【中国地区の鉄鋼需要と展望】〈金子堅一郎氏(日本鉄鋼連盟中国地区運営委員長)に聞く〉変動少なく、地場需要堅調 自動車高水準、建築にも光明

 日本鉄鋼連盟の金子堅一郎・中国地区運営委員長(JFEスチール中国支社長)に今年の中国地区の需給見通し、マーケット展望を中心に聞いた。(小田 琢哉)

――昨年を振り返ってみて。

 「中国地区の鉄鋼需要は分野別で見るとまだら模様ではあるが、総じて堅調に推移。年初の想定通りのレベル感だったと思う。主原料高騰に伴う鋼材販売価格の改定は、顧客サイドの理解を得ながら、市況も連動して上がってきていると捉えている。国内需要は製造業、建設業とも堅調で、全品種で供給タイト感が増し、品薄の品種もある。2018年も顧客動向を見る限り前年と同じトレンドで堅調に推移するのではないだろうか。為替が円安傾向で安定している事もあり製造業が好調である事や、首都圏を中心とした五輪や再開発など国内の実需は底堅く、現段階では年内に大きな変化が起きるとは考えにくい」

――地場自動車産業の動向は。

 「マツダは来年度の世界生産販売台数を165万台と掲げており、この目標を達成すると見ている。国内生産は100万台近い数字になりそうだ。足元は全面改良された多目的車CX―5がけん引し、販売・生産とも好調。同社の中期計画「構造改革ステージ2」では、質的成長とブランド価値向上が標榜され、この質的向上には鋼材も関与している。今年後半に発売予定の最初の第7世代車となる次期アクセラには、軽量化を目的にハイテン材が積極的に採用され、中計のあるべき姿を具現化していると思う。今年も新型車投入がある事から、生産台数に大きな変動はないだろう。中期的には、メキシコ工場に国内生産分を移管していく計画だが、すぐに激変するとは考えにくく、国内生産の維持に期待したい」

 「三菱自動車工業水島製作所は燃費データ改ざん不正問題で昨年度の生産台数は約19万台に落ち込んだが、今年度は前年度比5万台プラスの24万台が見込まれ、巡航に戻ってきている。日産自動車の傘下に入り、総社地区の部品会社も課題はあるものの明るい展望が描けるようになったのではないか。小型SUVのRVRの量産が岡崎製作所から水島に生産移管され、1月から本格生産が始まり稼働率が引き上がるため、来年度の生産台数は今年度超えを確実視している」

――土木建築はどうか。

 「2017年度は河川・道路・港湾といった土木主要分野が端境期にあたり、目玉と言える物件が少なかった。中国地方整備局の公共工事予算の減少傾向が続く中で、明るい話題は少ない。長く地域需要をけん引してきた岩国米軍基地整備も最終段階に入っている。今年に関しては、地域防災拠点となる中国地区各地の市庁舎建て替えや福山競馬場跡地の体育館などの建築基礎、港湾バース拡張といった需要が下支えとなり、前年並みの需要水準ではないか。国際バルク戦略港湾に基づく出件や島根原発の再稼働に向けた工事発注に期待したい」

 「建築分野は、関東規模の鋼材使用量10万トン超えまではいかないまでも、工場や物流倉庫の新設で地元でも万トン級の大型案件がある。広島市中心部の建造物も老朽更新時期を迎え建て替え需要に期待している。地場鉄骨ファブリケーターは高水準な稼働を続けており、首都圏や関西・九州圏の物件も含めて、今春以降の受注を抱えている。ゼネコンやファブは需要があっても人手不足の影響もあり、これ以上受注を伸ばせないので、高い状態からピークアウトせずに需要が長く延びるのではないか。政府の働き方改革の推進で、建設業でも週休二日制導入が視野に入ってきた。人手不足の昨今、制度実施となれば、さらに週休2日を前提としたゆとりのある工期の設定が考えられる。鋼材発注の流れにも影響してくる変化だけに、注視していきたい」

――神戸製鋼所のデータ改ざんや鉄鋼メーカーの工場事故と問題発生が相次いだ。

 「メーカーサイドは、昨年生じた安定生産と品質の問題を重視し、各社が気を引き締めて取り組み、信頼を回復する必要がある」

――鉄連としての取り組みは?

