さまざまな職種が親子を支える―小児がんを考える②

前回に引き続き、国立成育医療研究センター 小児がんセンター センター長・松本公一先生のインタビューをお届けします。

前編では、小児がんという病気そのものについて聞きました。後編では、実際に子どもたちや親御さんをどのように支えているのかに迫ります。

お話を伺った先生の紹介
国立成育医療研究センター 松本 公一先生
国立成育医療研究センター 小児がんセンター センター長。博士(医学)、日本小児科学会専門医、日本血液学会専門医・指導医、日本小児血液・がん学会暫定指導医、日本造血細胞移植学会認定医。小児血液・腫瘍学を専門とする。

多職種によるチームで、しっかりサポート

―小児がんサポートチームを構成しているメンバーについて教えてください。

まず、小児がんセンター内科系の医師は、主に抗がん剤を使った化学療法を行います。子どもの全体を診るような人ですね。小児がんセンター外科系の医師は小児外科と協同して外科的な診療を行っています。

それから、麻酔科の医師もいます。基本的には疼痛管理、痛みのコントロールを担当しています。こころの診療部の医師は、精神的に辛いことを取ってくれるような役割です。あとは、緩和ケア科や放射線治療科、リハビリテーション科、歯科の先生もいらっしゃいます。

看護師さんは、緩和ケアを担当している看護師を中心として、病棟、外来の看護師さんです。成育では病棟の看護師が外来の看護師も兼務していることが多いです。

加えて、社会福祉士、チャイルド・ライフ・スペシャリスト、保育士、心理士、栄養士、理学療法士や作業療法士の方などがいます。

それから、院内学級の先生方も構成メンバーになります。学校の先生にはどこまでの医療情報を伝えて良いのかという問題があるので、難しいところもありますが、先生方とも密にやっていかないといけないと思います。

小児がん医療は、患者さんだけを診ていてもだめなんです。患者さんだけでなく、家で待っている親きょうだいのことまで考えないといけないんですよ。家族全員を診ないといけないところなので、そこはすごく気を使っていますね。

 

―先程見学したカンファレンスでは、かなり闊達に議論が行われていると感じました。本当に細かなところまでしっかり共有されていることも印象的でしたが、患者さんの治療方針などで、医療者同士の意見が割れることもあるのでしょうか。

たまにありますが、そこが大切な所です。最終的には主治医が決めていくのですが、いろんな意見をぶつけ合って、一番よい方向を検討します。

例えば、病態があまり良くない人に対してどういう治療をしたら良いか、というのは意見が割れるところです。「すごく強い治療をしたい」という人もいれば、「そんなに強い治療はもうしない方が良い」という意見もある。そういう治療方針の違いはあります。

また、親御さんと意見がぶつかることも、もちろんあります。医療者側は治療したいけれど、親御さんは治療を望まないという、先ほどとは逆のパターンですね。「もうちょっとやれば治るかもしれないのに」と私たちが思うときでも、親御さんは「こんな辛いことはもうさせたくない」と言う。そこで意見が分かれることもあります。

その子にとって何が良いかを、常にみんな考えています。どうやって決めていくか難しいのですが、医者としてよりは、自分がもし親の立場だったら子どもに対してどうするかという気持ちが大きい気がします。医学的に見たら正しいことでも、「自分が親だったらそれはしないよな」ということがあるかもしれない。そういう時には、親御さんには「自分の子だったらこうするかもしれません」というようなことは伝えます。

「みんな、普通の子なんです」

―お子さんとのコミュニケーションについてお聞きします。日頃、お子さんたちとはどんな話をするのですか?

子どもたちとは、病気とは全く関係のない話をすることの方が多いような気がします。みんな、普通の子なんです。病気でなかったら、そこら辺で遊んでいるような子たちです。違いと言ったら、点滴がついていることと、髪の毛が少ないことくらいですね。

子どもと話すときには、その子が嫌なことをあまり喋らないように気をつけています。長く付き合っていると分かるんですが、話題によっては「スイッチが入ってしまう」ことがあるので、そういう嫌なことは言わないようにしています。そこも、普通のお子さんと全然変わらないです。

 

―小児がん病棟のお子さんの、1日の生活の流れはどのようになっているのでしょうか。

午前中は色々な検査が入ったり、治療が入ったりします。学校に行く子は行くし、勉強する子はちゃんと1日、勉強していますね。受験勉強をしている子もいます。院内学級には朝9時に出ていって、お昼に1回戻ってくるけれど、3時くらいに帰ってきます。そこも、普通の子と変わりません。

成育では、院内に小中高と揃っているので、そういう意味では学校の先生のサポートがあるというのは大きいです。

親御さんへのサポートも欠かせない

―ご家族の方々とは、どのようなお話をされるのでしょうか?

