【現地ルポ】〈辰巳屋興業出資のインドネシア合弁熱間鍛造品メーカー「KDI」(1)〉一貫生産で高品質実現 機械加工能力強化も

 【バンドン発=佐野 雄紀】中部地区大手特殊鋼流通の辰巳屋興業(本社・名古屋市昭和区、社長・櫨巳芳氏)などが出資するインドネシアの熱間鍛造品メーカー「PT.KINGDAUN Industrial Indonesia(KDI)」は2014年の操業開始以来、自動車および二輪関連需要の高まりを受けて、設備増強を行いながら生産数量を段階的に伸ばしている。近年では自動車産業の国際規格を取得。品質保証体制を強化し、生産品目拡大に向けた取り組みを一段と加速するための体制を整備した。機械加工部門の増強も視野に入れる、KDIの今をルポする。

 KDIは13年、台湾の鍛造品メーカー「金鍛工業」など4社が出資して設立。西ジャワ州バンドン近郊・スメダン県に約2万5千平方メートルの用地を手当てし、翌年約1万平方メートルの工場棟を建てて稼働をスタートした。

 バンドンの主要産業は繊維であり、機械関連工場は相対的に少ない。しかし、自動車関連企業が集積するKIM工業団地などからほど近く、インドネシア第三の都市で300万人を擁し採用が進めやすい環境もあり、同所での拠点開設を決めた。

 KDIは金鍛工業の親会社、六和機械の熱間鍛造部門に位置付けられており、同社工場近隣では六和機械と井原精機(本社・岡山県井原市)の合弁会社「PT. IBARA LIOHO INDONESIA」が冷間鍛造品を生産する。

 生産品目は自動車の足回り部品や二輪車のミッション、エンジン部品、ギアーといった輸送機向け製品。これまでに20社超の納入先を獲得し、このうち90%以上が日系ユーザーだ。

 鍛造母材は機械構造用炭素鋼、クロムモリブデン鋼、クロム鋼などさまざまな鋼種をそろえ、常時1200トン程度を在庫する。愛知製鋼や大同特殊鋼などの日本材から台湾、中国、韓国材を幅広く持つことで、多岐にわたるユーザーニーズへきめ細かく対応する。

 鋸盤3台、バンドソー2台で母材を切断、加熱後に鍛造工程へ。2千トン、600トンのプレス機、2台の1・3トンハンマーで成形するが、使用する金型は設計からマシニングセンタによる製作まですべてを自社化。補修、メンテのコストダウンを図るとともに、リードタイム短縮にもつながっている。

 鍛造だけでなく、連続調質炉や連続焼準炉による熱処理、ショットブラスト、磁粉探傷など一連の工程も手掛けるほか、需要家の要請に応じて穴明けや切削といった機械加工も行う。

 なお、機械加工は現在ティア1クラスの需要家が内製するケースが多いものの、近年加工を含めた鍛造品ニーズが高まりつつある。同社は需要家の動向を見極めながら、将来的に現工場棟隣の緑地スペースへ機械加工工場を建設することも視野に入れる。

 素材から各種検査までの一貫生産体制、4社のノウハウを結集した製造技術を強みとするKDI。不良率は「0(ゼロ)NG」の品質方針の下で足元限りなくゼロに近づいており、高品質製品が需要家から高い評価を得ている。

 さらなる拡販を目指して、品質保証体制の強化にも努める。15年にISO9001を、16年には自動車業界向けマネジメント規格TS16949を取得。TS規格の改定に伴って、17年には「IATF16949」の認証を得た。

 インドネシアは、日本車のシェアが高いことから日系部品メーカーが数多く存在する一方、自動車市場の中長期的拡大が確実視される中で非日系ユーザーも次々と工場を建て、部品生産を始めている。

 日系ユーザーが大部分を占める中、KDIはIATF認証などに基づいた高品質製品を武器に非日系への採用拡大を図り、将来に向けた生産数量増につなげたい考え。

 また在籍する従業員が140人に上り、個別で指導することが難しいことから、ISOやIATFに沿った教育を展開。個々のスキルアップを促し、生産実力を高める方針だ。

© 株式会社鉄鋼新聞社