「小児がん」ってどんな病気?―小児がんを考える①

「小児がん」という病気に対して、あなたはどんな印象を抱いているでしょうか。

がんという病気には未だに、「治らない」というイメージが伴います。子どものがんであればなおさら、「かわいそう」というイメージが先行しがちでしょう。

実際は、小児がんは治癒率が高い病気の一つで、全体の治癒率は70~80%にものぼるといいます。とはいえ、お子さんの人生や生活に大きな影響力を持つ病気であることは紛れもない事実です。

いしゃまちでは、小児がんという病気を理解するにあたり、国立成育医療研究センター 小児がんセンターの医師、看護師、チャイルド・ライフ・スペシャリスト、ソーシャルワーカー、保育士と、様々な職種の8名にお話を伺いました。第一弾として、小児がんセンター長・松本公一先生のインタビューを2回にわたってお届けします。前編となる今回は、小児がんとはどんな病気なのか、またお子さんへの病状説明はどのように行っているのかを聞きました。

お話を伺った先生の紹介
国立成育医療研究センター 松本 公一先生
国立成育医療研究センター 小児がんセンター センター長。博士(医学)、日本小児科学会専門医、日本血液学会専門医・指導医、日本小児血液・がん学会暫定指導医、日本造血細胞移植学会認定医。小児血液・腫瘍学を専門とする。

小児がんは、珍しい病気ではない

―まず、小児がんという病気そのものについてお聞きしたいと思います。小児がんは、発症人数自体はそれほど多くないけれど、決して珍しい病気ではないと理解すれば良いでしょうか。

そうですね。小児がんの発症人数は年間2,000~2,500人と言われていますが、正確な発症数は分かっていません。この推定値は日本小児血液・がん学会の登録のデータから取っています。2016年1月から、国立がん研究センターを主体に「全国がん登録」という新しい制度が始まったので、このデータが出て来る数年後には、さらに正確な小児がんの発症数が分かると思います。

患者さんの数自体はここ数年、そんなに変わっていません。ただ、全国に小児がん拠点病院というものができてから、徐々に患者さんが大きな病院に集まるようにはなってきています。患者さんの多いところに、さらに患者さんが集まってきているということですね。

 

―どのような症状が受診のきっかけになり得るのでしょうか?

これは難しいのですが、「がん」だから特異な症状があるかというとそうではありません。あまり特別な症状がないことが多いですね。例えば白血病の場合、熱が続くとか風邪を繰り返すとか、そういう症状で見つかることが多いです。

一方、お腹を触ったら腫瘍が触れたり、歩き方がおかしくなったり、青あざが多くなったり、といった症状があって受診される方も、中にはいます。

今、東京都が開業医向けに「小児がん診断ハンドブック」を出していて、「こういう症状が続いたら大きい病院へ行ってくださいね」という啓発活動も行っています。小児がんを早く見つけるための啓発ですね。

クリニックから近所の大きめな病院へ行き、そこから成育へ来るという方が多いように思います。ただ、年に数例は救急外来から突然「がんです」と入院される方もいます。

治療の中心は抗がん剤

―大人のがんと同じように、早く見つけて受診した方が治りは良いのですか?

実は小児がんは大人のがんと違い、早く見つけるとよく治るというものではありません。いくつかの病院を渡り歩いてやっと病名が分かったお子さんの場合、親御さんが「もう少し早く見つけていれば」とおっしゃることがあります。ですが小児がんでは、転移するものであれば最初から転移していることが多いのです。ということは、早く見つけても遅く見つけても、治療成績はそんなに変わりありません。小児がんの治りやすさは、もともとの細胞の性質で決まっていることが多いのです。

ただ、小児がんは進むスピードが早いので、早く見つけた方が良いとは思います。

私の経験した例では、ずっと喘息だと思ってクリニックにかかっていたお子さんが、実は腫瘍が気管を押すことで症状が出ていたというケースがあります。喘息だと思って様々な治療をしても治らず、どうしようもなくなって救急車で来る…手遅れになっては困りますよね。ですから、治療成績に変わりがないことが多いとはいえ、やはり早く見つけた方が良い病気の一つということにはなります。

