【トップインタビュー 日鉄鉱業・佐藤公生社長】中長期の安定操業へ、石灰石鉱山に大規模投資 鳥形山の第三立坑建設に着工

――足元の事業環境と今期の展望を。

 「鉱石部門は鉄鋼、セメントといった需要先が堅調で増販基調にある。下期も粗鋼生産が堅調に推移する見通しにあり、セメント、骨材も五輪関連や首都圏での大型プロジェクトなどから良い状況が続くとみている。金属部門は足元の銅価・為替水準が続き、海外出資鉱山の操業などが順調に推移すれば業績の上振れも期待できる。ただ、買鉱条件が製錬側にやや不利な状況にあるのが懸念材料だ」

――チリのアタカマ鉱山の状況は。

 「昨年5月に近隣のコピアポ川で発生した洪水で電気系統設備に被害を受け、数カ月の減産を余儀なくされた。まだ完全復旧ではないが、足元では100%近くの操業に戻っている。アタカマ鉱山は年間降水量が非常に少ない地域だが、近年は大雨の回数が増えている。今回の教訓から選鉱場周辺に水の侵入を防ぐ土盛りや電気設備のかさ上げなどの対策をとった。昨年はフル操業を計画していたが、この洪水被害で結果的には8割台の操業になったとみている」

日鉄鉱業・佐藤社長

――ソル・ナシエンテ鉱山(チリ)の開発時期は。

 「まだ決定していないが、出鉱は少し先になるだろう。すでに破砕プラントが完成し、試験操業も完了している。アタカマ鉱山の坑内の開発状況や探鉱状況、銅価などを総合的に勘案して決定したい」

――開発準備中のアルケロス鉱山(チリ)の現状は。

 「これから坑道掘進や環境認可の取得手続きに入る。ただ、近年は許認可の取得に時間がかかる。さらに今回はチリでも鉱山の少ない第4州なので手続きに少し時間がかかるとみており、最短でも2年強かかるだろう。その作業と並行して開発に向けた準備を進め、認可が下りた時点で前に進むか決めたい。すべての条件が順調に整えば22年ごろに出鉱となる予定だ。アルケロス鉱山の近くには製錬所がないので、コスト面などを考え最適な販売先を探すが、アタカマ鉱山の鉱石の一部を販売している製錬所などが候補となる一方で、日本を含む輸出の可能性についても検討している」

――錫の探鉱案件は。

 「モロッコは錫価格の下落を受けて、当初計画よりも規模を縮小した形での最適な開発体制の検討を継続している。当社としては、銅に続く新たなメタルに参入するという大きな意義があるので、今後も前向きに取り組む。ミャンマーは権益取得の働きかけをしているが、なかなか行政手続きが進まず、まだ探鉱認可が下りていない状況だ」

――鉱石部門の競争力強化に向けては。

 「石灰石は銅と並び当社の基盤であり、他社に負けない品質、コスト競争力を磨き続けることが重要だ。事業基盤の確立という観点から将来に向けた投資は前向きに行う。その最たるものが鳥形山の第三立坑の建設だ。工事は3期に分けて実施し、昨年11月から1期工事が始まった。運用は23年を目指している。この設備投資の狙いは中長期的な安定操業と、これから優先的に開発する鉱山西側に立坑を設置することによる鉱石運搬コストの削減などだ。また、八戸鉱山でも鉱量確保を図るため、次期鉱区の開発に向けた検討を進めている」

 「鳥形山の第三立坑の工事は1期で立坑およびベルトコンベア坑道などの土木工事、2期で破砕室などの構築工事、3期で機械および電気系統設備などの設置工事を行う計画だ。完成すれば鳥形山の豊富な鉱量を有効かつ低コストで出すための体制が整う」

――機械・環境事業の成長戦略は。

 「環境部門の主力製品である水処理剤『ポリテツ』はここ数年、国内販売が毎年過去最高を更新している。今後も鉄系無機凝集剤の国内トップメーカーとして他社との差別化を図り、需要家の多様なニーズに応える高機能製品の開発に注力する。海外では韓国の合弁会社での販売も好調で、新たな製造設備の導入も決めた。今年上半期に完成する予定で、当社のノウハウ・技術を提供し、さらなる拡販につなげたい。また、ベトナム駐在所を拠点に東南アジアでの市場開拓も進める。ポリテツは国内の原料調達先が限られるので、海外で調達先を確保するなどして需要家に安心して使ってもらえる物流・生産・販売体制を構築したい」

 「機械部門は、ここ数年取り組んできた製鉄所、製錬所での集塵機の拡販活動の成果が出ている。現在は工場の上工程での採用が中心だが、今後は下工程で使ってもらえるような製品を提供し、さらなる拡販を図る。また、集じん機もフィルター原料の調達先の確保が課題の一つと考えている」

――再生可能エネルギー事業については。

 「太陽光は国内8カ所目となる釜石鉱山メガソーラー発電所第二発電所が昨年12月に運転を開始した。太陽光はこれで一区切りと考えているが、今後は遊休社有地で適地があれば小水力や風力なども前向きに検討する。地熱は21年目に入った大霧発電所の安定稼働に寄与するよう引き続き努めるとともに、大霧の近隣にある白水越でも周辺住民と話し合いながら開発に向けた準備を進めていきたい」(相楽 孝一)

© 株式会社鉄鋼新聞社