土砂災害・研究最前線~国総研・土砂災害研究部を訪ねて、その1~

つくばで最新の技術に迫る

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九州北部豪雨で流木に埋め尽くされた寺内ダム(提供:国土交通省)

日本災害列島、異常に多い土砂災害

茨城県つくば市に広がる筑波研究学園都市の中核的研究機関である国土交通省国土技術政策総合研究所(以下、国総研)の土砂災害研究部を訪ねた。近年、深刻な被害をもたらしている土石流災害の実情と調査・研究の最前線を知るためである。

国交省資料によれば、2017年9月末現在で、全国の土砂災害警戒区域の指定状況は、(1)土砂災害警戒区域(警戒避難体制の整備、土砂災害防止法)及び土砂災害特別警戒区域(開発行為に対する規制、土砂災害防止法)の指定が完了した都道府県は、青森県、山梨県、福岡県、群馬県、栃木県、石川県、山形県、岐阜県、福井県、大阪府、山口県、長野県、茨城県の13府県(2)土砂災害警戒区域の指定が完了した都道府県は島根県、鳥取県、奈良県の3県、である。同年3月末時点での土砂災害警戒区域は全国で49万9298カ所、土砂災害特別警戒区域は34万2870カ所にのぼる。決して少ない数字ではない。

土砂災害研究部岡本敦研究部長の論文「国総研における土砂災害分野の研究・技術開発」(2017年6月「土木施工」発表)から日本の土砂災害の現状や国総研の取り組みを見てみる。

提供:国総研

世界から見た日本の土砂災害

国連大学などによる「世界リスク報告書2016年版」は、世界171カ国の自然災害(地震、暴風雨、洪水、旱魃、海面上昇)の遭遇しやすさ(Exposure)を評価している。日本のExposureは世界4位、上位20には12位にオランダがあるだけで、その他G8または欧州諸国は含まれていない。日本が環太平洋火山帯に位置し豪雨だけでなく地震・火山活動の影響を受けることで、先進国としては異例に自然災害を受けやすい国土であることが改めてわかる。

独フェヒタ大学マルティン・クローゼ博士らによるミュンヘン再保険の自然災害データベースを用いた調査によると、1980~2013年の世界の土砂災害による年平均被害額は約200億ドル、うち日本は30億ドル超と世界の15%超を占める。内閣府による2015年日本の名目GDPは世界5.9%であるので、年度の違いはあるが世界平均をかなり上回っている。

以上から、我が国は世界的に見て、犠牲者数、被害額の面から土砂災害リスクが非常に高い国の一つであることが認識される。次に自然災害の発生件数等の推移を見ると、増加傾向にあることが分かる。気候変動、人口増加、経済発展に伴う危険な地域への居住地の拡大などが主要因と推察される。
国内の土砂災害による被害を軽減するため、また、世界中で自然災害リスクが増大する中、国際貢献を果たすためにも土砂災害に係る研究・技術開発の推進は喫緊の課題である。

国総研による研究・技術開発

現在、国総研土砂災害研究部が取り組んでいる研究・技術開発の事例を2つ紹介する。

(1)大規模土砂生産後の土砂動態と流砂系土砂管理
深層崩壊等の大規模な土砂生産が生じると流域からの土砂流出が多い時期が一定期間続くことが知られている。紀伊半島大水害(2011年)では、奈良・和歌山・三重県において約1億m3の崩壊土砂量が発生したが、その後、新宮川水系では多量の土砂流出により河床上昇が顕著となり、国交省及び3県が河道掘削を実施している。これまで(2016年9月現在)熊野川および支川において約510万m3の河道掘削を実施済みであり、総計約640万m3を掘削する予定となっている。

国総研では常願寺川(1858年・飛越地震)、酒匂川水系中川川(1923年・関東大震災)、小渋川(1961年・出水等)、揖斐川(1965年・1975年の出水等)、王滝川(1984年・長野県西部地震)、姫川水系浦川(1995年・出水)、芋川(2004年・新潟中越地震)、迫川(2008年・岩手・宮城地震)など豪雨・地震で発生した大規模土砂生産事例(11流域)について、空中写真、河床変動測量、ダム堆砂量等のデータを収集し、生産土砂量と流出土砂量の関係、影響期間等について分析した。

全国11流域の事例を分析した結果、豪雨を起因とする大規模土砂生産では、影響期間内の流出土砂量が生産土砂量の平均8割程度となり、地震の場合は2割程度となった。豪雨の場合の影響期間は10年以下がほとんどであるが、地震の場合は100年を超えるものもある。地震の場合は大規模土砂生産時の河川流量が多くないことや天然ダムの形成等により土砂流出率が小さくなるものと想定される。

今後は、大規模土砂生産後も流域内に残留する土砂について、空中写真、LiDAR等を用いて残留する場の特徴を整理するとともに、粒径、降雨量、流域面積、河床勾配等の関係を分析し、大規模土砂生産後の土砂動態の推定手法や砂防施設の効果評価手法の高度化を図り、流砂系の総合土砂管理に資する技術の開発を進める。