 「防災・減災に向けた対策技術や工法開発を産学官連携で継続している。また、従来の鉄に対する重厚長大のイメージを覆し、ハイテン化による軽量化やリサイクル性、環境負荷軽減といった「軽い」という概念を「鉄は、じつは軽い」というシンプルな言葉で対外的にアピールを進めている。会員各社を通じて鉄の魅力を発信し続けていきたい」

広島・山口地区の鋼材需要

ビル・ホテル建設相次ぐ/港湾整備など万トン級期待

 JR広島駅前では、カープ本拠地の新スタジアムがある駅南側の再開発地地区に建設された2つの巨大高層ビルが一際目を引く。駅舎からコの字型に延びる歩行者専用橋・ペデストリアンデッキの全通に続き、駅南北をつなぐ自由通路・延長180メートルも完成し、利用者の利便性は一気に向上した。全国同様、広島地区でも建築着工のズレ込みや工期延長が常態化してきたが、駅北側ではホテルや地元テレビ局の新社屋ビルが相次いで着工し、駅前再開発の完成形が見え始めている。

 広島市中心部では新たなオフィスビルの供給量が不足しており、潜在的な建て替え需要が見込まれる。耐震性の問題から、老朽化したビルから新ビルに移りたい企業も多いと見られる。慢性的なホテル客室不足にも悩まされてきたが、最近ではホテル建設計画が相次いでいる。昨年12月には米ホテル大手のヒルトンが大型ホテルの広島市内進出の意向を示した。

 サッカースタジアムや商工会議所の移転、老朽化した県庁や市内デパート群とサンモール再開発などの大型案件が今後顕在化してくれば、周辺地区のリニューアルも加速するものと期待される。

 中国地方整備局の公共予算漸減から地区土木需要がシュリンクする中で注目されるのが徳山下松港の「国際物流ターミナル整備事業」(事業期間2016~2019年度)だ。同港は、山口県の瀬戸内海沿岸のほぼ中央に位置。周南市、下松市、光市の3市を包含する広い港域を持つ自然条件に恵まれた良港で、石油コンビナートをはじめとする臨海工業地帯を支える工業港として発展。鉄鋼関係では、周南市に日新製鋼周南製鋼所、光市に新日鉄住金光製造所、下松市に東洋鋼鈑下松事業所が立地するように、国内鉄鋼生産拠点としても重要な位置を占めている。2011年には宇部港とともに「国際バルク戦略港湾」に選定され、大型船舶での大量一括輸送により、石炭を安定的かつ安価に供給する広域拠点港としての役割が期待されている。

 同事業では、西日本の発電所などで使用する石炭の需要増加や大型石炭船を活用した企業間連携による共同輸送の進展に向け、同港の下松地区・徳山地区・新南陽地区の港湾施設である桟橋や岸壁、航路の整備を行うもの。総事業費は302億円。下松地区では公共岸壁では最大規模となる390メートルの桟橋(事業費75億円)や荷役機械(40億円)の整備、徳山地区は既存岸壁を110メートル延長(同32億円)、新南陽地区は既存岸壁の80メートル延長(18億円)などを計画。2020年の整備完了後は、これまで入港できなかったケープサイズ型(14万DWT)の入港が可能となる見込み。個別に石炭輸送を行ってきたが各ユーザーが大型船舶を利用した共同輸送を実施することでコストメリットが波及する見通しだ。

 今年度は設計・積算業務が詰めの段階。一部陸上ヤード整備などが発注されているが、本格的に発注が進むのは来年度以降となる。相当量の鋼材使用が見込まれるため、鉄鋼メーカー各社は「中国地方では珍しく、万トン級の需要がある」と熱視線を送る。

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