“その子自身”を捉えて見守る看護師の役割―小児がんを考える③

小児がんをはじめ、重篤な病気のケアには医師以外にも様々な職種(多職種)が携わります。多くの専門家が患者さんを多角的にフォローすることで、患者さんがその子らしく生きることを支えているのです。

国立成育医療研究センターの場合、小児がんの子どもたちを多職種で支える「こどもサポートチーム」のカンファレンス(会議)を取りまとめるなど、中心的な働きを担っているのが緩和ケア認定看護師の木須 彩さんです。こどもサポートチームの取材連載、今回は木須さんにお話を伺いました。

お話を伺った方:国立成育医療研究センター 木須 彩さん
独立行政法人国立成育医療研究センター 緩和ケア認定看護師。
こどもサポートチームには立ち上げ時から携わっている。

※写真:国立成育医療研究センター 病棟内のナースステーション

まずは患者さんと親御さんに安心していただく

―はじめに、小児がん病棟での看護師さんの役割について聞かせていただけますか?

最初の役割は、ご家族のICインフォームド・コンセント:治療法などについて患者さんが医師から説明を受け、正しく理解・納得して同意すること)に同席してサポートすることです。

診断のとき、ご家族は頭が真っ白になってしまいます。医師は話したつもりでも、ご家族は聞けていないケースが結構あるんです。私たちは、最初に家族が受けた衝撃や辛さに対してワンクッションを置きつつ、ご家族のフォローをさせていただくとともに、医師の話をどのように理解されたか確認しながらサポートしていきます。

看護師は医学的な知識も持っていますし、社会的・精神的問題もアセスメント(評価)できます。(スピリチュアルな面も含めて)4側面からアセスメントするのが看護師の役割です。ですから入院時には、お子さんの家族背景や、「今までどのように過ごしてきたか」「どういう病識があって、どういう形で入院しているか」といった部分を踏まえ、問題点をピックアップします。痛みや症状のケアや食事の形態などの身体面、本人やご家族の気持ちなどの精神面、学校のことなど、必要な箇所と連携を取るのが診断時の役目です。

治療に入ってくると、例えば化学療法では、看護師は事前に「この治療ではこういう副作用が出る」と把握しているので、そこへの予防的な介入を行います。脱毛やボディ・イメージの変化も、起こってからアプローチするのではなく、「こういうことが起きるかもしれない」と事実を伝え、前もってウィッグの希望を聞くなど、症状や治療に合わせて予防的に介入していきます。治療に伴う吐き気や便秘などは全て分かっているので、食事や排便コントロールといった環境整備も行います。

治療終了期は、社会復帰へむけた準備を行います。復学や自宅の環境、在宅医療で何が必要かといったアセスメントも看護師が行った上で、多職種と連携していきます。

 

―患者さんが病棟に入るときは、最初に木須さんと面談をされると伺いました。その面談は、どのように進めていますか?

(小児がんの患者さんは)突然の入院であることが多いので、ご家族とご本人のお気持ちを聞きながら進めます。ご両親だけでは「何をどうしたら良いか分からない」という面があるので、「こどもサポートチームでお力になれることもあるかもしれないので、一緒に考えさせてもらってもいいですか?」と伝え、まずは安心感を持っていただきます。ある程度喋れるお子さんや、病名を告げられているお子さんの場合、ご両親の了解を得た上でご本人に話を聞くこともあります。

一番大切なのは、ご本人とご家族の気持ちです。ご本人が今まで何を大事にしていて、どういう生活をしてきて、ご家族は子育てにあたって何を大切にしていて…といったことを知らないままで医療ケアを提供すると、絶対にズレが生じてしまいますよね。

例えばご家族に「辛いことがあった時、ご飯を食べられなくなることはありますか」と聞くと、そこから「実はちょっと鬱傾向で…」と把握できる場合があります。ご本人の症状に関しても、「痛みがある時に、どうすると痛みが和らぐことがありますか」など確認することが、症状マネジメントに繋がっていくんです。

家族や子どもたちだけで抱え込まず、「みんなで考えていきますよ」と伝えた上で安心していただき、「大切にしているもの」「入院中に気にかけてほしいこと」をお聞きして、そこから家族背景・身体症状などを踏まえて問題点をピックアップしていきます。

