D’station Racing 2018年ドバイ24時間レース レースレポート

D’station RacingRace ReportHankook 24 Hours DUBAI 2018
January 10 -13 2018

目標の海外挑戦、第一歩目

パーフェクトなレースでクラス6位/総合13位を獲得!

Qualify : 25th / A6-PRO 11th (2’00″827)
Race : 13th / A6-PRO 6th (587 Laps)

「オール日本人体制で、世界と戦いたい」──2017年2月、D’station Racingの参戦発表会で、チームオーナーである星野敏は、力強く宣言した。あれから11ヶ月。D’station Racingは早くも目標実現に向けた第一歩として、アラブ首長国連邦のドバイ・オートドロームで開催されるドバイ24時間に挑戦することになった。

 このレースは、2006年に初めて開催され今年で12回目。オフシーズンのこの時季、ヨーロッパやアジアの強豪チームがジェントルマンドライバーたちとともに参戦を開始しており、近年レベルは急激に上がっている。GT3レースの本場であるヨーロッパからの注目度も非常に高く、メーカーのサポートを受けたワークスドライバーたちが数多く顔をそろえるレースだ。また、参戦車両もGT3やGT4、カップカーといったスポーツカーに加え、多種多様なツーリングカーがそろう。5.8kmのコースにこれらの車両がひしめくため、ドライバーのスキルも要求される。D’station Racingがエントリーしたのは、GT3カーで争われるA6-PROクラスだ。

 チームは、2017年にスーパー耐久を戦ったHAI Racingを母体とし、これに国内モータースポーツで活躍する熟練のメカニックを加え、星野敏/荒聖治/近藤翼というスーパー耐久ランキング3位を獲得したトリオに、SUPER GTでD’station Porscheのステアリングを握る藤井誠暢が加わるという、4人のドライバー体制が組まれた。まさにドリームチームと言えるラインアップだが、レースを前に過度な期待は禁物だ。これは今後の海外挑戦に向けたファーストステップ。チームのレベルアップが今回の主眼だ。

■プライベートテスト/予選

 チームスタッフ、そしてドライバーたちは1月8日、日本を発ちアラブ首長国連邦入りした。D’station Porscheは日本でフロントのダウンフォース向上を主眼とした2018年仕様へのアップデートが施され、ドバイに運び込まれている。ニュルブルクリンク24時間等と同様、1ピットに3台が収まるタイトな作業スペースながら、チームスタッフたちは効率良く準備を整え、1月10日午前11時にスタートするプライベートテストに備えた。

 10日に180分ずつ2回の走行が行われるプライベートテストでは、ドバイが初走行となる星野、荒、近藤のコース習熟が主な目的。また、ピットロード出口に備えられ、全車がこの場所での給油が義務づけられるガソリンスタンドへの対応なども重要なポイントとなった。2013年のこのレースで3位表彰台を獲得した経験をもつ藤井は、あくまでバックアップとして3人やチームへのアドバイスを行い、最小限の走行に留める予定となっていた。

 ただ、走り出しから思わぬトラブルが起きる。なぜかエンジンにミスファイアの症状が起きてしまい、パワーが出ない。経験豊富な荒は、なんとか症状をだましながら走る術をトライするものの、これでは本来のポルシェ911 GT3 Rのポテンシャルは発揮できない。プライベートテスト1回目、そして2回目ともにピットアウトしては症状の確認を行い、またピットインして対策する……といった具合に、なかなか走行マイレージを稼ぐことができずにいた。タイムは当然伸びない。ヨーロッパの強豪たちが1分58秒台というラップタイムに突入するなか、D’station Porscheはプライベートテスト1回目で2分02秒528、2回目で2分02秒651というベストタイムに留まってしまった。

 サポートに当たったポルシェのエンジニアとともに、チームの金井淳一エンジニア、高根裕一郎エンジニアはなんとか症状解決に向けて打開を目指したが、明けた1月11日のフリープラクティスでも、思ったようにトラブルは解消しなかった。ただ、レースウイークはすでに進んでいる。タイムは出ないが、荒がトラブル解消を進め、GTカーのみが走るフリープラクティス2では星野と近藤がコース習熟と、速さが異なる他車との間合いを学習していき、2分02秒998というベストタイムで24番手。荒と藤井が加わったフリープラクティス3では2分03秒725というベストで21番手となった。

