【2018展望】慶大・南政樹氏(上) 〝田村モデル〟の人材育成カリキュラムを拡充 他地域への展開も  ドローンの発展に奔走するキーマンは2018年をどう展望するのか。慶應義塾大学は2016年12月に福島県田村市と〝ドローン連携協定〟を締結し、高校生にドローン講座を提供するなど田村市の活性化に取り組んできた。活動で中心的な役割を担った南政樹特任助教に次の一手と、業界の展望を聞いた。2回に分けてお届けする。

取り組みの誇りは、高校生が自信を持って活動をしてくれたこと

 ――2016年から2017年の田村市での取り組みは多方面から注目されました
 南氏 福島県などからも高く評価して頂き、嬉しく思っています。特に高校生向けの「ドローン特別講座」は、東日本大震災で失われた福島の産業基盤を再構築する「福島イノベーション・コースト構想(国際研究産業都市構想)」と方向性が重なることから、多くの共感を頂いています。我々の取り組みがもともと「福島イノベーション・コースト構想」を念頭に置いてスタートしたわけでなかったことが、かえってウケがよかった側面があるかもしれません。結果的に、多くの場面で、たとえば大学と地域との連携の好例ということで取り上げても頂いています」
 <ドローン特別講座=慶大が田村市の協定の一環として、2016年12月から田村市にある福島県立船引高校の生徒を対象に展開している課外講座。ドローンにまったく触れたことのない高校生にゼロベースで知識、技術、楽しさを伝え続けた。受講生達は国交省からの飛行許可・承諾も取得し、市が招致した野外音楽フェスで空撮をしたり、市の防災訓練ほかの催事にも招かれたりしている。市外から交流の打診も受けるようになった。南氏は全講座で講習を担ったほか、第一線で活躍するキーマンを次々と高校に招き、高校生との交流を図った>

 ――ドローンタイムズにとってもモデル事業となりました
 南氏 この種の取り組みとしては初めてのケースだったので、実現までには乗り越えるための苦難もありました。まあ、苦難はあるに決まっているものです。結果として市のトップレベルで『教育は投資』と理解を示して頂きました。ドローンタイムズにも取材して頂きました。そういったいくつものご縁が重なったからこそ、うまくいったものだと思っています。
 ――地元への効果も期待できます
 南氏 田村市は全国の1000の市の中で、知名度が966番目だと聞きますし、地元の方も、謙虚な地域色もあってのことだとは思いますが、「なんの取り柄もないまち」と言う方が多い。それでも、ドローンの高校生については市民の方に浸透しはじめました。好ましく受け止めてくれている地元の方も増えてこられました。市民の方はちょっとしたきっかけで動くことがあるんだなって。まだ数ミリかもしれませんけれど、前進することができることを、お示しできたと思っています。なにより、高校生が自信を持って活動してくれていることが、ぼくらが誇るべきことかなと思っています。

福島県田村市で開催された野外音楽フェス「One+Nation」の本番前日に会場でリハに臨んだ船引高校生。「国交省許可取得」と染め抜かれた揃いのビブスに誇りがにじむ

田村市では農業も まずはホップで

 ――この活動としての2018年の展望は
 南氏 田村市に向けた取り組みとしては、まず、市民も企業もまきこんだ枠組みを組織したいと考えていて、すでにいろんな方々と相談をさせて頂いております。復興に関する予算も有効に活用できればいいと考えています。とにかく、田村は、ドローンが楽しめる場所、楽しんだあとに役にたてられる場所、役にたったときに次に自分の仕事にできる場所。そういうステップアップができればな、と、いまは考えています。そういったステップを次に進めたいなと思っています。
 ――ステップアップの取り組みとは
 南氏 そのひとつが農業です。どちらかといえば、大量に栽培されているものでない作物をターゲットにしたい。まずは1年間観察します。ドローンも使っていろんな角度からデータをとり、そのデータと生育状況とを見比べて、関係性を導き出せそうだったら次年度以降に生かす。「こういうときにはこうなる傾向があるので、こうしてみてください」という実験を一緒にやっていく。そんなことを考えています。
 ――短期の事業ではなさそうですね
 南氏 何年かかかると思います。そういう希少性の高い野菜の生産を、弥生時代から続いている古い農業ではなくて、21世紀型の農業という形で、なるべく人の手をかけずに、ただし、監視とか、状況の把握は、通常、人間がするよりもきめ細かくやっていく。そんな農業をなるべく低コストでできるようにする。そうすると、希少性が高く付加価値を高められそうな農産物に対して、参入障壁が低くなる。「このノウハウでやればいい」、「このやりかたでできる」、「このツールを使えばいいよね」、そう思ってもらえると思うんです。そうすると、田村市の中で、たとえば兼業農家の方が作物を少し変更するとか。あるいは若い世代が農業に対して、「これなら自分にもできるかも」と思ってもらえるとか。そんな見通し、道筋を示せれば万々歳です。
 ――当面の取り組みは
 南氏 田村市の中で、いろんな圃場と農場、とくにハウスではなくて露地の、地面の測量をしています。測量をしておくと、地形など地面の正確な基礎データが取れます。この1年間はわりと若手の方で、少し珍しいものにチカラをいれていらっしゃる農家さんや企業と農業系のドローン利用を進めることをはじめています。いま考えているのはホップです。田村市の都路周辺で栽培に力を入れておられます。田村市に限らず、その周辺も含めて、ホップ栽培に力に取り組んでいるところと一緒に進めていきたいと考えています。

田村市でホップ栽培の拠点になるとみられる「グリーンパーク都路」。冬の時期は雪化粧をしている=2018年1月12日(福島県田村市)