 

―診断されてすぐ、ショックを受けている親御さんにお話しされるとき、意識していらっしゃることはありますか。

一方的に喋らないようにはしています。医師のICは、事実を伝える必要があるものですし、多くの説明が入るんです。でも、実はご両親やご本人には、「こういうことが不安です」「こういうことが分かっていません」と言える場があまりないんですよね。なので私の場合、「○○さんのことを理解して医療を提供したいので、お話を聞かせていただけますか」という感じで、間も持たせつつ、ゆっくり聞くようにしています。

 

―お子さんの病気について、親御さんから質問を受けることも多いのでしょうか。

多いですし、そこが診断時における看護師の大きな役割だと思います。

看護師は病状や治療、ICの時に医師がどういう話をしたかも把握した上で面談を行うので、そこはフォローしています。ICでは皆さん、頭が真っ白になるので、先生にその場で質問できないことが多いんですよね。ですから、「もう少し落ち着いたらもう一度先生からお話が必要かな」など調整します。

実際のところ、「うちの子、退院したらどうなりますか」など、診断直後には答えを出せないような質問をされることも多いです。問題を一緒に整理して、「退院後のことは、この時期に主治医ときちんと話しましょう」とお伝えします。ご家族も、すぐに全部を考えられるわけではないですからね。

家族・本人・医療者のコミュニケーションが大切

―医療者と患者さん、あるいは医療者同士のコミュニケーションを円滑に進めるために心掛けていることはありますか?

そこが一番のキーで、かつデリケートな部分でもあります。緩和ケア認定看護師の資格取得の際には、コミュニケーションの授業がとても多いんです。親御さんやお子さんの感情表出を促進させるコミュニケーションスキルがないと、面談は難しいかもしれません。

加えて、一番難しいのは、多職種がそれぞれの役割を果たすために調整を行うことかもしれません。カンファレンスの中で意見交換を促したり、医師と多職種との間にズレがあったらケースカンファレンスを行ったり。医師だけの考えで進んでいくべきものでも、多職種だけで進んでいくものでもなく、みんなが同じ方向を向けるように調整するのが私の役割だと思っています。一方的な医療にならないように、ご家族とご本人、それに病棟スタッフとでコミュニケーションを取っています。

 

―病棟のお子さんと接する際は、どのようにコミュニケーションを取っていますか?

小児の場合、それまでの養育歴や保育園・学校での様子がとても大切です。その子の成長発達を促しながら、できることは治療中であってももちろんやっていただきます。とにかく、成長発達や入院までのことを考えながら、退院後の社会生活へなるべくスムーズに移行できるよう関わっています。

 

―治療にあたり、看護師や医師を怖がってしまうお子さんもいらっしゃると思います。そういうお子さんに接する際、何らかの工夫をされているのでしょうか。

薬を服用するとき、気持ち悪かったり口の中が口内炎だらけだったりすると、お子さんご本人は飲みたくないですよね。それがすごく嫌なことというイメージはあるかもしれません。でも、治療中はやるべきことはやる必要があるので、その役割分担を明確にしています。

例えばあることに関して「嫌な処置は看護師が行って、その後にご家族やチャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)がフォローをして」と進めることがあります。チームで看ていく形ですね。役割分担が明確になっていないと病棟スタッフも、ご家族もご本人も戸惑うので、そこはしっかり行っています。

 

―お子さんを看るときには、どういうことに注意していますか?

入院時の面談で、その子のそれまでの生活のことを全部聞いていますよね。それを踏まえると入院中、今までと違うところを捉えられることがあります。家族や看護師の意見がとても大切なので、症状アセスメントの時には現場の家族や看護師、また自分の症状を話せる子の場合は子どもの声必ず聞くようにしています。

行っている治療に対しては、予防的なアセスメントがあります。それに対して、例えば気持ち悪くなるお薬があるとすれば、「この薬が入るから気持ち悪くなるけれど、食事の量はどうだったかな」とか、口内炎ができやすい薬があるのであれば最初から口腔内を綺麗にして保護してあげようとか、そういったケアを行いながら、その子がその子らしく生活できるようにしています。

痛み一つ取っても、人によって感覚が違いますよね。だから、本当にその子を捉えないとアセスメントもケアもできません。そこを、初診段階・診ていく中での段階、と全て捉えていきます。

