北陸地区の18年鉄鋼市場展望

 昨年は景気拡大局面が高度成長期のいざなぎ景気を超えて、戦後2番目の長さになった。北陸地区でも建産機や工作機械、バス・トラックなど製造業関連が好調に推移し鉄鋼需要に波及。2018年もこの状況が持続するとみられている。地区鉄鋼関係者の話をもとに、今年の展望をまとめた。(藤田 英介)

 高炉メーカーは昨年を振り返り「北陸経済は半年間連続で改善し明るい方向に進んだ。けん引役は医薬品と電子・デバイスで、新車販売台数も11カ月連続で前年を上回るなど好調を維持した」と総括する。

 製造業関連では「建機が高水準で推移。8月まで排ガス規制前の駆け込み需要が旺盛だったが、その後も輸出向けが好調でメーカーは高水準の生産を保った。大型プレスなど産機も堅調。バス・トラックも好調を持続した」

 「建築は上期後半から伸びてきた。土木は鋼矢板の発注量が前年上期比で半減したほか、北陸新幹線敦賀延伸工事の着工遅れもあり非常に厳しい状況だった」

 今年の展望は「建機の高水準な生産が期待できる。バスは買い替え需要が一巡しピークの一昨年に比べれば落ち込む可能性はあるが、3年前に比べれば高い水準を維持しそうだ」

 「建築では関東の好影響を受けてにぎやかになりそう。金沢市内で複数のホテルが動いており、特に金沢駅西口で計画されている外資系ホテルは鉄骨使用量が5千トンにも上り、年度末ごろから材料手配が始まる見通し。ここ数年地場案件が低迷していたが需要の底上げ機運が高まってきている」と指摘。

 「北陸新幹線延伸工事はいまだ着工遅れが懸念されるものの、昨年11月以降、材料手配のピークを迎えている。今年以降に駅舎工事なども発注されるだろう」

 建築建材では今年は「全国的にも旺盛な物流倉庫のほか、富山では医薬品関連の製造建屋や倉庫の計画が出てきそうだ。今なお増加する観光需要に対応するため、金沢駅周辺のホテルや金沢港クルーズターミナル整備などの計画がある。再生可能エネルギー導入促進の動きから富山や石川では風力やバイオマス発電所の計画があり、福井では今後、新幹線延伸に伴い駅周辺の再開発やホテルなどの計画の進展に期待している」

 土木建材では「新幹線関連需要が継続。一般土木では公共予算が例年並みの規模なので相応の案件が出てこよう。石川では河川改修の継続工事で鋼矢板需要が見込める。価格面でも、お客様には粘り強く丁寧に価格改善の理解活動を続けていく」としている。

特約店

新幹線向け、最盛期継続/製造業関連も活況続く

 富山県内の大手特約店は昨年を振り返り「世界的には米政府による保護主義化の高まりや欧州の難民問題、テロの頻発、北朝鮮情勢など不透明要素が多かったが、国内経済は安定政権のもと堅調だった。これを受け、鉄鋼業界でも需要はそこそこあった。鉄スクラップなど原料高が続いたものの、中国における生産能力削減が進展するなどして国内需給はタイト化。値上げ転嫁が思うように進まなかったが市況は徐々に上昇し、年末にかけてようやく採算ベースに乗ってきた」

 「県内需要としては公共事業費の縮減により土木関連が低迷したものの、北陸地区では新幹線の敦賀延伸工事が進展し、総じて悪くはない1年だった。売上げも増収」と総括。

 今年は「公共事業費は前年比並み、建築も大型案件が少なく期待材料に乏しい。ただ新幹線工事が継続するほか、地場ファブリケーターは県外案件を中心に山積みが高い。地方への波及効果は未知数だが東京五輪需要も動きだしている。国内景気が好転しているので、鉄鋼需要もそれなりに期待できる」との見方。

