【2018年 課題と展望2】〈日本電線工業会〉電線産業の認知度向上を 商慣習改善を着実に推進

――まずは現在の需要環境について。

 「電線の内需は2020年の東京五輪に向けて17年から拡大局面に入ると予測していたが、建設現場の人手不足が影響して立ち上がりが遅れていた。ただここにきて需要は増え始めており、これから確実に拡大してくるという実感が得られている。また人手の問題などから東京五輪後に延伸される建設案件が出てくるので、20年以降についてもしばらくは需要が急減することはないだろう。また電気機械向けや自動車向けは堅調に推移しており、全体量を押し上げている。今後しばらく国内出荷量は年間70万トン前後で推移するだろう。光ファイバは民需関連などで内需は堅調。海外向けは米国などを中心に旺盛な需要がある」

――課題になっている商慣習の改善に向けてはどのような取り組みを。

日本電線工業会・伊藤会長

 「建設用などでは電線業界にとって辛い商慣習がある。ケーブルメーカーが最低限の収益を確保するため、工業会では16年に適正取引の指針を示すガイドラインを策定した。その後は経済産業省が定めた金属産業取引適正化ガイドラインに電線としての課題も盛り込んでいただいたほか、経産省・国交省局長の連名で建設業界などに改善を促す要請文を出してもらっている。我々としてそれらの周知に注力しているほか、政府も全国各地で説明会を開いており、ユーザーの認知度は徐々に高まってきた。具体的な成果はこれからだが、今後もさまざまなフォローアップ活動を通して商慣習の改善を確実に進める」

――長期的な市場の見通しと、日本の電線メーカーが求められる対応策は。

 「国内需要は東京五輪などでしばらくは支えられるが、長期的に見ると減少する懸念がある。工業会の会員社は8割が中堅・中小企業だということを踏まえると、内需の変化が与えるインパクトは大きい。その中でどう事業を継続させていくかは個社の決断によるが、収益基盤の強化に向けた業界再編や、差別化技術を生かした新分野への進出も必要になってくるかもしれない。工業会としては今後要望があれば、新たな領域への挑戦を支援する規制の改訂などで真摯(しんし)に対応したいと考えている」

――中堅・中小会員の経営支援策についてはいかがですか。

 「関連団体の電線総合技術センターを通じたこれまでの対応に加えて、関西地区では異業種の会社も含め見学し、さまざまな参考事例を学ぶ技術交流会の取り組みも始まっている。また時流に合ったテーマでニーズをいただいて、講演会を開催する取り組みも進めている。さまざまな活動をこれからさらに充実させていきたい」

――電動化や自動運転など自動車で進む技術革新についての期待感は。

 「自動車では今後、百年に一度の技術革新が起こると認識している。電動化ではワイヤハーネスの形状が変化する可能性はあるが、需要が無くなることはない。その上で電池から電動部分の間で電線や部品などの需要に期待ができるほか、充電器回りでもコネクタなどで新たにニーズが見込める。変化にしっかり対応できれば、電線業界の活性化につながるはずだ。また運転自動化や情報通信網とつながるコネクテッドカーでも会員社にさまざまなビジネスチャンスが出てくると思う。ただ内燃機関の自動車が一気に無くなることはないので、電動車とエンジン車を両にらみしながら対応していく必要はあるだろう」

――今年注力したい会活動については。

 「今年は工業会発足から70年の節目を迎える。これまで進めてきた商慣習適正化や環境対応などのテーマに加えて、記念事業として電線産業の認知度を向上させる取り組みに力を入れる。電線の存在が社会に貢献している事実を広く伝えるため、WEBサイトやパンフレットの作成に加え「電線の日」の制定も具体的に考えていきたい。電線産業について多くの人に知ってもらいプレゼンスを高めることは、業界で働く人たち一人ひとりが心をより豊かにすることにつながる。これは非常に大切なことだと思っている。またプレゼンスを高めた一つの結果として、新たな人材が集まりやすくなるという効果にも期待できる」(古瀬 唯)

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