【現場を歩く】〈東京製綱・土浦工場〉鋼索・鋼線の基幹製造拠点 大規模な設備投資を推進、国際競争力を強化

 東京製綱の土浦工場(茨城県かすみがうら市)は1970年(昭45)の開業以来、グループにおける鋼索(ワイヤロープ)・鋼線(ワイヤ)の基幹製造拠点として広く需要家に製品を供給している。半世紀近い生産活動で培った技術や技能を国内外の工場に移転・継承する一方、足元では生産競争力の強化に向けた戦略的な設備投資が進む。(中野 裕介)

出荷先の需要分野、すそ野広く

 首都圏から北東方向に走るJR常磐線沿いで、日本で2番目に大きい湖、霞ヶ浦を望む一角に土浦工場は立地する。周囲は住宅や田畑、事業所の間を縫うように、全国で最も収穫量が多い栗の農園が点在する。

 土浦工場の敷地面積は約27万5千平方メートルで、うち工場建屋は全体で9万2千平方メートル程度に上る。技能職と事務職を合わせて総勢350人規模(協力会社を含む)の人員体制で操業し、国内では堺工場(堺市西区)と東西の市場を捕捉する。

 複数の棟が連なるかたちで構成する工場建屋は、天候が生産工程に影響しないよう、母材である線材の搬入から、焼入れ・洗線・伸線・めっき、より線(素線をストランドに撚る)・集束、製綱(ストランドをワイヤロープに撚る)・巻き取り、端末処理、製品の出荷までの流れを同一構内で完結できる造りになっている。

 鉄鋼・機械、土木・建築、運輸・港湾―。これらは土浦工場が携わる需要分野の代表例であり、ワイヤロープ、ワイヤとも出荷する向け先のすそ野は実に幅広い。検品に使う試験片を取り付ける位置やワイヤロープを巻きつける木枠の指定をはじめ、多岐にわたる顧客からの要望をめぐるきめ細かな対応力も「多品種小ロット」の発想に基づき、信頼に応えて製品を取り扱う土浦工場ならではの「強み」に挙がる。有限な在庫スペースに対し、独自の管理システムを通じて、出荷を控えた製品の保管能力を最大限に引き出す。

生産リードタイムの短縮を実現

 もっとも需要分野によって繁閑の動きはさまざまだ。いかに市場動向に左右されにくい、負荷弾力性に富んだ機能的な生産ラインを構築していくのか。20年3月期を最終年度とする中期経営計画で「トータル・ケーブル・テクノロジーの追求」を掲げ、20年以降の持続的成長に向けてグローバル市場での競争力強化に取り組む中、土浦工場では操業度の平準化や柔軟な納期対応などを念頭に生産リードタイムの短縮の実現に舵を切る。

 東綱は中計期間の3年で総額131億円の設備投資を想定し、うち60億円(年平均20億円)をグループで展開する国内工場の設備維持・更新などに充てる。土浦工場では、最新鋭でこれまで以上にコンパクトかつハイスペックな伸線やより線の加工機械を新増設してライン速度を引き上げるほか、潜在需要が見込まれる太径で高強度の橋梁用ワイヤにも対応する。すでに基礎工事が始まっており、順次本稼働に入る。

機能的な生産ライン構築/きめ細やかな対応力「強み」

研究所を併設、現場と連携

 土浦工場の敷地内には、製品の強度などを測定するエレベータの実機を備えた研究所を併設する。研究と開発、生産の現場が日々の製品供給に関わるさまざまな連携から、将来を見据えた新商品の市場投入までを横断的に手がけ、鋼索・鋼線における東綱グループのマザー工場に位置づけられる所以だ。多くの需要家や教育機関との共同研究にも積極的に参画し、従来の製品や発想にとらわれることなく、先進性に富んだ製品の創出を追求する。

 土浦のDNAは、時間や地域を越えて息づく。07年からベトナム・ホーチミン市近郊で操業するエレベータ用ロープ工場「東京製綱ベトナム」はその一例。土浦から受け継ぐ技術や設備によって、高品質な製品の安定供給を実現し、アジアでトップに立つハイエンドのエレベーターロープ市場で存在感を発揮する。

 世代交代が進む土浦では、動画を取り入れた教材や技能の研さんに主眼を置いたコンテストの企画などにも目を向ける。

 土浦工場は前述の通り、開業以来屈指の大規模な設備投資で、名実ともにさらなる飛躍への礎が築かれようとしている。高機能で高付加価値な商品の開発や供給を通じて、グループの成長をけん引するとともに、安全で安心な市民生活を支える社会インフラ整備の一翼を担う。

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