【トップインタビュー DOWAホールディングス・山田政雄社長】多様化する素材ニーズに対応 リサイクル技術で循環型社会に貢献

――今期の展望からお願いします。

 「4~9月期は当初計画を上回り、10~12月期もやや上振れる水準で推移している。ただ、我々のビジネスは為替や金属価格の変動影響を大きく受ける。また、亜鉛のように買鉱条件の変化で金属価格の上昇がそのままプラスに働くわけでもない。そういった観点から通期予想は慎重にみているが、ここまでは全体的に良い見通しだ」

 「先行きは読めないが、自動車産業やスマートフォンをはじめとする電子産業は足元の動向でみる限りそれほど大きな変化はないと思う。こうした状況が続けばありがたい」

――今期が最終年度の中期計画の評価は。

DOWAホールディングス・山田社長

 「当社の中計はどういった施策を実行し、具体化するかをベースに、結果として数字がついてくるというのが全体のフレームワーク。数値目標は当然あるが、外部環境の変化が激しい業界なのでそれをメーンには打ち出しにくい。そうした中で現状では当初に掲げた中計の利益目標の達成は難しい見込みだが、それほどかけ離れた結果にはならないと思うし、やるべきことはやってきた。中身には満足している」

 「この中計期間を通じて成長に向けた種はまけたと思う。その種がいつ果実になるかといえば、例えば鉱山投資や環境事業のように少し時間を要するビジネスもあるが、具体的な施策を堅実に実行し続けてきたリターンは確実にあるはずだ」

――環境・リサイクル事業では東南アジアを中心に拠点の拡充が進んでいる。

 「原油価格の低迷で原油関連の廃棄物処理量がやや足踏みしているが、既存の産業廃棄物の処理量は期待以上に増えており、東南アジア全体としてみれば、おおむね巡航速度にのっている。昨年にはシンガポールで新たな焼却炉が稼働し、インドネシアやタイでは新規処分場の建設に向けて検討を進めている。こうした計画を一つ一つ積み上げていくという方針に変わりはない」

――低濃度PCB処理事業も拡大している。

 「処理業者も増えてきたので国内最大の処理能力を有するという強みを生かしながら対応していく。昨年には受け入れられる範囲を広げるため、岡山で事前解体能力も強化した」

――亜鉛製錬事業では不純物対応力強化と年産22万トン体制の確立を推進している。

 「採算が合うことが前提だが、鉱石やリサイクル原料に含まれるさまざまな元素を可能な限り回収できる体制を強化したい。一方で亜鉛鉱石も品位が低下傾向にあるため、処理量を増やそうとすれば不純物も増える。そうした中で製錬工程での不純物対応も課題の一つだ」

――メキシコのロス・ガトス鉱山の開発で亜鉛の自山鉱比率が40%となる見込みだが、目標とする50%に向けた鉱山投資の考え方は。

 「良い案件があれば検討する。鉱山と製錬は一気通貫なので今後の鉱石需給を考えれば、できる範囲で自山鉱比率を高めたほうが良いだろう」

 「米国のパルマーについては引き続き探鉱を進めている。ある程度まとまった鉱量に達しているが、さらに探鉱して埋蔵鉱量がこれはというレベルとなれば具体的な開発に移ろうと考えている」

――自動車廃触媒からの白金族金属回収を強化している。

 「処理炉の更新や増強を実施し、それがある程度一巡しつつあるが、国内外からの集荷状況に合わせて引き続き設備増強も実施していく。原料集荷面では昨年初に北米の集荷会社を買収し、集荷ネットワークを強化した」

――新中計では電子材料事業への積極投資を計画している。

 「当社は磁性材料や太陽光パネルの銀粉など、ある領域の中で高いシェアを有する製品をいくつか持っているが、そうしたものと同様に、今後の電気自動車(EV)化や自動運転などの流れの中で多様化・高度化する素材へのニーズに対応していく準備をさまざまな形で進めている。そうしたものを一つ一つ丁寧に仕上げていきたい」

――金属加工事業でも車のEV化などが追い風となるのでは。

 「そうなればありがたいが、まだどうなるか見えないのが正直なところ。一方で多くの需要先が海外での現地調達が基本となっている。そこに対して当社の素材、加工品が具体的にどう対応していくかが重要だ。世界中に広がる需要家の生産に対して、当社がどういった役割を果たせるかを冷静に見ていく必要がある。当然ながらそれに対応できるだけの体制構築は着々と進めている。国内を筋肉質にしつつ、海外での現地生産・加工、材料調達というニーズにどう対応していくかを具体的なやり方で着実に実行していくしかない」

――底堅さと成長性を兼ね備える会社というテーマも掲げている。

 「現状では外部環境の影響を受ける事業とそうではない事業が上手く補完しあう事業ポートフォリオが整いつつあり、比較的安定した収益構造となっている。これを従来以上にとは言わないが、引き続き事業基盤の強化と成長に向けた経営資源の積極投入という方針を変えずに取り組んでいく」

 「当業界は長い歴史を有する会社ばかりで、これは各社ともベースとなる鉱山、製錬を残しつつ、時代の変化に合わせ、それぞれの特色を生かしながらプラスアルファを加えてきたのが生き残ってきた一つの要素だと思う。現在も鉱山、製錬で培われた技術はさまざまな分野で応用されているが、特にリサイクルで当業界が果たす役割は大きい。引き続き循環型社会の構築に貢献できるよう、全体の輪を上手くつなげ、事業として存続できるような形でさらに積み重ねていければ良いと思う」(相楽 孝一)

© 株式会社鉄鋼新聞社