(2)同時多発の土砂災害をもたらす集中豪雨発生場と切迫性の評価
現在、土砂災害の警戒避難については、県と気象台が共同で土砂災害警戒情報を発表した場合は、市町村長は直ちに避難勧告等を発令することを基本としている。また、市町村においては避難勧告等を発令する区域等をあらかじめ定めておき、国・県から提供されるメッシュ情報等を踏まえ、危険度が高まっている区域に対し的確に避難勧告等を発令することが望ましいとしている。しかし、土砂災害警戒情報が発表されても避難勧告等が発令されない事例、区域を限定することなく市町村全域に避難勧告等を発令する事例などが散見される。市町村からは夜間の避難勧告等を躊躇する声、土砂災害警戒情報後さらに危険が増した区域の情報も提供して欲しいとの声を聞くところである。

一方、広島土砂災害(2014年)はじめ、甚大な人的・物的被害に至る災害は「線状降水帯」に伴い発生する事例が少なくない。数日前から予測可能な台風等に比べ、線状降水帯に伴う集中豪雨は突発的に発生するためリードタイムをもった予測が難しい。2006~15年の市町村当たり5人以上の人的被害又は5戸以上の全壊家屋が生じた土砂災害17事例(市町村単位)を対象に、線状降水帯の有無と人的被害を調査すると、線状降水帯を伴う人的被害総数はその他の13.3倍、1事例当たりでは4.1倍大きい。

このため、国総研では線状降水帯の形成ポテンシャルの評価手法、土砂災害警戒情報の発表基準を超過した区域の中で、特に危険度の高いエリアを特定する手法等を研究している。K指数(気象用語)、可降水量など線状降水帯の形成に影響を及ぼすと考えられる指標を複数評価し、例えば2014広島災害の12時間前には、K指数の分布により線状降水帯の形成域がある程度推定できる。これにより、土砂災害警戒情報の発表6~12時間前から自治体の防災体制の強化等に活用することが想定される(例えば大雨注意報等が発表される前に注意体制に入るなど)。

また、土砂災害警戒情報の閾値の設定に用いるRBFN出力値の履歴順位を用いることで、閾値を超過した区域のうち特に危険度が高い地域を特定することが可能となる。これは避難勧告等を発令した後、特に危険度の高い区域に対する避難指示等に活用することが想定される。

今後は、地形・地質等の情報も組み合わせ、さらに精度が高く切迫性のある警戒避難情報の提供について研究を進める予定である。

国総研では研究成果が国・地方自治体における土砂災害対策の実務に利用されるよう、関係機関との協議を通じてニーズを的確に把握し研究活動を進めることとしている。また、少子高齢化、生産性革命等の観点から、ロボット技術を活用した火山噴火、深層崩壊等の大規模災害時の緊急ハード・ソフト対策技術、新たな砂防施設の建設技術(i-Constructionや新材料、プレキャスト化等)、長寿命化に向けた点検診断技術、補強・補修技術等の開発も重要な課題と認識している。さらに、イノベーションを推進するため、他の研究機関、大学、民間企業等との共同研究等を積極的に進め、AIなど新たな技術の活用も促進する方針だ。

土砂災害の事前予測

具体的な研究成果を紹介する。同部の論文「土砂災害を早期検知する技術の開発動向」(渡正昭氏、桜井亘氏、松下一樹氏、神山嬢子様共同執筆、2016年「土木技術資料」発表)から引用する。

平成26年(2014)8月に広島市で発生した土石流災害をはじめとして近年、社会的に大きな影響を及ぼす大規模な土砂災害がたびたび発生している。このような土砂災害から人命を守るためには「いつ」、「どこで」発生するかを事前に予測することが必要であり、現在、市町村においては降雨による土砂災害警戒情報に基づいて住民に対する避難の勧告や指示を行っている。

表-1土砂災害の前兆現象

その一方で、土砂災害には予兆や前兆現象を伴う場合があることが古くから知られており(表-1)、実際にこれらの情報をもとに事前避難して助かった事例が報告されている(図-1)。しかし、こういった情報が自治体まで共有されることは少なく、自治体レベルでの活用には結びついていないのが現状である。降雨以外にもこうした情報もできるかぎり活用してゆくことで土砂災害の発生をいち早く検知し、住民の警戒避難や発災時の初動体制の強化につなげてゆくことが望ましい。

図-1 事前に避難した事例(福岡県うきは市、提供:国総研、以下同じ)

土砂災害に関する降雨以外の情報を警戒避難に有効に活かす観点から、広域的な情報の収集・分析に有利と考えられるリモートセンシングの手法としてSAR(合成開口レーダ)や、現地の土砂移動現象をより直接的に観測する手法としてハイドロフォンなどの流砂量や水理水文観測機器を用いた土砂災害検知技術(ソフト技術)を紹介する。