 石川県内の大手特約店は昨年は「建産機や工作機械など製造業関連全般がおおむね好調で、販売数量も伸びた。バスはピークを過ぎ平常運転に戻った。金沢市内ではホテル案件が多数あり、鉄骨業界の繁忙も継続。土木では新幹線延伸工事向けで最盛期が続いた。業績も増収傾向」。収益面では、仕入れ値高転嫁が追い付かず利益確保に苦慮する場面も続いたようだ。

 「今年も製造業向け・鉄骨向けとも好調が持続しよう。新幹線延伸工事も最盛期が続く。需要は旺盛だが、メーカーの納期遅れや長距離ドライバー不足による影響を懸念している。スムーズなデリバリーが引き続き課題」と捉えている。

 別の特約店では「今年は建産機、工作機械いずれも予想外の活況を呈した。製造業全般ではリーマンショック以降で最も高い水準まで需要は戻ってきている」と回復基調が鮮明に。

 今年の鋼材需要見通しは「中国をはじめとするアジア向け輸出が継続しそうで、仕事量だけをみれば堅調に推移するだろう。ただ、政情不安や為替変動などの外的要因による影響には注視が必要」

 「製造業では人手不足から生産余力が限られ〝作りたくても作れない〟状況が続いており、生産の後ずれで受注機会を失する恐れもある。もはや環境や生産状況を見て先行きを予想できる時代ではない。今が忙しいからといって楽観視はできない」と慎重な見方だ。

 福井県内の大手特約店では「昨年のまちづくり向けは新幹線延伸工事関連で鉄筋などが動いたが、鉄鋼建材全体では伸びを欠いた。管材は新築住宅着工数が減少しており、住設も商流変化のため厳しかった」

 「これに対しものづくり向けは電子部品、自動車関連、工作機械などが活況で、一昨年と比べて様変わりした。売上高も2割増を見込む。ところが需要急増で工作機械の直動部品などが不足しており、通常1カ月の納期が1年に伸びているものもある。製作の遅れが懸念材料」。

 今年は「土木関連では新幹線工事が引き続き最盛期となるほか、中部縦貫自動車道も継続。建築関連では福井駅前再開発や民間でも製造業の工場案件など計画はある。機工部門では電子部品関連で一服感を指摘する声もあるが、今のところ需要は旺盛」と見通しは明るい。

 別の大手特約店では「総売上高は春ごろまでの落ち込みを秋以降に取り返し増益。売上げは伸びたものの仕入れ価格が上昇しており利幅は薄い。需要面では、体育館や市役所など公共物件はいくつかあったが民間物件が低調だった」と昨年を総括する。

 「今年も昨年並みではないか。建築では銀行本店の建て替えや民間でも自動車部品関連の工場などが見えているものの、中小案件が少ない。一方、新幹線延伸工事がいよいよ佳境に入ってくる。福井市内にも新幹線の橋脚が建ち始め、活気が感じられるようになった。新しい新幹線駅の駅舎や駅周辺整備の話も出てきている」と期待を示した。

 課題は人手不足。「昨年の福井県の有効求人倍率は約2倍と、高水準が続いた。学生は地元大手に集中し、中小企業はPRする手段が限られ人材が集まらない。全国的に需要増が見込まれる中、今後はさらに拍車がかかりそう」と頭を抱える。労働力確保の厳しさは今年も続きそうだ。

ファブリケーター

案件山積み、1年先まで

 北陸3県の鉄骨加工業界では昨年も繁忙感が継続した。富山県の大手ファブリケーターは「今年9月までの受注を確保し、来年末までの話もきている。県内では体育館や学校の新築、民間でも銀行の建て替えや大型商業施設の増築、物流倉庫などが見えており、ここ数年低迷していた県内需要が上向くのは間違いない。ゼネコンの過当競争も改善されよう」

 「関東・関西地区でも首都圏再開発や物流倉庫を中心に、数年先まで底堅い。こうした物件増から今年の全国鉄骨需要量は500万トン台後半まで伸びるのではないか」と期待を寄せる。