 

―治療についても簡単にお伺いできればと思います。小児がんの治療は、どのように進めていくのでしょうか。

小児がんには、血液腫瘍固形腫瘍の2種類があります。血液腫瘍では、主に抗がん剤による治療のみを行います。固形腫瘍の場合は、抗がん剤と手術と放射線で治療します。

大人のがんと決定的に違うのは、小児がんでは抗がん剤が効く人が非常に多いことです。つまり、大人と比べると治りが良いということになります。

もちろん、手術が必要になる例もあります。固形腫瘍の場合はきれいに取り除いた方が良いとは思いますが、全部取らなくても、その後に放射線できちんと治療を行えば大丈夫なものもあります。

小児がんには、非常に多くの種類があります。お腹に腫瘍ができたとしても、それがどういう腫瘍かをきちんと調べないと、治療方針は決められません。反対に、病名がきちんと分かれば、それに対して標準となっている治療法はある程度決まっています。ですから、まずは診断をきちんとつけることがとても大切です。

小児の腫瘍については、日本小児がん研究グループ(JCCG)が、オールジャパン体制で研究を行っています。「こういう病気だったらこういう治療」という臨床試験をしていて、白血病と診断されれば、ほとんどの患者さんがJCCGの臨床試験に参加しているので、どこの病院でもほぼ同じような治療を受けられるということになります。

大人の場合は、標準治療はあっても、各病院でそれぞれに工夫を行っていることがありますが、小児の場合はそういう意味での病院間の格差は比較的少ないのかもしれません。

「がん」という言葉を使わずに説明することも

―治療や病態について、お子さんへのご説明はどのようにされているのですか?

お子さんに対して「がん」という言葉を使うのは、私の場合、小学校2年生以上です。もちろん、それ以下の子に対しても病態の説明はします。「細胞が不良になってね」などという話はしますが、がんという言葉はあまり使わないように思います。また、「強い薬を使って治療するよ」ということは伝えます。髪の毛も抜けてしまいますからね。

ほとんどの場合、まずは親御さんに説明をして、その後子どもに説明をするスタイルを取ります。

 

―小さいお子さんに治療を行う場合、「がん」という言葉を使って説明できないことがネックになることもあるのではないかと思います。

おそらく、治療の必要性を理解できないというところでしょうね。小さい子たちは、「嫌」「嫌じゃない」で物事を捉えます。抗がん剤の治療は嫌な方、辛い方に入るので、そういう辛いことをどうしてしないといけないのか、というところをきちんと説明できないことが、大きな問題だと思います。

そういう子たちには、「ちょっと辛いけど、いつまでも辛いわけではない」と話します。抗がん剤の治療はたいてい、1週間などと期間が決まっています。ですから、「この期間は治療があって、もしかしたら気持ち悪くなったり、頭が痛くなったりするかもしれない」という話はしますね。

 

―お子さんたちにとって、「自分の体内で何かが起こっている」となると、周りの先生方やスタッフの皆さんに様々なことを尋ねるという状況にはなっているのかなと思うのですが。

でも、「なんで髪の毛が抜けるの?」とかって、子どもたちはあまり聞いてこないんです。「薬が強いから、抜けるよ」という説明はしますけど、抜けたからどうこうとはあまり言わないです。小さい子や女の子たちは気にすることはありますが、それほど聞いてくることはありません。治療が終わったら、ちゃんと生えてきますから。

賢い子が多いというか、皆ある程度自分で分かっているというか。小さい子も皆、身の周りで起こっているいろんなことが、分かっているような感じです。

編集後記

取材当日、国立成育医療研究センターのこどもサポートチームのカンファレンスの様子と、小児がん病棟とを見学させていただきました。

カンファレンスでは、医師・看護師をはじめ、サポートに関わる多くの医療スタッフが議論を重ねていました。お子さんの病態や症状のことだけでなく、ご家族の様子など、細かな部分まで観察し、気を配っている様子を窺うことができました。

後編(1月19日公開)では、小児がんサポートチームの働きや、小児がんが治癒した後のお子さんたちのサポートについて聞きました。引き続き、ぜひご一読ください。

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