 このレースはインターバルも短く、慌ただしく迎えた現地時間午後5時からの予選では、荒がタイムアタックを担当した。ただ、やはりミスファイアの症状は残っている。さらにトラブルへの対応でセットアップも満足に進められておらず、エースの荒をもってしても2分00秒827というベストタイムがやっと。ポールポジションタイムは1分56秒716で、「他のクルマとタイム差がありすぎますね。(今回使う)ハンコックタイヤへの合わせ込みもできていませんし、悔しい結果です」と荒は厳しい表情を浮かべた。レベルアップが主眼とは言え、これでは納得がいくはずもない。ずっと走行を見守っていた佐々木主浩総監督も、「エンジンさえなんとかなれば……」と苦い表情を浮かべた。

 しかし、予選後に行われたナイトプラクティスを前に、ついにチームを悩ませてきたミスファイアの原因が解決した。ポルシェの見解としては、ラムダセンサーのトラブル。そして電装系もトラブルに関わっており、これを解決したチームは、ナイトプラクティスを使って新たなセットアップをトライ。また、この走行でドライバーたちは夜間への対応を進めた。

 ただ一難去ってまた一難。走行を終えたドライバーたちは、「ライトが暗すぎる」と訴えた。日没が早く、12時間ほどの夜間走行があるドバイで、これはタイムが出ないだけでなく、致命的なアクシデントに繋がりかねない。チームはドライバーたちとライトの光軸調整を行い、決勝レースに備えた。

■決勝レース

 1月12日、いよいよ決勝レースの日を迎えた。午後2時からのスタートに備え、荒がステアリングを握りグリッドへ。スターティンググリッドでも、オール日本人体制のD’station Racingの注目度は高く、ヨーロッパからレース観戦に訪れたファンや現地在住の日本人がしばしばD’station Porscheの前で足を止めた。 ドバイらしい暑さのなか、荒のドライブでスタートしたD’station Porscheだが、やはり2日目までのセットアップ不足が響き、A6-PROクラスの最後尾付近を走行することになってしまう。しかし24時間は長い。

 ただ、荒のファーストスティントの終わりかけに最初のアクシデントが起きる。リヤタイヤがバーストしてしまったのだ。ただ、そこは経験豊富な荒。しっかりとピットに戻し、星野にステアリングを託す。幸いマシンにダメージはなく、星野は自身のファーストスティントに挑んでいった。

 先述のとおり、このレースは非常に台数が多く、かつアマチュアドライバーも多い。接触を避けるのは至難の業だが、星野は安定したペースでラップを重ねていく……どころか、かなりいいペースだ。ピットで見守る佐々木総監督も「大丈夫か?」と心配するほど。しかし星野は、自らのスティントをきっちりと走りきってみせた。最後は荒と同様、リヤタイヤのバーストに見舞われたが、冷静にマシンを戻し、近藤に繋いだ。レースキャリアの浅さをまったく感じさせなかった星野の奮闘に、チームの士気は一気に上がっていく。

 初めての海外での耐久レースであり、レース前には「緊張します」と語っていた近藤も、夕暮れで難しい自らの最初のスティントをきっちりこなすと、ついにレースは夜間走行を迎えた。ここで登場したのが藤井だ。レースウイーク中、ほとんどステアリングを握っていなかった藤井だが、ドバイ、そして海外の耐久レースを熟知し、ポルシェの操り方を良く知るだけに、少しずつペースを上げていくと、セットアップ不足を感じさせない、トップグループと互角のペースで周回を重ねはじめた。

 すっかりと夜のとばりが降りた後も、レースは続く。このレースはドライバーの格付けで最大の走行時間が定められており、ゴールドドライバーの荒と藤井は走行時間に制限があるため、D’station Racingは夜間のうちに走行時間に縛りのない近藤をメインとしてラップを刻んでいく。近藤も走り出しは慣れない部分もあったが、ジワジワとペースを上げ、その間を荒と藤井がきっちりとつなぐ。上位を上回るような素晴らしい速さをみせる藤井のスティントでは、少しずつポジションも上がっていった。

 長い夜間走行を経て、ドバイ・オートドロームは夜明けを迎えた。パドックにはクラッシュで走れなくなってしまったマシンが少しずつ増え、ピットでは修復作業を行うチームが増える。しかし、D’station Racingは明け方にちょっとしたアクシデントがあったほかは、まったくのノートラブルだ。メカニックたちも、きっちりと、そして正確にルーティンのピットストップをこなしていく。

 朝日が昇り、今度はふたたび星野がD’station Porscheのコクピットに戻る。耐久レースの定説は「日没と日の出は何かが起きる」のだが、星野はていねいにD’station Porscheを走らせ続けた。陽光がドバイの高層ビル群を照らすなか、星野は重要なスティントで自らの大役を見事完遂してみせたのだ。