土砂災害検知に関する研究開発の動向

(1)SARによるリモートセンシング
SARは、衛星に搭載するなどして、離れた場所から土地被覆の変化や微少な変位を面的に観測可能であり、例えば写真を取得する光学系センサーと比較して天候や昼夜の影響を受けず観測できる利点がある。そこで繰り返し観測を実施し位相差を計測することで、地表変位の範囲や規模等を把握(干渉SAR1)解析)しようとする研究が行われてきた。すでに地震や火山噴火に伴う地表変位については、国土地理院により人工衛星から撮像したSAR(PALSAR-2)画像を用いた解析が実施されホームページにおいて公表されている2)。地すべりや崩壊についても干渉SAR解析により予兆や前兆現象となる地表変位が観測できないか研究開発が行われてきている(図-2)。

図-2 干渉解析による斜面変動検出事例

しかし、地表変位は観測環境や土地被覆状況等の要因により良好な干渉性が得られないことも多い。例えば、予め継続的な測量が実施されている地点について干渉SAR解析により地表変動が検出できるか検討を実施した結果によれば、地表変動量35mmから85mmの範囲に収まる地点については地表変動が検出できたが、その範囲外の地点については検出できない割合が増えた。これまでに、干渉SAR画像から判読した斜面変動範囲と現地調査等から推定された斜面変動範囲を対比することで、地すべり地におけるGPS観測点の設定に活用された事例がある。

しかし、干渉SAR解析のみから土砂災害の前兆と考えられる地表変位を検知しようとすると、監視基準値の検討や斜面変動箇所の抽出が可能な環境条件、変動特性(変動速度、規模等)などを明らかにして、解釈の難しさを改善する必要がある。さらに、実対応の判断に結びつけるためには、斜面変動箇所と保全対象との位置関係から土砂移動の影響が保全対象に及ぶか評価する研究を進めることが重要だと考えている。

一方、光学系センサー等の使用条件が充分に整わない状況において情報空白時間を生じさせることは危機管理上、望ましく無い。そのため、広域観測手法にSAR観測を選択肢として増やすことで土砂災害検知の遅延を防ぎ早期対応に結びつけようとする研究開発が行われている。平成23年紀伊半島大水害時の対応では、悪天候が続いたため、人工衛星搭載SAR(TerraSAR-X )による単偏波SAR画像を用いた河道閉塞箇所の判読が行われ、土砂災害防止法に基づく緊急調査に活用された)。今後、SAR画像判読による土砂災害対応を定着化させるためには、機器や電送技術の開発はもとより、崩壊地や河道閉塞箇所抽出を目的とした画像解析技術の開発、機動性や分解能の異なる衛星搭載SARや航空機搭載SAR(ドローンを含む)を組み合わせた運用について検討が必要と考えている。

このように、SARによる土砂災害早期検知技術が現場で活用されつつある一方で、確実に土砂災害を早期検知するためには課題も多い。国土監視に向けた研究開発を推進する必要があると考えている。

図-3 山地河道における流砂水文観測状況の例(天竜川水系与田切川流域坊主平砂防堰堤)

(2)流砂量・水理水文観測情報による土砂災害検知
現在、山地流域の土砂動態を把握するため、直轄砂防事務所により約90箇所において、ハイドロフォン(掃流砂が河床に設置した金属製パイプに衝突する際に発する音により、掃流砂量・掃流砂の粒径を計測する機器)や濁度計等を用いた流砂量観測が実施されている(図-3)。国総研砂防研究室においても、流砂量観測手法の提案や、観測を行う直轄砂防事務所職員への助言を行うなど、観測の普及に取り組んできた。

流砂量観測の目的は、砂防基本計画の策定や総合的な土砂管理の検討に資することである。一方、近年、大規模な土砂災害が頻発しているため、危機管理の観点から流域監視の技術向上が求められている。そこで、出水期間中の流域内の土砂動態をリアルタイムで把握できる流砂量観測により、土砂災害の発生予測や早期検知等、流域監視を行うことが考えられる。以下に流域監視へ流砂量観測の適用が可能と考えられる観測事例を示す。

天竜川右支与田切川では、源流域に土石流が頻発する荒廃渓流があるため、天竜川上流河川事務所が直接採取による土砂濃度やハイドロフォンを用いた流砂量観測を実施(図-3)するとともに、観測地点から6km上流でCCTVによる監視を行っている。このうち、土砂濃度の観測結果とカメラ画像の解析から、体積土砂濃度/水位の値がある値以上になると、土石流や土砂濃度が高い流れが発生していることが確認されている7)。同程度の水位でも土石流発生の有無があるため、土砂濃度と水位観測の実施により、土石流発生検知や発生タイミングが把握できる可能性を示す事例である。

今後は、全国における出水時の流砂量観測結果の分析を行い、土砂生産時やその前後の土砂流出特性の変化から、土砂災害の早期検知や予測につながる手法の検討を行っていく方針である。
(謝辞:国総研土砂災害研究部から論文や資料の提供に多大なご協力・ご理解を頂いた)

(つづく)