高校生向け講座には〝ドローン測量〟を構想中

 ――船引高校のドローン特別講座は続けますか
 南氏 ドローン特別講座には船引高校での続編の話と、他地域展開の話が、これまたありまして。船引高校に関しては、そろそろガツーンと行こうかなと(笑い)
 ――ガツーンと?
 南氏 空撮だけでドローンができたつもりでいるな、といった感じでしょうか。彼らが身に着けたスキルは、ドローンの基礎的なスキルだと思います。たとえば飛ばしていいかどうかを判断する力とか、自分が飛ばしているドローンがどういうポジションかを把握する力とか、すべてのドローンオペレーターが持たなければいけないスキルを持ったというところ。その意味では、国交省基準やドローンスクールで教えている基準はクリアしていると思います。ただドローンを産業に利用できるかどうかはその先です。たとえば測量なら測量の技術が必要です。
 ――産業向けにシフトしていく?
 南氏 それぞれ産業にはそれぞれで難しいところがあります。たとえば測量でも測量の業者とドローン業者の間には、同じようにドローンを使うにしても、使い方には大きな溝があります。それは何か。まずは測量というものの捉え方が違います。測量の事業者は、誤差を限りなく減らす工夫と努力をいっぱいしています。そのためにすごく高価な機械を導入したり、必ずRTK(―GPS、リアルタイムキネマティックGPS)をつけたりしています。せいぜい数㍉単位の誤差に基づいた地上標識を設置して、ドローンがその地上標識を見ながら、できればローリングシャッターじゃなくて、いわゆる普通のシャッターのメカニカルシャッターのカメラで撮る。歪みのない画像です。できればオーバーラップ率も80%以上にする。それでやっと仕事になります。一方でドローン業者の写真測量は一般的にはそこまで精度が高くない。そこは測量専門の業者が命かけて展開している領域なので、ドローン業者もそこをリスペクトしないといけない。もともとある測量という分野で、必ず、これを基準にすべきこと、大事にすべきこと、というものがあるので、そこを尊重しないとそれ以上のことはできない。そこを押さえるクラスを作ろうかと、と思っています。
 ――高校生向けに、本格的ですね
 南氏 すでに高校生と触れ合ってくださっている測量会社もいらっしゃいます。そこと組ませて頂いて、たとえば実際に学校の測量をすることもできるかと思います。測量だけではありません。たとえば農業に関してはたとえば農薬散布を考えています。実際に農薬を散布させるのは大変ですが、行政や中央省庁とも連絡をとりながらなんらかの形がとれればいいと思っています。そういう実習ができないと、人口が増えないと思いますので。そこを、船引高校の生徒にやってもらおうかなと。あと、空撮もただ撮っておしまいじゃないんだぞ」っていうところを伝えたいですね。全体の状況の中で何を考えなくてはいけないのか、ということを理解してもらって、それを考えてもらう。実際に、ドローンの空撮を事業にしておられる方達のご協力も仰ぎたいと考えています。今のところ、産業視点での測量、農業、空撮の3領域を、具体的な、産業と結びつくという意味で「アドバンストコース」のような形でやりたいと考えています。
 ――他地域展開の話もあると?
 南氏 ほかの高校でも「やりたい」とおっしゃるところがあります。そこ田村モデルをもっていって、「最初にちょっと難しい機体から入ってもらうけど」といったところから、飛ばせる感覚、ホバリングの感覚を掴んでもらうところから入って、機体の向きと自分の感覚を覚えたり、両手を一緒に動かすときにミスを起こしやすいので、そのミスを解消するためにどうすべきか、といったことが身に付けたりできるカリキュラムを提供したいと考えています。田村市では2期、12回やりました。それをやや圧縮してはどうかな、とも思っています。自治体として3つ候補が挙がっています。県立高校がその地域で1校、といった自治体もあります。また福島市内の学校もあります。そこは福島市内でドローンの活動をされている方とご一緒できないかと考えています。

取り組みに共感した株式会社郡山測量設計社(本社:福島県郡山市、野中春夫社長)は、生徒のドローン活動に役立ててもらうため、ドローンや関連機材を学校に寄贈した=2017年8月1日

「ロボットテストフィールド」の有効活用も模索

 ――人材育成では新たな展開もありそうですね
 南氏 福島県南相馬市・浪江町に整備中のロボット産業拠点、「ロボットテストフィールド」の利活用も考えています。たとえば、船引高校でやろうとしている産業ごとのドローン活用では、産業ごとに求められる適性を身につけてもらいたいわけです。ただ実態としては、その適性を養うトレーニング方法を教えてくれる場はほとんどない。そういうことをロボットテストフィールドならできるわけです。ここで、こういうことをやると上手になります、というカリキュラムを示せれば、ロボットテストフィールドに人が集まりやすくもなります。
 ――ロボットテストフィールドの使い方としても有効ですね
 南氏 使い方という意味では、災害時にはどういうドローンのオペレーションをしなくちゃいけないかとか、消防無線や自衛隊の無線との関係については、どういうことを考えないといけないのかとか。そういったことをテストできる場所はほかにないんです。橋梁を測る訓練を、橋梁でやろうとしたら、実際の測量の作業以上に、許可を取る手続きが大変だったりするわけです。ロボットテストフィールドでないとできないことができるようにする。そのために、毎日、土木現場で働く方々、建設現場に携わる方々が訪れる場所にして有効活用すべきだと思っています。このほか「グレーディング」というものも提案していますが、これは未知数です。
―――2018年、それだけでも忙しそうですね
 南氏 このほかにもあるんです(笑い)。いい機会もたくさん頂いているので、全力で取り組みたいと思っています。(「下」に続く)

福島県田村市にある福島県立船引高等学校で行われた第1回のドローン特別講座で指導をする南政樹氏=2016年12月
ドローンタイムズの取材に応じる南政樹氏

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