 その後もD’station Porscheは、着実にラップを刻む。終盤、勝負を焦ったかA6-PROクラスの上位でもアクシデントが起き、D’station Porscheの順位はさらに上がっていった。刻一刻と近づくチェッカー。なんとそれぞれが合計8時間におよぶロングドライブを果たした近藤、そして藤井もきっちりとバトンを繋ぎ、アンカーを務める星野がピットアウトしていく。

 佐々木総監督や米山チーム代表、そしてチームスタッフが笑顔で迎えるなか、ついに1月13日午後2時、長いドバイ24時間レースはチェッカーのときを迎えた。「何度受けても、いいものですね」と星野はD’station Porscheとともにチェッカーフラッグを受け、チームスタッフと喜び合った。結果はA6-PROクラス6位、そして総合でも13位。もちろん表彰台に届けば言うまでもないが、初挑戦としては望外の結果だろう。上位は世界的にその名を響かせる強豪たちで、それに次ぐ順位なのだから。

 何より、レース中にほとんどトラブルフリーで駆け抜けた結果は、チーム力の高さとドライバー4人のパーフェクトな仕事ぶりを示している。強豪たちに挑むため、あとひと握りの速さを手に入れよう……。来たる2018年の国内モータースポーツシーズンに向け、D’station Racingは激戦を戦った心地良い疲労と満足感、そしてさらなる向上に向けた意欲を手に入れ、ドバイを後にした。

Satoshi Hoshino Team Principal & A Driver
今回の参戦のコンセプトとして『オール日本人体制』を掲げて、それがどこまで世界に通用するかという意味で挑みました。今年はまずは挑戦、そして完走が目標だったので、それを果たすことができ良かったです。また、ドライバーとしても、過去に24時間レースで、自分の役割を果たすことができなかった。でも、今回は4時間以上を走ることができて役割を果たせたので、満足しています。今後はもっと長い時間を走りたいですし、いつか表彰台に上がることできるように、もっと頑張っていきたいと思います。

Kazuhiro Sasaki General Manager
ドバイは自分が馬主としても勝った場所なので、自分としてもすごく楽しみにしていたレースでした。何が起きるか分かりませんでしたが、チームのみんなの力で24時間走りきることができたのは、本当にすごいことだと思います。24時間レース自体も初めてでしたが、長かったです(笑)! ドライバーもずっと頑張ってくれましたし、フィニッシュのときはすごく感動しました。今回は見たこともないようなクルマも多く走っていて、こういった世界の環境で戦ったことで、我々のチームも勉強になったことも多いと思います。

Noboru Yoneyama Team Director
このチーム体制としては初の24時間レースでした。若手に準備を任せたので、経験にもなったのではないでしょうか。大変なレースでしたが、今後に活かせると思います。予選まではトラブルもありセットに苦戦しましたが、決勝では路面温度によって速いところもみせられたと思います。最後はきっちり走り切れましたが、今回24時間戦い、もっともっとチームを強化しなければならないと感じましたね。2018年のスーパー耐久に向けてもっと強くなって、また来年もこのレースに帰ってきたいと思っています。

Seiji Ara B Driver
初めてのレースでしたが、実際のイメージは自分の想定どおりでしたね。いいペースで走り、最終的にどこまでいけるかと思っていましたが、そのとおりになりました。ただ、実際はトップの速さは予想以上でしたね。もっと速さも必要だと感じました。決勝序盤も遅れていく流れで始まってしまったのは悔しいところです。でも、みんなで安定して走ることができ、完走したことは最初のステップとしては、すごく有意義なものになったのではないでしょうか。来年はもっと上のポジションで走りたいですね。

Tomonobu Fujii C Driver
D’station Racingとして海外に挑戦することになり、スーパー耐久のメンバーが中心となって挑み、僕はヘルプとして関わらせてもらいました。チームワークも良いなかで戦うことができましたが、タイヤとクルマのセッティングが進まないままレースに挑み、スピード面では負けていた部分がありましたね。でも、クルマもスタッフもほぼノーミスで走り切れ、目標としていた『トラブルなく走りきる』ことはすべて達成できたのではないでしょうか。自身もオフにこうしてたくさん走ることができ、すごく良い経験になりました。

Tsubasa Kondo D Driver
夜の走行も世界も初めてだったので、レース前はすごく緊張していました。でも、荒選手や藤井選手からいろいろなアドバイスをいただいて、最終的に8時間近く走り、疲れましたけど、すごくいい練習にも経験にもなったと思います。こういった環境で戦わせていただいて、星野代表にもD’station Racingにもすごく感謝しています。この経験が今後の日本国内でのレースに活かせると思いますし、また来年もこのドバイ24時間には出場したいです。その時にはもっと力をつけていたいですね。

Official Website : http://dstation-racing.jp
Facebook : http://fb.me/DstationRacing

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