土砂災害・研究最前線~国総研・土砂災害研究部を訪ねて、その2~ ツイッター活用の画期的手法

国総研の全景(提供:国総研)

茨城県つくば市に広がる筑波研究学園都市の中核的研究機関である国土交通省国土技術政策総合研究所(以下、国総研)の土砂災害研究部を訪ねた。前回に続いて、土砂災害研究部の特筆すべき独自の研究成果を紹介する。第2弾である。

ツイッターを活用した災害情報収集システムの開発

平成26年(2014)8月20日未明に発生した集中豪雨により、広島市では土石流・がけ崩れが同時多発的に発生し、死者数75人(災害関連死を含む)を伴う大災害となった。(以下、「土木技術資料」論文(2016年、國友優氏、神山嬢子様、武田邦敬氏、山影譲氏共同執筆から引用する)。

内閣府は、広島市の災害を含む近年の局所的豪雨による土砂災害の発生状況を踏まえ、「総合的な土砂災害対策検討ワーキンググループ(以下WG)」を設置し土砂災害対策を推進するための検討を行い、WGとしての提言を取りまとめている。

提言は、以下の5つの柱で構成されている。
1.土砂災害の特徴と地域の災害リスクの把握・共有
2.住民等への防災情報の伝達
3.住民等による適時適切な避難行動
4.まちづくりのあり方と国土保全対策の推進
5.災害発生直後からの迅速な応急活動

この柱の一つとして「住民等への防災情報の伝達」がある。ここではSNS等の情報を活用して危険が高まっている箇所を推定する仕組みの構築の必要性について言及されている。

消防庁は、広島市の災害を受けて「突発的局地的豪雨による土砂災害時における防災情報の伝達のあり方」について検討を行っている。この検討報告書では、SNSへの投稿内容をリアルタイムに分析し、土砂災害の前兆現象等や災害の危険性が高まっている地域を把握する技術が実用化された際には、市町村において導入や活用の検討を行うことが重要であると指摘している。

SNS情報を活用し土砂災害の危険性の高まりを把握する技術については、國友氏らによって、人口規模が大きな地域における前兆現象等の把握や住民の心情・心理等に相当程度有効であることが既に示されている。

このように、SNS情報の警戒避難システムへの組み込みに対する社会のニーズの高まりが見られることを受けて、国総研はSNS情報(以下、ツイッター情報)を活用した災害情報収集システム(Disaster Information Gathering System Using Social Sensors、以下DIGSUSS)の試作版を開発し、ユーザーインターフェース等のあり方について検討した。以下はその結果報告である。
(国総研と株式会社富士通研究所との共同研究により得られた成果を報告したものである)

DIGSUSS運用モデルの検討

DIGSUSSの運用モデル検討に先立ち、意思決定に必要となる情報種の分類を試みる。

避難勧告等の意思決定に必要となる情報種を分類した事例を見てみると、医療分野では以下のように情報の分類がなされていることが分かった。

1.客観的な情報:血圧や脈拍など
2.主観的な情報:患者自身の言語的表現

また、医療分野においては、「主観的な情報」は、医師が意思決定を行う際に不可欠な非常に重要な情報として取り扱われている。

災害に関する情報として「どこで」「どのような状況になっているか」をツイートから把握する場合、得られる情報の内容に応じて、情報の客観性や主観性が異なることが考えられる。そこで、以下のようにツイートから得られる情報の分類を試みた。

表-1 ツイッター情報の分類

1.客観的な情報
ツイート場所と状況が具体的に分かる情報として、位置情報と写真の両方が添付されたツイートを「客観的情報」に分類した。
また、具体的なツイート場所や状況は分からなくても、それらが推定できるものを「準客観的情報」に分類した。これは、場所推定されたツイートや状況を描写したものが該当する。場所推定ができない場合でも、利用者が読めば関係する地域の者の投稿であることが大凡推測できる場合は、場所が推定できるものとして、「準客観的情報」とした。

2.主観的な情報
一方、國友氏らが避難勧告等の判断に活用できる可能性があるとした「住民の心情・心理等」を表すツイートは、場の状況を表す主観的な情報であると位置づけた。このうち、位置情報付きのものを「主観的情報」、場所推定したもの(場所推定はできない場合でも、利用者が読めば関係する地域の者の投稿であることが大凡推測できるものを含む)を「準主観的情報」と分類した。

このシステムの運用主体は、避難勧告等を発令する立場にある地元自治体(市町村)と、市町村に助言する立場にある国・都道府県の二つが考えられる。運用法が確立されるまでは当面行政内部での利用とし、一般住民の利用は検討の対象としない。
また、利用者については、それぞれの運用主体における意思決定者層(以下「リーダー」という。)と、意思決定者を補佐する者の層(以下「フォロワー」という。)の二階層が考えられる。具体的には、市町村の場合、避難勧告等の発令の意思決定を行う市町村長もしくはこれに準ずる副市町村長や部課長クラスがリーダーに当たり、これを補佐するため意思決定に必要となる様々な情報を収集し意思決定者に提供する役割を担う担当者クラスがフォロワーに当たる。
これら運用モデルの型式は図-1のようになる。

図-1 運用モデル形式の分類

DIGSUSSユーザーインターフェースの検討

前章で検討した4つの運用モデルを想定し、客観的情報・準客観的情報と、主観的情報・準主観的情報を視覚的に確認しやすいと考えられる画面構成を、まずは試験的に1つ作成し、モデルユーザーに試用してもらいユーザビリティーについて聞き取り調査を行い、改善点を確認する手法を採用した。
 モデルユーザーは、市町村の防災担当者は人員が限られていること、当該システムが集中豪雨時の使用を想定していることから、市町村単位で試用調査を行う場合、調査期間が短いと対象事象に巡り会わない可能性があるため、今回は国交省九州地方整備局、および鹿児島県に試用調査(避難勧告助言者運用型の試用)に協力頂くこととした。また、利用者については、最も頻繁に利用することが想定されるフォロワーを試用の対象とした。