一人ひとりを捉えるのは大変に思えますが、こどもサポートチームのカンファレンスには30人ほどが自主的に集まっています。みんながきちんとアセスメントを持っていて、ちゃんと方向性を統一したいと思ってくれているので、ものすごく大変というイメージではありません。

 

一人ひとりの意思を尊重できるように

―治療の終了期についてお聞きします。退院や復学に際しては、どんなケアをしていくのでしょうか。

治癒ができた患者さんでは、学校や社会生活に戻るために、ソーシャルワーカーを中心にケースカンファレンスを行いながら調整していきます。

また、終末期の場合、病棟、家族、本人、主治医でケースカンファレンスを行います。特に、思春期以降の患者さんは明確な意思を持っていることが多いです。アドバンス・ケア・プランニングといって、患者さんが意思を伝えることができなくなる前に、その人の意思が最期まで尊重されるよう、自分の病気についてどこまで知りたいか、それを誰から伝えてほしいか、何を大事にしたいかということを聞くので、それを尊重しながら療養生活を調整していますね。予後も治療も全部知りたいという子も多いので、主治医から病気や今後のことをお話しすると、「怖いから病院にいたい」「家で過ごしたい」と明確に話してくれるので、そこも合わせて調整します。

 

―患者さんご本人の意思を何より尊重されているのですね。

赤ちゃんであっても、そこは絶対ですね。話すことができない患者さんの場合はご家族と話し合いますし、話せるお子さんの場合は本人がどこまで知りたいのかを踏まえ、その子の意思を尊重できるように関わっていきます。

話せないお子さんの場合も入院前の生活のことは初回面談で聞いているので、本人が何をしている時に楽しそうかとか、「◯◯ちゃんはこういうことを望むかもしれないね」と、入院前や入院中の生活でキャッチできた部分を話し合っています。

あわせて、ご家族がご本人に対してどうしたいかも確認します。終末期の患者さんの治療や療養生活は正解のないものなので、話し合うことに意味があると思うんですよね。家族が下した苦渋の決断を「本当にこれで良いのか」と悩むときに、その決断を支持するという形を取っています。

 

―小児がん病棟の患者さんを支えるお仕事の中でのやりがいは?

私は、子どもたちにもちろん治癒してほしいと思っています。でも、治癒できてもできなくても、その子が大切にしているものを私たちもきちんと大切にできて、なおかつその子らしくいられると感じたときに「これで良かったのかな」と思えますね。

私は終末期の患者さんもたくさん看ているので「本当にこれで良かったんだろうか」と悩むこともあります。でも、苦しかったとしても家に帰れて良かったとか、外来に来ている、大変な思いを共有していた患者さんが「学校が楽しい」と言って、私たちのことを忘れるくらい頑張っている姿を見ると、本当に良かったなと思いますね。

 

―看護師として、小児がんについてもっと知ってほしいと思っていらっしゃることはありますか?

とにかく、いろんなサポートができるので、一緒に考えていけたらなと。ご家族だけ、ご本人だけで抱え込まないで、みんながその子らしく過ごせるようにサポートするので、抱え込まずに相談してほしいですね。

成育にはCLSやリハビリ技師をはじめ、様々な職種のスタッフがいます。問題が生じてからではなく、診断時からの早期介入を行うので、サポートチームができて以降、大きな困難は生じていないんですよね。地域の病院だと看護師さんの役割がすごく多くて大変だと思うんですが、成育には相談窓口もあるので、電話していただいても良いし、みんなでやっていけたらと思っています。

 

編集後記

小さなお子さんが病気になった場合、一般的に、意思決定の中心になるのは保護者の方というイメージが大きいと思います。しかし木須さんは、言葉も話せないような年齢のお子さんであっても本人の意志は絶対に尊重されるべきだと強調していました。

「あなたらしく」と一口で言ってしまうと簡単ではありますが、そのために尽力する看護師さんの役割は決して楽なものではないでしょう。コミュニケーションを密に取りつつ、入院時から治療終了期まで患者さんを支える看護師さんは、患者さんにとってきっと心強い存在だと思います。

次回は、チャイルド・ライフ・スペシャリスト、伊藤 麻衣さんのインタビューをお送りします。

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