きな要因だ。大ざっぱに言えば、中国が8万円台、韓国が7万円台、日本が6万円台。

 こうした価格の差異については、鉄筋の流通システムが背景にあるとも言えそう。H形鋼と鉄筋(異形棒鋼)の違いを比べると分かりやすい。

 H形鋼は、商社や二三次流通など流通が在庫を持っている。流通は仕入れ値と販売価格の利ざやを確保するため、価格が下がらないような行動を取る。在庫評価損を避けたいこともある。価格の下方硬直性が強くなり、価格が下がることへのバッファー機能が働く。

 これに対して鉄筋は、大半が電炉から鉄筋加工業者への直送取引。流通業者が在庫を持っていないため、ゼネコンと電炉メーカーの力関係が大きく価格に反映される。

 電炉にとって2018年はコストアップ要因が目白押しだ。電極や耐火物などの副資材と、フェロシリコンなど副原料の価格上昇が顕著で、鉄スクラップや電気代など定番以外のコストアップが目立つ。高炉メーカーにとってもコスト高となる要因だが、相対的に固定費が小さい電炉にとってインパクトが大きい。

 鉄スクラップ価格の先行きは予想しにくいが、下がる要素はあまり見当たらない。高値圏での推移になりそうだ。中国の安価なビレット輸出が減少し、新興諸国の電炉メーカーによる休止電炉の再稼働の動きがある。ベトナムなど東南アジア諸国では電炉の生産能力拡張が行われている。日本電炉はビレット輸出を増やしており、鉄スクラップ手当ての意欲は高い。

 昨年は日本の鉄スクラップ価格が、海外市場に先行して上がる傾向が見られた。鉄鉱石価格とは連動しない動きも目に付いた。グローバル要因が複雑に反映される鉄スクラップ価格の動向に、引き続き注視が必要だ。

商社・流通/キーワードは「再編統合」/「総合商社から鉄鋼専業商社へ」が加速

 商社・流通の分野では、引き続き「再編統合」がキーワードになる。商社系コイルセンターなど二三次流通では、資本系列を超えた組み合わせでの再編や統合が今後も実現するとみられる。将来の内需減少に備えた動きであり、設備更新を含めたコストを抑えて、一定の利益を確保できる体質を構築しようとするものだ。

 総合商社から鉄鋼専門商社へ、の流れも加速する年になりそうだ。住友商事の堀江誠金属事業部門長(専務執行役員)は同社の新年賀詞交歓会で「4月には住友商事グローバルメタルズがプロフィットセンターとしてのスタートを切り、新たな成長のステージを迎える」と挨拶した。1兆円規模の商権を移管することになっており、最後まで総合商社本体中心にトレーディングを手掛けてきた住友商事の体制移行は、業界変化を象徴するものとなる。

 同じ4月には、三井物産が日鉄住金物産に400万トン規模の商権を移管。出資を2割に拡大して持ち分法適用会社とし、国内鉄鋼トレーディングは「事業」としての位置付けが強まる。

 独立系(オーナー系)二三次流通では、店売りの中でも「仲間売り」主体の企業などで昨年は廃業が見られた。商社がM&A(買収)で傘下に収めるケースもあった。商社の側からすれば、オーナー側のそうした動きを察知し、自社の機能を強化する形でM&Aなどにつなげられるかが戦略の一つとなる。

 オーナー側からすれば、どの商社に話を持ち込むのか。どういう形でこれまで築いてきた自社の事業資産を将来につないでいくのか、がテーマとなる。

 「コネクティッド」「つなぐ」が産業界のキーワードになっているが、鉄鋼商社流通の分野でも、どうつなぐかがポイントとなりそうだ。(一柳 朋紀)

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