試作版システムの仕様

インターフェース仕様
試用調査に用いた試作版システムの仕様を以下に記述する。システムの開発にあたり、神山様ら(2014)により、雨量や災害に関連する情報を重ね合わせ一元的に表示することが災害時の状況把握に有効とされていることを参考に、地図上にレーダ雨量とツイート情報を重ね合わせて表示することとした。また、リアルタイムにツイートをタイムラインで表示する画面と地図表示画面を並べた構成とした(図-2)。

写真を拡大 図-2 試作版システムの画面・機能内容

(1)地図表示画面
客観的情報・準客観的情報を視覚的に確認しやすいように、位置情報付きのツイート、都道府県・市町村単位で場所推定したツイートは、画面の地図上の位置にマーカで表示した。また、降雨の状況が視覚的に分かるように、地図上にレーダ雨量を重ねて表示した。主なマーカや表示情報について以下に示す。
・GPSマーカ
ツイートに位置情報が付与されている場合に、地図上の該当位置にGPSマーカ(バルーン型のアイコン)を表示する。投稿時刻からの経過時間に応じてマーカの表示色を変化させ、12時間前までの投稿を表示することとした。また、地図上のGPSマーカをクリックすると、地図表示画面上でツイート本文が吹き出しで表示され、地図上からツイートを直接確認することができる機能を設けた。
・場所推定マーカ
本文やプロフィールからツイートの投稿場所が推定された場合に、地図上の該当場所に場所推定マーカ(円形のアイコン)を表示する。場所推定は都道府県・市町村レベルで実施する。過去1時間の投稿数に応じてマーカの表示色を変化させ、投稿数が増加した際に利用者に気付きを与えるためのブザー音が鳴る機能を設けた。また、地図上の場所推定マーカをクリックすると、地図表示画面上でツイート本文が吹き出しで表示され、地図上からツイートを直接確認することができる機能を設けた。
・レーダ雨量
ツイート場所を示すマーカ(GPSマーカ・場所推定マーカ)とともに、レーダ雨量(国土交通省Xバンドレーダ・Cバンドレーダを選択)を重ねて表示した。

(2)タイムライン表示機能
特に客観性が高い画像が添付されているツイートを視覚的に認識しやすいように、タイムラインにした。表示画面では、ツイート本文に並べて画像アイコンを表示。また、タイムライン表示画面で確認した位置情報付きのツイート、場所推定したツイートの場所を地図上で確認できるように、GPSアイコン、場所推定アイコンを表示した。主観的情報については、現在の検索エンジンでは場所推定が難しいものの、利用者が読めば関係する地域の者の投稿であることがおおよそ推定できるツイートも多数存在することから、場所推定は出来ていないが、キーワードのみで抽出されたツイートも表示することとした。一方で、関心がある地域に絞ったツイートを利用者が閲覧できるように、ツイートを表示する地域を「全国(場所推定できなかったツイートを含む)」「選択した都道府県(位置情報付き、場所推定できたツイートのみ)」「選択した市町村(位置情報付き、場所推定できたツイートのみ)」を切り替え表示できる機能を設けた。以下に、主なアイコンの機能を示す。
・画像アイコン
ツイートに画像が添付されている場合に表示した。アイコンをクリックすると、添付されている画像が表示される。
・GPSアイコン
ツイートに位置情報が付与されている場合に表示した。アイコンをクリックすると、地図上の該当位置に地図中心が移動し、GPSマーカが地図上でフォーカスされる機能を設けた。
・場所推定アイコン
本文やプロフィールからツイートの投稿場所が推定された場合に表示した。場所推定アイコンをクリックすると、地図上の該当位置(都道府県・市町村)に地図中心が移動し、場所推定マーカが地図上でフォーカスされる機能を設けた。
・収集キーワード
試作版システムでは、災害に関連するキーワードをTwitter API に対して検索することで、ツイートの収集を行っている。システム上の制約により、本試用調査では、災害発生前の状況や前兆現象を捉えること、および災害事象や災害発生後の状況をいち早く捉えることに着目し、表-2に示す10個のキーワードを設定した。

試用調査の結果

フォロワーは客観的情報の収集を行う傾向にあることが分かった。これは、フォロワーは、多くの災害対応業務を行いながらDIGSUSSの使用に割くことができる時間が限られているためと考えられる。また、一般的にリーダーに対して報告を行う際、客観的情報に比べて主観的情報を伝えることが難しいことも影響しているのではないかと考える。

このため、フォロワーの利用を想定した場合、客観的情報の抽出精度をより一層向上するほか、客観的情報の視覚的な確認のしやすさ、また、把握した情報を整理・報告しやすくするための機能を追加することが望ましいと考える。

今回は、リーダーでの試用調査を行うことが出来なかったため、リーダーに対して簡単な聞き取り調査を行ったところ、主観的情報は非常時の意志決定において有用であるとの主旨の回答を得た。このような結果から、DIGSUSSの開発を進めるに当たっては、リーダー、フォロワーの双方に対して汎用性の高いものを目指すのではなく、リーダーには主観的・客観的情報の両方を俯瞰的に確認できる機能を有したもの、フォロワーには客観的情報を迅速に確認しリーダーに報告することが可能な機能を有したものといった、それぞれの利用者層に特化したものとする方が有効である可能性が高いことが分かった。
(謝辞:国総研土砂災害研究部から論文や資料の提供に多大なご協力・ご理解を頂いた)

(つづく)

 

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