 「昨年も労務費や資材価格の高騰で官民とも計画見送りや入札不調が見られたが、全国的にファブは手いっぱいの状況。むしろ仕事が先送りになることで20年の東京五輪後も需要が継続する」と予想する。

 福井県の大手ファブは「2~3カ月程度の計画変更や図面遅れが見られたものの、完成工事が増え増収。仕事が増えたが外注先を探せず、残業費もかさんで利益は横ばい」と昨年を振り返る。

 今年の展望については「山積みは高く、今年の年末まで受注残があり来年の案件も見えている。過去の好調な時でも受注残はせいぜい半年先。これほど多かったことはなかった」

 「案件は関東・中部・関西圏の工場、病院、学校などで、地元でも銀行の建て替えやアルミ材工場などの計画がある。製造業関連の工場案件が着実に増えている印象。世間では景気回復の実感は薄いと言われているが、製造業の設備投資が好調ということは景気は決して悪くない」としている。

コイルセンター

需要は前年並み、値上げ転嫁が課題

 コイルセンターでは昨年の需要動向について「高水準で推移していたバス生産が一巡し夏以降は例年並みに落ち込んだ。ただ旺盛な建機は下期以降も好調で、電気設備や建材関連も大きな落ち込みはなく、総じて堅調だった。数量的には前年並みで、操業度はほぼフル操業を維持」

 価格面では「一昨年からのメーカー値上げの転嫁は、9月まではユーザーとの値上げ交渉が難航。10月以降は高炉メーカーの追加値上げや受注調整表明を受け、需給タイト感が鮮明になったことでユーザーからも動意が得られるようになってきた」と振り返る。

 今年の需要見通しは「増えも落ち込みもせず前年並みではないか。バスは現行水準で、建材も五輪需要などが動いて前年並みだろう。ここ2~3年高水準が続いた機械や設備関連がどこまで持続するかが気掛かり」と展望する。これまでの仕入れ値上昇分を十分に転嫁し切れていない流通各社にとって、今年も値上げ転嫁が課題。年明け以降も完全浸透を目指し全力を挙げる構えだ。

リサイクル

荷動き活性化に期待

 富山県内の鉄スクラップヤード業者は「大型の解体物件がなく、昨年の地区発生量も前年並みで低調に推移した。発生量がリーマンショック前に比べ3~4割も減少したまま。社会構造も変化しており元には戻らない」と厳しい表情。

 今年の見通しは「首都圏では20年の東京五輪まで需要は堅調と言われているが、地方にどれだけ波及するのか。鉄筋工不足や工期短縮のための工法変換でRCの物件が減少している。製品需要が盛り上がらないとスクラップ消費も伸び悩んだままだ」としている。

 他業者でも「昨年は相場に山谷はあったが一昨年の年初に比べ6~7千円上昇し、上昇傾向だったといえる。これで荷動きが伴ってくれば良かったのだが」と振り返る。

 今年は「悲観的にはみていない。首都圏では五輪関連が動き、北陸地区でも金沢以西の新幹線工事が進ちょくすれば鋼材需要が増え、鉄屑も増えてこよう。インフラ老朽化対策など公共投資を含め荷動き活性化に期待したい。海外相場や自然災害などの変動要因により先々を見通すのは難しいが、足元の環境は決して悪いとは思わないので、これが長く続いてほしい」

 景気が回復基調をたどる中、昨年は人手不足や担い手不足を理由に倒産する企業が全国で急増。帝国データバンクの調べでは、北陸3県でも、74・5%の企業が事業承継を経営問題として重視している。

 ある鉄スクラップヤード業者は「昨年は高齢化・後継者難を理由に廃業する企業からの処分依頼や相談が多かった。いずれも1~2人規模の鉄工所や修理工場だが、大手メーカーの部品加工も手掛ける〝職人技術〟を持つ会社。この状況が続けば日本の大手ものづくり企業の存続にも影響しかねない」と警鐘を鳴らす。

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