いつも、よもやま話しかしていません(笑)。その中で「こういうことに困ってるのかな」というのを察知して、悩みを探り出すようにしています。私たちは医師だけでなく、チームで(患者さんやご家族を)見ているので、カンファレンス(会議)でその気付きを共有するのがすごく大事なことです。

親御さんたちは本当に我慢をしているので、それをなんとかしてあげたいなと思っています。ただ、入院している間はまだ良いんです。問題は、(退院して)外来に出た後や、通院が年に1回とかになった時に、困ったことを相談できる人が身近にいなくなることです。その時に活躍するのが、小児がん医療相談ホットラインです。

親御さんからの相談は、私たちに対してはやはり、医療的な問題が多いです。退院する前で一番多いのは、「家でこういうことが起こったらどうしよう」「学校ではどうしよう」などですね。もちろん、病気そのものの予後の話もたくさん聞かれます。

 

―小児がんは治る病気とはいえ、亡くなるお子さんもいらっしゃると思います。お子さんが亡くなった際のケア(グリーフケア)についてもお聞きしたいです。

お子さんが亡くなった後、落ち着かれたら、病院に来てもらってお話をしてもらうようなことはしています。でも、子どもを亡くされたお母さんは、しばらくは病院に来られないことが多いです。病院に行くと辛いという方が多くて、長い方だと、1年くらい経たないと来られない方もいます。来た時に、「あのときは大変だったね」という話をすることで、少しずつ癒えていくことはありますね。

基本は話を聞くこと、あとはその子の話をすることです。お母さんたちは多分、その子の話をしたくても、家の方ではできなくて、病院に来ないと話せないということがあります。時間があったら聞いてあげる、というのはすごく大事なことのような気がします。その時期を一緒に過ごした者として、いろんな話が共有できますし。

後ろ向きになっている人はそんなに多くないような気はします。もちろん、治療の選択や経過について、あとで悩んでいる人もそれなりにいますが、私たちが支えになれればと思います。それから、次の子が生まれると、その子を見せに来てくれるということもありますね。

がんが治った後も、自立していけるように

―小児がんが治って退院した後の「フォローアップ外来」についてお聞きします。がんの種類などによっても異なると思いますが、どのような内容でケアを行っているのでしょうか?

その子の受けた治療内容によって、かなり異なります。とても強い治療をした場合、何年経っても数ヶ月に一度くらいのフォローが必要ですし、何もなければ1年に1回や2年に1回でも良いでしょうし。

フォローアップは、基本的には血液検査やさまざまな検査をして、ということになります。ただ、長期フォローアップは私たち医師が患者さんを追いかけていくこととは少し違います。患者さんが自立することを助けるというのが、長期フォローアップの考え方です。

ただ、治療を受けてから何十年も経った時に、「30年前に私はどんな治療を受けたか」ということは誰かが知っていないといけません。そういうデータを、中央の長期フォローアップのデータセンターで保管しておくようになることはとても重要ですし、そのデータをもとに「あなたの場合、がん検診を早く受けた方が良い」とアドバイスしてあげることができるのではないでしょうか。これからの課題だと思います。

あとは、妊娠・出産の問題です。小児がんの子どもたちは閉経が早いことが多いので、早めに結婚して、早めに子どもを産めるようにといったアドバイスもきちんとできるようにすることが必要です。

長期フォローアップは実は、がんのことを見ているわけではありません。がん以外のこと、内分泌の問題やメンタルの問題など、いろんなことを総合的に見ないといけないので、がん自体のフォローアップとは少し違います。総合力がとても大切です。

 

―最後に、「いしゃまち」の読者の方々に一言メッセージをいただけますでしょうか。

小児がんのサバイバーの方たちがみんな一番におっしゃるのは、「私たちは何も特別な存在じゃない」ということです。小児がんだから、小児がんだったからではなくて、普通の子と変わらないということをもっとアピールしてほしい部分はあるようです。変な目で見られてしまっているようなところはあるし、保護しているようで実は差別していることもあるような気がします。

繰り返しになりますが、本当に普通の子なんです。ただ単にそういう病気があって、少しだけ治療をしたということで、普通の子となんら変わりありません。それを一番にお伝えしたいと思います。

編集後記

この日、実際に国立成育医療研究センターの小児がん病棟を見学させていただきました。松本先生と一緒に病棟内に足を踏み入れた途端に歩み寄ってくるお子さん、親御さんとなにやら話しながらニコニコしているお子さんなど、たくさんの子どもたちの姿を目にしました。

何より強く感じたのは、「本当に、普通の子どもたちだ」ということです。ただ可哀想というわけではなく、楽しい時には笑い、つらい時には泣くであろう、ごく普通の、そして愛らしい子どもたちの姿がそこにはありました。

この連載では引き続き、看護師、保育士、歯科医師などのインタビューをお届けします(次回は緩和ケア認定看護師・木須 彩さんのインタビューをお送りします)。

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