痛みで箸が持てないことも…鷹の154キロ18歳左腕が胸中激白、手術回避の理由

自主トレを行ったソフトバンク・古谷優人【写真:福谷佑介】

フレッシュオールスターで優秀選手にも輝いた2016年のドラフト2位・古谷優人

 悩み抜いた末に、まだ18歳の青年は決断を下した。「手術はしたくはなかったですし、現状では投げられているので、いけるとことまでいってみようと。なので、手術はしないことにしました」。1月半ば、福岡・筑後市にあるソフトバンクのファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」で自主トレを行った後に、その胸の内を明かしたのは、2016年のドラフト2位・古谷優人投手だった。

 北海道中川郡幕別町の出身の左腕。江陵高では、甲子園出場こそなかったものの、3年夏の北北海道大会で自己最速となる154キロをマークし、一躍その名を轟かせた。準々決勝の釧路工高戦では8者連続を含む大会新記録の20奪三振を記録。同校を初のベスト4にまで導いた。

 2016年のドラフトで5球団が競合した田中正義投手に続く2位でソフトバンクが指名した。この年のドラフトで、ソフトバンクが最上級の評価を与えていたのは田中、ロッテに入団した佐々木千隼、そしてこの古谷の3人だったと聞く。それほどまでに高く評価されていた逸材だった。

 プロ入り1年目。古谷はそのポテンシャルの高さを見せていた。プロ初の実戦登板となった3軍の高知戦で最速151キロをマーク。6月17日の巨人とのファーム交流戦で2軍の公式戦に初登板すると、150キロをマークし、1イニングで2つの三振を奪った。フレッシュオールスターでは2イニングで3三振を奪い、優秀選手賞を獲得した。

指先の痺れや冷え、時に痛みが出る「胸郭出口症候群」

 2017年のペナントレース最終戦となった10月8日の楽天戦(Koboパーク)で1軍初昇格を果たしたものの、登板機会はなし。それでも、その後に行われたクライマックスシリーズに向けての1軍の紅白戦で登板機会を得ると、日本一に輝いたチームの打者陣を相手に圧巻の投球を披露。上林やデスパイネから三振を奪うなど、2イニングをパーフェクト。3三振を奪った。大物になりそう、そう多くの人に印象づけた。

 異変が見つかったのは、昨秋に行われたメディカルチェックだった。それまでにも指先の痺れや痛みを感じることがあったという古谷。検査の結果「胸郭出口症候群」と診断された。2017年にオリックスの助っ人フィル・コーク投手も患った病で、鎖骨と肋骨の間などで、腕神経叢(わんしんけいそう)や鎖骨下動脈が圧迫されることによって、指先の痺れや痛みが出るもの。さらに、古谷の場合は、指先の血管にも詰まりがあり、ここでも血行障害を起こしていた。指先にはヒンヤリとした感覚があった。

 昨秋の秋季キャンプには不参加。経過を観察し、医師には手術を勧められたという。手術を受ければ、全治3か月を要する。しかも、手術をしても100%完治する保証はないという。12月に検査入院した際に、手術を受けるか否かの決断を迫られた。「手術をしても、治る保証はない。治らなくて投げられなくなってしまったら……。現状では投げられているので、やれるだけやって、その間にしっかり結果を出していこうと考えた」。導き出したのは手術回避、投薬による治療だった。

指先の血管にも詰まりが見つかるも、投薬治療を選択「手術しても治る保証はない」

 将来性は確かではあるが、まだ何の結果も出していない身。置かれる状況に、心のどこかしらに不安があったのも事実だ。「2018年はいろんな意味で勝負の年ではあると思います。今年、1軍で投げられてある程度の結果を残すことが出来れば、仮に後々、手術となっても多少の猶予は与えてもらえるのかな、とも思いますし」。まだルーキーイヤーが終わったばかりだが、有望な若手がひしめくソフトバンクだけに危機感も強かった。

 症状は日によって、まちまちだ。全く影響がない時もあれば、以前には痛みで箸が持てないこともあった。血流の通いが悪いため、指先の血マメの回復は遅く、爪の伸びも遅いという。血管が縮みやすい寒い冬場には症状が出やすいとされるが、それでも、「最近は調子がいい」という。

 2月1日のキャンプインに向けて、現在はファーム施設で自主トレに励んでいる。話を聞かせてもらった日も、1歳上の小澤怜史と100メートル近い遠投をビュンビュンと投げていた。

「今年1軍で投げられたら最高ですけど、それよりもまず、シーズンを通して投げきれる身体を作りたいですね」

 病と付き合っていくことを決めた古谷優人。そのポテンシャルは疑いようのないほどに高い。だからこそ、何事もないままに日々が過ぎ、野球に専念できることを願いたい。

(Full-Count編集部)

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