【トップインタビュー 昭和電線ホールディングス・中島文明社長】新中計策定、成長分野強化 車・医療関連など注力

――まずは現在の状況から。

 「市場は急激に好転してはいないが、この数年間取り組んできた構造改革の効果が出たことなどから4~9月期は全事業セグメントで増収増益できた。ただ今後の電線需要は決して楽観できないので、製造体制の効率化を引き続き進めていく。電線線材事業では建設・電販用電線で取引条件の是正に取り組みつつ、物流・在庫面で顧客サービスを向上。併せて効率化投資を逐次行っている。また線材では無酸素銅や銅銀合金などの販売が堅調だった。線材単体だけではなく、電線や巻線など線材を加工した製品と相互に補完し合いながら今後は顧客のメリットをさらに創出していきたい」

――電力関連や巻線の事業についてはいかがですか。

 「昨年度8期ぶりに黒字化した電力システム事業は引き続き収益を出すことが至上命題。現在、電力会社が長期的に進めるケーブルの更新需要を捕捉しているところだ。施工に関する人手不足が目下の課題なので、顧客と密に協議して最適なスケジュールを組んで対応している。また変電関連で部品を切り替える案件が出てきているので、災害に強い高性能電力部品のサイコネックスを拡販して需要に応えている。巻線事業は製品構成の改善を進めているが、さらに改革が必要な状況だ。昨今、自動車の制御部品などに使う高付加価値な製品が増えてきているので、今後も徹底的に伸ばしていきたい」

――注力する成長分野での取り組みは。

 「防災・減災や道路の関連では防災無線に使う同軸通信ケーブルなどの拡販で成果が出ている。また医療関連では機器や部品メーカーと連携。医療機器の制御に使う光ファイバや、レントゲン用ケーブルを丁寧に伸ばしたい。自動車関連は電気制御に関わる部分などで特徴ある無酸素銅や銅銀合金を生かす取り組みを加速しており、すでに受注実績もある。今後はグループ力を結集してさらに販売を拡大させる。またロボットや産業機器に使われる特殊な電線やハーネスにも注力したい」

――海外事業の現況については。

 「中国のハーネス事業は雇用の流動化や人件費の高騰が課題。その中で外注の活用や産業機器向けの需要対応などで利益を出している。天津の巻線はまだ構造改革が必要な状況だ。中国電線大手の富通集団とは浙江省と天津で合弁事業を展開。浙江省の銅荒引線と産業用電線は先方の強力な営業体制などに支えられて順調だ。天津の銅荒引線は生産が立ち上がっており、現在は顧客の認定作業が進んでいる。浙江省と天津はともに高性能な線材を作る技術を有するので、今後伸びる電気自動車(EV)市場への対応で存在感を発揮することを期待している」

――2016年度からの3カ年中期計画は上振れペースで進ちょくしていますが。

 「18年度以降の5年間の市場を見通した新たな中期計画策定に着手した。引き続き構造改革と成長分野の強化が事業運営の両輪。これまでは厳しい経営環境の下、構造改革にかなり軸足を置いてきた。新中計では成長分野の強化にいっそう力を入れ、スクラップ&ビルドを目指していく。少子高齢化などで国内インフラ関連需要の成熟化が見込まれる中で、成長分野の中から新たな基盤事業を育てたい。また海外では中国を中心とする現行事業をベースとして、さらなる展開を模索する。その上で収益の拡大を図る」

――伸びが期待できる事業分野や、さらなる海外展開への考え方については。

 「国際的な需要を含めて自動車や医療などの分野に期待している。また現在成長分野に位置付けている物だけでなく、さらに視点を広げたい。自動車などの分野は裾野が広いので、そこから派生して違う領域にも製品を展開できる可能性はある。また海外事業については拡大ありきではなく、製品の価値を認めてもらえる市場をしっかり考える。例えば中国ではEVの普及が加速しており、そこでの需要が期待できる。またEV化の流れがアジア圏の他の国々にも広がることが予測されるので、そこでの需要を捕捉する次の展開も出てくるだろう」(古瀬 唯)

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